音楽ナタリー Power Push - 米津玄師

桐山零と自分を重ねて

誰の味方にもならないことによって、すべての人に優しくありたい

──そして2曲目の「ララバイさよなら」は「orion」とはまったくテイストの違う曲で。ささくれた感情や怒りなどが表現されて、不穏な空気感が漂っています。

この曲に対して何か言葉を尽くさないといけないというのは、なかなか苦しいですね(笑)。怒っているという感覚ではなく……うーん、人を信用していないだけかな。これはずっと自分の中の根本的な原動力だったりもするんですよ。人のことをあまり信用したくない自分がいる。誰の味方にもなりたくない。誰の味方にもならないことによって、すべての人に優しくありたい。以前は特にそういうふうに思って生きていたところがあって……人を信用しないために人を信用するとか、人を信用するために人を信用しないとか、そういう感覚があります。これが僕の基本原理。そんな“エンジン”を子供の頃に自分の中に作ったんですよ。

──なるほど。

それが今なお強く残っていて、それを原動力として音楽を作っている自分がいます。だからこそ「orion」制作後にこういう曲を作ることによって、自分の中で1回心をフラットにしておく必要があるんです。

真摯に“子供だまし”をやっていこう

──では米津さんは求められているもの、作りたいもの、作るべきもののバランスをどう考えていますか?

米津玄師

そこに関しては右往左往しながらやっていますね。バランスを取ればいいのか、はたまたバランスを取らないほうがいいのか。例えば「orion」は、「3月のライオン」のための曲です。その物語や登場人物、絵のタッチから導き出された曲。そこに対して自分のやりたいことやエゴはあまりなくて、あったとしても忍び込ませられるところにそっと忍び込ませている感覚。少なくとも現時点においては、バランスは取れている気がします。

──そうなんですね。そうやって作られる米津さんの音楽は刹那的で、激しい感情が美しく輝いているようにも感じます。

音楽はそういうふうに、ある種簡単に人を感動させてしまう。映画が2時間かかるところ、音楽は5分あれば人生を左右させてしまうことも時にはあって。でもそれはものすごく危険なことですよね。だって、くだらない音楽ってあふれているじゃないですか。そんな音楽を受け取って、子供たちはすぐにだまされちゃう。言うなれば“子供だまし”でもあるんですよね。そしてある面では、自分もそこに加担している。うん……だから、本気で子供だましをしないといけないんです。“人をだます”と言ってしまうとすごくネガティブに捉えられてしまうかもしれませんが、音楽はそもそもそういうものだと思う。

──確かにそうですね。

歌詞を書いていて、いつも思うんです。「詩的な表現って嘘と密接だな」って。だってファンタジーは嘘じゃないですか。ファンタジーという架空の世界を作ることによって、現実のあやふやな社会を同時に浮き彫りにさせる構造があるんです。

──はい。

「嘘を付くことによって誰かを救える」んです。だからこそ、その嘘に対してはすごく敏感でいなければならない。その重大な責任があるんですよ。例えば自分の中に音楽の神様がいるとして、その神様が「あっちへ行きたい」と言うのであれば、僕はそちらへ向かうために全力で奉公する立場でないといけないというか。軽々しくは言いたくないですが、音楽に対して、やっぱりものすごい愛情があって。せめて自分ぐらいは、真摯に“子供だまし”をこれからもやっていこうと考えています。

ニューシングル「orion」 2017年2月15日発売 / Sony Music Records
オリオン盤 / 通常盤ジャケット
オリオン盤 [CD] 1836円 / SRCL-9313 クリアシート+ハードカバー仕様
通常盤 [CD] 1296円 / SRCL-9316
ライオン盤 [CD+DVD] 1836円 / SRCL-9314~5 紙ジャケット仕様
CD収録曲
  1. orion
  2. ララバイさよなら
  3. 翡翠の狼
ライオン盤DVD収録内容
  • 「3月のライオン」第2クール エンディング ノンクレジットムービー
全形態共通・初回盤特典

7月14日(金)、15日(土)に東京・東京国際フォーラム ホールAで行われるワンマン公演「米津玄師 2017 LIVE / RESCUE」 チケット最速先行応募券

応募期間
2月14日(火)12:00~2月19日(日)23:59

米津玄師(ヨネヅケンシ)

男性シンガーソングライター。2009年より「ハチ」という名義でニコニコ動画にVocaloid楽曲を投稿し、総合2位の「マトリョシカ」をはじめ数々のヒット曲を連作。2012年5月に本名の米津玄師として初のアルバム「diorama」を発表。全楽曲の作詞、作曲、編曲、ミックスを1人で手がけているほか、アルバムジャケットやブックレット掲載のイラスト、アニメーションでできたビデオクリップも自身の手によるもの。マルチな才能を有するクリエイターとして注目を集めている。2013年5月、シングル「サンタマリア」でメジャーデビュー。2014年4月に米津玄師名義としては2枚目のアルバム「YANKEE」を発表し、6月には初ライブのワンマン公演を東京・UNITで開催した。2015年8月には「ROCK IN JAPAN FESTIVAL 2015」で野外フェス初出演を果たす。10月にはアルバム「Bremen」をリリースし、2016年1月からワンマンツアー「米津玄師 2016 TOUR / 音楽隊」を実施した。またルーヴル美術館特別展「ルーヴルNo.9 ~漫画、9番目の芸術~」の公式イメージソングとして、新曲「ナンバーナイン」を書き下ろし、同年9月に両A面シングルとして「LOSER / ナンバーナイン」をリリース。10月には中田ヤスタカとタッグを組み、映画「何者」の主題歌「NANIMONO (feat. 米津玄師)」を発表、12月には初の単行本「かいじゅうずかん」を発売した。2017年2月15日にテレビアニメ「3月のライオン」のエンディングテーマを表題曲とする「orion」をリリースする。