ナタリー PowerPush - 米津玄師

「殴り合ってでも人と関わりたい」メジャー2作目に込めた思い

米津玄師がメジャー2ndシングル「MAD HEAD LOVE / ポッピンアパシー」を10月23日にリリースする。

ボーカロイドプロデューサー「ハチ」としての活動や初の本人名義アルバム「diorama」のリリースを経て、今年5月にシングル「サンタマリア」でメジャーデビューを果たした米津。彼はメジャーデビュー後の自身について「表現への向き合い方が大きく変わった」という。

その「サンタマリア」に続く作品としてリリースされる、“表裏一体”をコンセプトに掲げた「MAD HEAD LOVE / ポッピンアパシー」はどのように生まれたのか。そして、クリエイターとして彼はどこに向かおうとしているのか。じっくりと語ってもらった。

取材・文 / 柴那典

 
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「サンタマリア」が大きな転機になった

──今回のシングルの制作のきっかけは?

「サンタマリア」の次に何をするか考えたことがとっかかりでした。「サンタマリア」がすごくプレーンな曲になったんで、その反動じゃないですけれど、次はアクの強いものを作ろうと思ったんです。

──以前から米津さんは、インタビューなどで「サンタマリア」は大きな転機になった作品だったと語っていますよね。

そうですね。なにかにつけて「『サンタマリア』の前か後か」という基準で自分を考えるようになったくらい、ものすごく大きな転機になっていて。大袈裟に言えば、キリストが生まれる前か後かみたいな(笑)。「サンタマリア」はそんな存在の曲にはなってますね。

──もちろんメジャーデビューシングルということもありますが、「サンタマリア」はどういう意味で大きな曲だったんでしょう?

「diorama」というアルバムを出してから「サンタマリア」を作り始めるまで1年くらい時間があったんですけど、「diorama」を作ったあと、ちょっと燃え尽きちゃった感じがあって。自分はもともと誰かに認められたい欲求がものすごく強い人間で、それが創作意欲の大きな部分だったんですね。でもそれが「diorama」を出したことによって1つの形になった。自分の声で歌って、それをCDにして全国の人に届けるというのが子供の頃からの憧れの1つでもありましたし。だからアルバムが完成したときに、ちょっとした達成感もあったけれど、どこかに「こんなもんか」という感じもあって。それで曲を作ることに対する意欲がそれまでに比べるとガクッと落ちちゃったんです。

──それが「サンタマリア」を作る前の時期だった。

はい。「diorama」から「サンタマリア」までの間はほとんど何もせず、なんとなく本を読んだり自分のことを考えたりしていたら季節がすぎていって。でもそれが続いているうちに、「これじゃダメだ、こんな廃人みたいな生活をしていたら取り返しのつかないことになってしまう」って思うようになっていったんです。それでまた曲を作ろうと思ったんですけど、それでも何をしていいのかわからなくて。今思えば、その時期は自分のことを見つめ直す時間だったと思います。で、見つめ直した結果、自分には至らない部分が多分にあって、それを解消しなければこの先健康的に音楽を作っていくことはできないと思って。それを解消するために作ったのが「サンタマリア」だったんです。

米津玄師

──「サンタマリア」は自分自身の葛藤に1つの答えを出したような曲だったんですね。

はい。

──あのシングルは、ハチ時代の曲や「diorama」の作風に比べて非常にストレートに“美しい楽曲”として形になった。そこは大きな違いだと思います。ああいう曲を作ったことで、満たされた感じや、創作意欲にさらに火がついた感じがありましたか?

確かに「サンタマリア」は、自分としてはそれまでと全然違うことをやったんですね。でもあの曲を作ったことによって、音楽的に満たされることはなかったです。それとあの曲を出したとき、それまで自分の音楽性を好きでいてくれた人たちには望まれていなかった部分があることも肌で感じて。だから“申し訳なさ”もあったけれど、一方でそれに対する反発も自分の中に大きくなっていった。それがいい意味で自分が前に進む力になった感じはあります。

──先ほど「サンタマリア」完成前と完成後の感覚について「キリストが生まれる前か後かみたいな違い」と言ってましたけれど、それはどういう変化だったのでしょうか? “ビフォーサンタマリア”は「diorama」以降の悶々としてた時期もハチ名義でニコニコ動画に作品を投稿していた時期も含まれる?

はい。

──ではそれに比べて、“アフターサンタマリア”ではどう変わったのでしょう?

それ以前は、自分は自分のやりたいこと、やってて楽しいこと、快感を覚えることにものすごく忠実で、「それ以外はやらない」「それ以外は知らん」っていう生活を送っていました。でも「サンタマリア」を出した後は、そういう自分に制約を設けるようになった。自然とそうなったっていうより、そうしなきゃいけないと思うようになって。だから「サンタマリア」前後の明確な違いって、自分の気の持ち様なんです。音楽的な表現で明確に変わったところはそんなになくて。

自分の得意分野をふんだんに使って曲を作ろうと思った

──ここまでの話を踏まえて、新作について伺います。まず2曲とも「サンタマリア」とは全然違うタイプの曲である。これはそもそも「サンタマリア」が大きな意味合いを持った曲である以上、それと同じような曲をどんどん作ってくださいと言われても困る話だということですか?

そうですね。できないですね、それは。

──では、今回のような2曲ができたのは?

まず「サンタマリア」でそれまでとまったく違うことをやったので、次は自分の得意分野をふんだんに盛り込んで曲を作ろうと思って。で、できあがってみればこういうものになった。

──その米津さんの“得意分野”というのを、改めて音楽的に分析していきたいんですけども。米津さんの作る曲って、まず和音の重ね方が独特だと思うんです。普通だったら不協和音だと思われそうな音を使う。しかもリズムもガチャガチャしている。でも、それがノイズではなく、非常に刺激的でなおかつ心地いい響きになっている。その点がハチ時代からの米津さんの音楽的な武器だと思うんです。

なるほど。

──そういう部分って、誰かから影響を受けたり学んだりしたものなんですか?

不協和音みたいな部分に関しては、自分では明確に何かから影響を受けたっていうのはまったくないんです。だから、どこから出てきたのかって言われるとまったく自分ではわからなくて。

ニューシングル「MAD HEAD LOVE / ポッピンアパシー」 2013年10月23日発売 / UNIVERSAL SIGMA
「初回限定盤」[CD+DVD] 1890円 / UMCK-9639
「初回限定盤」[CD+DVD] 1890円 / UMCK-9639
「通常盤」[CD] 1260円 / UMCK-5447
CD収録曲
  1. MAD HEAD LOVE
  2. ポッピンアパシー
  3. 鳥にでもなりたい
初回限定盤DVD収録内容
  1. MAD HEAD LOVE Music Video
  2. ポッピンアパシー Music Video

※初回限定盤のみ本人別イラスト描き下ろしのスリーブケース仕様。

ハチ名義の1stアルバム(リイシュー)「花束と水葬」[CD] 2013年10月23日発売 / 2000円 / REISSUE RECORDS / DDCZ-1915
「花束と水葬」
収録曲
  1. Persona Alice
  2. WORLD'S END UMBRELLA
  3. Mrs.Pumpkinの滑稽な夢
  4. バウムクーヘン
  5. clock lock works
  6. Ghost Mansion
  7. Qualia
  8. 恋人のランジェ
  9. 花束と水葬
ハチ名義の2ndアルバム(リイシュー)「OFFICIAL ORANGE」 [CD] 2013年10月23日発売 / 2000円 / REISSUE RECORDS / DDCZ-1916
「OFFICIAL ORANGE」
収録曲
  1. パンダヒーロー
  2. 演劇テレプシコーラ
  3. リンネ
  4. 神様と林檎飴
  5. 結んで開いて羅刹と骸
  6. 沙上の夢喰い少女
  7. 病棟305号室
  8. 眩暈電話
  9. マトリョシカ
  10. 白痴
  11. ワンダーランドと羊の歌
  12. 遊園市街
米津玄師(よねづけんし)
米津玄師

男性シンガーソングライター。2009年より「ハチ」という名義でニコニコ動画にVOCALOID楽曲の投稿をスタートし、代表曲「マトリョシカ」の再生回数は500万回を、「結ンデ開イテ羅刹ト骸」の再生回数は300万回を超える人気楽曲となる。2012年5月に本名の米津玄師として初のアルバム「diorama」を発表。全楽曲の作詞、作曲、編曲、ミックスを1人で手がけているほか、アルバムジャケットやブックレット掲載のイラスト、アニメーションでできたビデオクリップも自身の手によるもの。マルチな才能を有するクリエイターとして注目を集めている。2013年5月、シングル「サンタマリア」でユニバーサルシグマよりメジャーデビュー。同年10月23日にメジャー2ndシングル「MAD HEAD LOVE / ポッピンアパシー」をリリースするほか、同日にハチ時代のアルバム「花束と水葬」「OFFICIAL ORANGE」を再発する。