ナタリー PowerPush - やなぎなぎ

ネット発・癒しの歌姫が誕生するまで

歌詞の中でやっと「好き」って言えた

──これまで同人でリリースしてきたやなぎさん名義の楽曲って、それこそ新居昭乃さんや、ご自身のブログで好きなアーティストに挙げているMUM(※アイスランドのエレクトロユニット)のようなノリを感じさせますよね。いわゆる「音響系」というか。

そうですね。

──一方「ビードロ模様」はタイアップ曲で、詞やメロディを聴かせることで「あの夏で待ってる」というアニメの世界観を伝えることが最優先事項となる楽曲です。しかも、作編曲は音楽制作集団I'veの中沢伴行さんという、女性ボーカルものの名手。制作時に不安やプレッシャーはありませんでしたか?

確かに曲の作り方や詞の書き方は今までとは違いましたけど、元々KOTOKOさんの曲をよく聴いていたしI'veさんのファンだったので、苦労や不安よりも「面白い化学反応が起きるといいな」っていう期待のほうが強かったですね。実際、シナリオから受けたイメージを中沢さんにお伝えしたら、私の思い描いていた、ちょっとレトロで夏のキラキラした風景……夕立のあと水たまりに日の光が乱反射する感じや、高くて青い空の感じを全部汲み取ってくださった、あの楽曲が返ってきて。そのおかげで、私もちょっと冒険してみようって気持ちになれたんです。

──それはどんな冒険でしょう?

いつもより伝わりやすさを重視した、ストレートな歌詞を書くように心がけました。例えば、普段の私の楽曲だったら「好き」っていう言葉はまず使わない。というか、直接的な恋愛の曲ってほとんど書いたことがないんですよ。

──えっ、年頃の女の子にとって恋愛って最大の関心事なんじゃ?

私の体験をもとに恋愛の歌を書くと、なんか楽しい感じにならなくて(笑)。なので「もし恋愛の曲を聴きたいなら、もっといい詞を書く方がたくさんいらっしゃるので」って、いつも思ってたんです。でも、今回はアニメ作品の世界観がベースにある曲だから、「あの夏で待ってる」で描かれる、男の子と女の子の仲良しグループ全員が、グループ内の別の誰かに片思いしている、すれ違いの恋愛模様を客観的に眺めることができたんです。しかも中沢さんからは、私が作品から受けたイメージを反映した本当にキレイなメロディをいただけて。それで「自分とはまた違った目線で恋愛を切り取れるなら面白い詞がかけるんじゃないかな」「せっかくキラキラした曲を歌うんだし、ストレートな言葉を使ったほうがいいだろうな」って思えるようになって、やっと「好き」って言えるようになりました(笑)。

──そういう新しいチャレンジをしながらも、この曲はちゃんと「やなぎなぎの楽曲」として成立しています。何か秘訣はあるんでしょうか?

言葉の並べ方には自分らしさを残しているし、歌い方もキラキラした中沢節に負けないように、サビの部分ではいつもよりも一段明るめのトーンにしてはいるものの、AメロやBメロは詞の世界に合わせていつもの物思いにふけるアンニュイなイメージを出したりしているからだと思います。だから今までのI've作品を聴いている方は、普段のI'veとは違う、男の子と女の子の恋愛を歌った爽やかな青春ソングとして楽しめるし、私の曲を聴いてくださっている方は、AメロやBメロではいつもの私らしさを感じていただきつつも、サビでは新しい私を見つけていただける面白い1曲になったんじゃないかなと思ってます。

コラボは「やりましょう」って言われたら引き受けちゃう

──そして、カップリングの「concent」は自ら作詞作曲しただけあって、普段のやなぎなぎテイストあふれる1曲になっています。

「ビードロ模様」と明暗のコントラストを付けたら面白いかな、と思って作ってみたんですけど、私本来の暗い部分が出てますよね(笑)。ただ、この曲でもやっぱり化学反応は起きてるんですよ。

──それはアレンジャーの飛内将大さんの影響?

そうですね。以前、ZONEのトリビュートアルバム(※2011年8月発売の「ZONEトリビュート~君がくれたもの~」。やなぎは「一雫」をカバー)でご一緒したときから「私の好きな音を作る人だな」と思っていて、今回も「飛内さんの音がハマるだろうな」ってお願いしたんですけど、本当に面白くて。私がひとりで作ると最初に頭に浮かんだ詞や曲のイメージどおり、「concent」だったらどんどん沈んでいくようなアレンジになっていたと思うんですけど(笑)、飛内さんはサビにドラムンベースみたいな倍のテンポのリズムパターンを入れてみたりと、アッパーさはあるんだけどどこか「詞とのバランスがいいな」と思えるオケを作ってくださった。飛内さんという存在に入っていただいたことで「あっ、こういうこともできるんだ」っていう広がりが生まれた感じがしています。

──では、今後はボーカリストとして、そしてソングライターとして、どんな活動を展開していきたいですか?

自分で曲を書きたいっていうのはもちろんあるんですけど、先程お話したとおり、ひとりでやっていると内向的な曲ができるというか、どんどんふさぎ込んでいってしまうので(笑)。元々いろんな曲を歌うのは大好きなので、ほかのクリエイターの方から受けた刺激を自分の作る曲にフィードバックさせられるようになりたいですね。

──これからもいろんなクリエイターとのコラボが楽しめそうですね。今も麻枝准さんとのプロジェクト「終わりの惑星のLove Song」が進行中なわけですし。

そうですね。なるべくやっていきたいとは思っているし、実際ryoさんや麻枝さんや、これまでにご一緒させていただいたクリエイターの方々みたいな、すごく好きな作曲家さんたちから「やりましょう!」って言われたら、絶対うれしくなって引き受けちゃうはずですから(笑)。

ニューシングル「ビードロ模様」 / 2012年2月29日発売 / 1260円(税込) / ジェネオン・ユニバーサル / GNCA-0236

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CD収録曲
  1. ビードロ模様
  2. concent
  3. ビードロ模様(instrumental)
  4. concent(instrumental)
やなぎなぎ(やなぎなぎ)

関西出身の女性シンガーソングライター。2006年からライブハウスやインターネット上で音楽活動を開始する。動画投稿サイトに数多くのカバー楽曲を公開して注目を集め、「君の知らない物語」をはじめとするsupercellの楽曲にnagi名義でゲスト参加したことでも話題となった。繊細かつ透明感あふれる歌声と、印象的な楽曲の世界観が幅広い層から支持される。2012年2月、テレビアニメ「あの夏で待ってる」のエンディングテーマ「ビードロ模様」でメジャーデビュー。