ナタリー PowerPush - 冨田恵一
ポップマエストロの壮大な記録 冨田サウンドの設計図を紐解く
メインストリームとオルタナティブ
──5月には冨田ラボとして5年ぶりのワンマンライブも決定しました。こちらには坂本さんを始め、秦基博さん、birdさん、Hiro-a-keyさんがボーカルとして参加されます。ワンマンでボーカルが4人だけということは、それぞれのレパートリー以外の楽曲を歌うことも?
ステージ構成はこれから考えますけど、可能性は大きいですね。
──それはもう、面白くないわけがないですね(笑)。5年前はSHIBUYA-AXでしたけど、今回はブルーノート東京で。
観客としてしか観たことないですけれども、いいハコですよね。僕はあまりライブに行くほうではないですが、ブルーノートは好きでよく行くんです。だいたい一番前の席にがんばって座って、ハコの音というよりも生音を聴く(笑)。あのぐらいの小さなスペースでやってみるというのも、やってみたかったことではありますね。
──このボックスにまとめられているのは1990年代後半から現在までの音源ですけど、この10数年というのは同時に、フェス系のバンドが盛り上がってた時代でもありますよね。冨田さんの場合は、ある意味その真裏を歩んできたようにも思うのですが。
そうですねえ。でも意識して今の位置にいようと思ったことは一切なくて。ただ自分がやってることは立場的に「こちらがオルタナティブなんだ」とは思ってます。オルタナティブという言葉に優位性も劣等感も何もなく、フラットな意味でね。音楽の長い歴史の中で、僕のやっているものがメインストリームの音楽の形態をとっていたとしても、今ここに集めたものを聴くと、やっぱりこれは本筋ではない、オルタナティブなものなんだなっていうのは改めて思いました。
──それは主にどのような理由で?
すべてですね。僕は作業も1人でやる部分が多いですし、自分のやってることをシーンとして広げようとか、そういった意識がゼロなんですね。音楽はパーソナルなものだと思っているので。たとえそのパーソナルなものが結果的にヒットに結びついて多くの人に聴かれたとしても、そこから先がどうなったかっていうのはあんまり実感できないですし。
──オルタナティブというには大きすぎるセールスも獲得しましたが。
例えば大ヒットしたから、オルタナティブだと思っていた自分のやったものがメインストリームになっちゃった、という感覚は、まったく持ててなくて。
──でも、ご自身の音楽を奇形的なものだとは思ってないですよね。
そうじゃないフリをしてるけど、すごく奇形的だと思います(笑)。ホントに。
──それはずっとお1人で音楽と向き合っている制作スタイルと関係がありますか?
すごく関係あると思いますよ。僕は普段の生活の中で受けたいろんな刺激を音楽にする、という過程をたどったことがゼロに近くて。今までの音楽体験、自分の演奏した経験、そして聴いたものからの刺激の複合でしか作っていなかった。それをずーっと続けてきたということが、どう考えてもメインストリームのやり方とは違うので、出てくるものも……うん、メインストリームのフリをしてるけどもやっぱりちょっと違うし、継承する人が現れるわけがないな(笑)、とは思いますね。
──「継承したい!」って人が来たらどうします?
いや、僕は別に何を訊かれても全然隠すことはないんでなんでも答えますけど。それで継承していただけるんだったら、みなさんに継承していただきたいです。
──でも実際には、冨田さんの作品が世に広まったことで、ポップチャートの上位に比較的高度なコード進行が入る割合が多くなったり、ストリングスの積み方も変わったり、間接的に大きな影響を与えていると思います。
艶やかに弦のオブリガードが入ったりとかね、そういうのはわかりますよ。セカンダリードミナントを使う、弦の裏メロの動きが階段的な16分音符である、フルートが入っている。これらはわかりやすいアイコンですよね。「これは僕のああいう感じをやりたかったんだろうな」とかいうのはいっぱい耳にしました。けど、それらは表層的なことがらで、それらを使った結果表現されることに目を向けないと、継承はされていかないんじゃないかな。
レコーディングって本当に面白い
──しかしこうしてひとつのパッケージになると、やはり唯一性というものを感じます。極端な話、世の中の音楽が「冨田恵一」と「それ以外」に分かれたような。J-POP史においてはそのぐらいのショックを与えている音楽だと思うんですよね。でも不思議なことに、楽器の構成だったりという要素に還元すると、特異な要素というのはまったく……。
ないんですよね。僕は一時期から、楽器編成をわざと同じにしてるんですよ。それは量産のためにそうしてるわけではなくて。楽器編成や音色を変えなくても、テーマに応じたバリエーションは付けられるはずだと。そういうひとつの試みというか……。
──わかります。使われてる楽器まで一緒ですよね。
音色のバリエーションというのは、わりと真っ先に付けやすいものではあるんです。そうじゃなくて、バンドの考え方ですね。4ピースなら4ピースのバンドで何枚もアルバム出したりするじゃない? それと同じように、自分の中でこのリズム隊とこの弦だけで、しばらくバンドみたいにやりたいなと思ったり。
──その世界の中でひたすら追求するという。
そうです。バンドの人が自分たちの編成の中でフレーズを工夫したりするのと一緒ですよ。
──でも、こうして自作の集合がパッケージ化されてみると、結論として「奇形的な音楽だった」というのは、感動的ですらあると思います。
別に「奇形だなーっ」って思ってやってるわけじゃないですよ(笑)。奇形的だと思うかと訊かれれば、まあ、そうかな、と。
──ちなみに、冨田さんがいちリスナーとして、このボックスのようにデモテープやレコーディング風景がパッケージされた作品を聴きたい、と思うプロデューサーを挙げるとしたら?
誰かなあ、アリフ・マーディンかな。あとはマイケル・ジャクソンの「OFF THE WALL」を作ってるときのクインシー・ジョーンズとかね。レコーディング現場って、見ていると僕は楽しいのね。しかもそれが自分がよく聴いているアルバムのレコーディング映像であればすごく楽しめると思います。レコーディングって本当に面白いんですから。特に(録音メディアとして)テープが回ってた1970年代は僕もまだ音楽の仕事をしてない時期なので、その頃のレコーディングの現場は覗いてみたいですね。
[DISC 1] beautiful songs to remember 1
- エイプリルフール feat. 坂本真綾 / 冨田ラボ
- 楓 / 松任谷由実
- Ring / 平井堅
- WILL / 中島美嘉
- here it comes / 冨田ラボ
- REEEWIND!(Tomita Lab. Remix)/ m-flo loves Crystal Kay
- 眠りの森 feat. ハナレグミ / 冨田ラボ
- ずっと読みかけの夏 feat. CHEMISTRY / 冨田ラボ
- high noon / 冨田ラボ
- Why Not?(Tomita Lab. Remix)/ FPM
- ONE / AI
- falling / 羊毛とおはな
- color them green / 冨田ラボ
- マタ逢ウ日マデ2010~冨田流~ / RIP SLYME
- エイリアンズ / キリンジ
- パラレル feat. 秦 基博 / 冨田ラボ
[DISC 2] beautiful songs to remember 2
- landed one / 冨田ラボ
- vacant / LOST & FOUND performed by Miho Morikawa
- 罌栗(けし)/ 畠山美由紀
- 乳房の勾配 / 冨田恵一 feat. キリンジ
- PHARMACY / 冨田ラボ
- Get up! Do the right! feat. 佐藤竹善 & bird / FUTABA enjoy with 冨田ラボ
- 空(Tomita Lab. Remix)/ SOULHEAD
- BCC: / 冨田ラボ
- CHAIN / BONNIE PINK
- 東京の伝書鳩(goes to brazil)/ MIKI fr creole(ミキ・クレオール)
- ENDLESS SUMMER NUDE(Tomita Lab. Remix)/ 真心ブラザーズ
- 一角獣と処女 / 松井優子
- パレード / bird
- イカロスの末裔(Radio Mix)/ キリンジ
- piano improvisation 1 / 冨田ラボ
[DISC 3] Shipahead + april fool【demo edition】
- Holy Taint [original demo]
- ペドロ~消防士と潜水夫 [original demo]
- ペドロ~消防士と潜水夫 [w/lyrics demo]
- Shipahead [original demo]
- 夜奏曲 [original demo]
- 横顔 [original demo]
- 横顔 [simulated strings demo]
- パラレル [original demo]
- あの木の下で会いましょう [original demo]
- D.G [original demo]
- 残像 [original demo]
- エトワール [original demo]
- 千年紀の朝 [original demo]
- エイプリルフール [original demo]
- エイプリルフール [w/lyrics demo]
- エイプリルフール [instrumental]
DVD収録内容
「How to make a beauty」
- 新曲「エイプリルフール feat. 坂本真綾」の制作ドキュメンタリー(収録時間:約55分)
- 副音声(コメンタリー)による解説付き : 冨田恵一, Watusi(COLDFEET), 鈴木健治
SPECIAL BOOKLET
- 山崎二郎(「BARFOUT!」編集長)による解説
- 全曲の歌詞 / レコーディングデータ
- ライター水上徹による全曲解説
- 新曲「エイプリルフール feat. 坂本真綾」の冨田恵一本人による手書きスコア
CD収録曲
- エイプリルフール feat. 坂本真綾 / 冨田ラボ
- 楓 / 松任谷由実
- Ring / 平井堅
- WILL / 中島美嘉
- here it comes / 冨田ラボ
- REEEWIND!(Tomita Lab. Remix)/ m-flo loves Crystal Kay
- 眠りの森 feat. ハナレグミ / 冨田ラボ
- ずっと読みかけの夏 feat. CHEMISTRY / 冨田ラボ
- high noon / 冨田ラボ
- Why Not?(Tomita Lab. Remix)/ FPM
- ONE / AI
- falling / 羊毛とおはな
- color them green / 冨田ラボ
- マタ逢ウ日マデ2010~冨田流~ / RIP SLYME
- エイリアンズ / キリンジ
- パラレル feat. 秦 基博 / 冨田ラボ
冨田ラボ LIVE -COMBO-
2011年5月20日(金)東京都 ブルーノート東京
[1st]OPEN 17:30 / START 19:00
[2nd]OPEN 20:45 / START 21:30
出演:冨田ラボ
[冨田恵一(Key, G)/ 坂本真綾(Vo)/ 秦基博(Vo)/ bird(Vo)/ Hiro-a-key(Vo)/ 村石雅行(Dr)/ 鈴木正人(B/LITTLE CREATURES)/ 松本圭司(key, G)/ 山本拓夫(Woodwinds, Reeds)/ 西村浩二(Tp, Flugelhorn)]
料金:8400円
一般予約受付:2011年4月9日(土)
Jam Session会員予約受付:2011年4月2日(土)
冨田恵一(とみたけいいち)
1962年6月1日生まれ。北海道旭川市出身。大学在学中にギタリストとしてミュージシャン活動を開始し、1988年にはユニット「KEDGE」でアルバム「COMPLETE SAMPLES」を発表。1990年代後半にはプロデューサーとしてのキャリアをスタートさせ、最初に手がけたキリンジが圧倒的な支持を得たことで大きな注目を集めた。2000年にはMISIA「Everything」がダブルミリオンセラーを記録。2003年からはソロプロジェクト「冨田ラボ」の活動も並行して行い、「Shipbuilding」「Shiplaunching」「Shipahead」と3枚のアルバムを発表した。2011年3月2日には、プロデューサーとしてのキャリアをまとめた初のワークスベストアルバム「冨田恵一 WORKS BEST ~beautiful songs to remember~」をリリース。