音楽ナタリー Power Push - THE BACK HORN
“あなた”に向けてまっすぐ歌う「With You」
THE BACK HORNがニューシングル「With You」をリリースした。
アルバム「運命開花」から約1年ぶりの新作となる今回のシングルの表題曲は、ピアノやストリングスを取り入れた優しく壮大なバラード。プロデュースはTHE BACK HORNとは初タッグとなる亀田誠治が務めている。また歌詞はストレートで幸福感あふれるラブソングになっており、従来のTHE BACK HORNの楽曲とは趣の異なる1曲だ。
今年デビュー15周年という節目を経て、また新たなフェーズへと入ったTHE BACK HORN。「運命開花」リリース以降、バンドにどんな変化があったのか。フロントマンである山田将司(Vo)と作詞作曲を担当した菅波栄純(G)に聞いた。
取材・文 / 宇野維正 撮影 / moco.(kilioffice)
自分たちには“あなた”が必要
──ニューシングル「With You」は、昨年11月にリリースしたアルバム「運命開花」以来の新しい音源となります。これは、あのアルバムで示した強い楽曲志向、つまり作品全体のコンセプトよりも1曲1曲の“個”を立たせるという考えの延長上にある曲なのかなって最初に聴いたときは思ったんですけど。
菅波栄純(G) 昨年、「運命開花」をリリースする前の4月に渋谷公会堂で「『KYO-MEI SPECIAL LIVE』~人間楽団大幻想会~」っていうワンマンをやって、そのときに初めて大々的にストリングスと鍵盤を入れて、自分たちの過去の曲をリアレンジして演奏したんですよ。直接的な刺激としては、あの日のライブでの試みというのがすごく大きくて(参照:THE BACK HORN、ストリングスとの共演で魅せた渋公ワンマン)。
山田将司(Vo) 今回のシングルの3曲目に入ってる「世界中に花束を」も、その日のテイクで。
菅波 あのときに、「あ、THE BACK HORNの楽曲ってこんな可能性を持ってたんだな」ってすごい感じて。今年の11月から12月にかけて、今度はホールツアーとして、あのときのライブをさらに拡張したようなライブをやるんですけど、そこに向かっていく上で、その前に新しい曲を出しておきたいなって思って。
──なるほど、なるほど。
菅波 あと、実は今回の「With You」ってタイトルは、アルバム「運命開花」をレコーディングしてるときに、将司がタイトル案として出してくれたものなんですね。
──ああ、そうなんだ。
菅波 そのときから、「With You」って言葉が頭の中に残ってて、その言葉に合うような曲を作りたいなっていう思いがだんだん膨らんできて、それで作った曲でもあるんです。
山田 きっかけはいくつかあったんですよ。自分がピアノの曲を作って。それはインストだったんだけど。
菅波 そうそう。そのときに、将司が「THE BACK HORNの音楽って、実はピアノの音が合うんじゃないか」みたいなことを言ってて。そういうバンド内のいろんな閃きが重なって。あと、今回「With You」と同時に「運命開花」のツアーDVDもリリースするんですけど、そのDISC 2のほうのドキュメンタリーって、俺が監督も編集も1人でしたんです。
──へえ! じゃあ、カメラも自分で回して?
菅波 はい。オフショットは、ほとんど自分で回してて。ツアーを回りながら、毎晩ホテルに戻ってその編集をして。
山田 やっぱりメンバーがカメラを回してると、プロの人が回すよりもサービス精神が増すっていうか(笑)。いつもよりもふざけたくなるんですよね。
菅波 そうそう。だから、DVDは必見ですよ。これまで見たことがないようなTHE BACK HORNがいる。
──あと、当たり前の話ですけど、バンドのメンバー間の関係がよくないと、メンバー撮影のドキュメンタリーとか絶対に作れないですよね。
菅波 それは本当にそうですね(笑)。
──でも、結成から18年ですからね。なかなかすごいことですよ。
山田 はははは(笑)。
菅波 で、そうやって編集作業をしている中で、「なんで俺たちはこうしてツアーをやってるんだろう?」「なんで俺たちは音楽をやってるんだろう?」って、そういうことを否応なしに考えさせられたんです。だから、ツアー中の生々しい記憶があるうちに、できるだけ同時進行で作業してしまおうと思って。で、そのツアーでやった「運命開花」の曲たちって、人間の孤独感だったりとか、愛するがゆえにすれ違う気持ちだったりとか、「悪人」みたいなすごくねじれた感情の曲だったりとか、そういうことを歌ったものだったんだけど、そういう気持ちがライブでやることで成仏していく感じっていうのが、ツアーの映像を編集していると手に取るようにわかる。同時に、それって結局、オーディエンスへのラブレターみたいなものだったんじゃないかって思って。本当に俺たちは、ツアーで自分たちに会いにきてくれる“あなた”が必要なんだなって。そんなことを考えてるうちに、将司の言った「With You」って言葉が自分の中ですごく大きくなっていって。だから、今回の「With You」はバラードですけど、最初からバラードを書こうと思って書いたんじゃなくて、「With You」という言葉に見合う曲を作ろうと思って書いた曲なんです。
すごくいい刺激になった亀田誠治との仕事
──で、そんなTHE BACK HORNが今回のシングルでは珍しくプロデューサーを入れていて。
山田 前にプロデューサーが入ったのって、もう12年前くらいだったかな。シングル「夢の花」のタイミング。土屋昌巳さんにお願いして。
──ああ、そうだった。で、今回はなんと亀田誠治さんという。これは正直、意外な組み合わせでした。
山田 今回、レコーディングに外部の人に入ってもらうのが本当にひさびさだったっていうこともあって。メンバーの間でも、亀田さんに求めていることにちょっとしたズレがあったんです。栄純はもう、ガッツリと入ってきてもらってしごき上げてほしいって感じだったし。
菅波 そうそう。もうイメージ的には、Radioheadにナイジェル・ゴッドリッチが参加して、そこからバンドが変わっていったみたいな。
──「OK Computer」だ(笑)。
菅波 そう! で、バンドの側は「こんなにガッツリ入ってくるのか」とか文句を言いながら、それで売れちゃうっていうのを想像してた(笑)。
──はははは(笑)。将司くんはスタンスが違ったの?
山田 亀田さんが、ってわけじゃなくて、プロデューサーを入れること自体にあまり積極的ではなかったほうですね。と言っても、俺らもそれなりにキャリアを積んできてるから、こっちから変わりたい意志をちゃんと伝えない限りは、そうそう変わるもんじゃないだろうって思っていたし。でも、実際に亀田さんとやってみて、けっこうこちらからもグイグイ意見も言っていったんだけど、最終的には亀田さんの意見に落ち着くことが多くて。そこはやっぱり、さすが亀田さんだなって。ただ、亀田さんカラーに完全に染まりたくないっていう意地みたいなものもあって。そうやってレコーディングの現場で意見を交わすこと自体が、バンドにとってすごくいい刺激になりましたね。
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- ニューシングル「With You」2016年10月19日発売 / SPEEDSTAR RECORDS
- 「With You」
- 初回限定盤 [CD+DVD] 2160円 / VIZL-1072
- 通常盤 [CD] / 1296円 / VICL-37231
収録曲
- With You
- 言葉にできなくて
- 世界中に花束を Live at 渋谷公会堂
初回限定盤DVD収録内容
「KYO-MEI SPECIAL LIVE~人間楽団大幻想会~」Live at 渋谷公会堂
- オープニング-朝靄の羅針盤-(Live SE「KYO-MEI SPECIAL LIVE」~人間楽団大幻想会~)
- 航海
- 光の結晶
- 涙がこぼれたら
- 泣いている人
- 美しい名前
- 戦う君よ
- ライブDVD「KYO-MEIツアー~運命開歌~」完全生産限定盤 / 2016年10月19日発売 / [DVD2枚組+写真集] 4968円 / SPEEDSTAR RECORDS / VIZL-1080
- 「KYO-MEIツアー~運命開歌~」
収録内容
DISC 1
- オープニング -destiny-(Live SE「KYO-MEIワンマンツアー」~運命開歌~)
- 暗闇でダンスを
- ダストデビル
- 戦う君よ
- その先へ
- 胡散
- 赤眼の路上
- コワレモノ
- シュプレヒコールの片隅で
- 悪人
- 君を守る
- 冬のミルク
- 美しい名前
- tonight
- 魂のアリバイ
- シンフォニア
- 刃
- カナリア
<アンコール>
- 舞い上がれ
- 罠
- コバルトブルー
<ダブルアンコール>
- 無限の荒野
DISC 2
「KYO-MEIツアー ~運命開歌~」ドキュメンタリー
ライブ情報
「KYO-MEIホールツアー」~月影のシンフォニー~
- 2016年11月11日(金)大阪府 NHK大阪ホール
- 2016年11月18日(金)福岡県 福岡国際会議場 メインホール
- 2016年11月24日(木)愛知県 日本特殊陶業市民会館 ビレッジホール
- 2016年11月27日(日)宮城県 仙台電力ホール
- 2016年12月8日(木)東京都 中野サンプラザホール
マニアックヘブンVol.10
- 2016年12月23日(金・祝)東京都 東京キネマ倶楽部
- 2016年12月24日(土)東京都 東京キネマ倶楽部 ※ギャラリー展示のみ
- 2016年12月25日(日)東京都 東京キネマ倶楽部
銀河遊牧会2016 ~マニアックヘブンSP~
- 2016年12月24日(土)東京都 東京キネマ倶楽部
THE BACK HORN(バックホーン)
1998年に結成された4人組バンド。2001年にメジャー1stシングル「サニー」をリリース。国内外でライブを精力的に行い、日本以外でも10数カ国で作品を発表している。またオリジナリティあふれる楽曲の世界観が評価され、映画「アカルイミライ」の主題歌「未来」をはじめ、映画「CASSHERN」の挿入歌「レクイエム」、MBS・TBS 系「機動戦士ガンダム 00」の主題歌「罠」、映画「劇場版 機動戦士ガンダム00 -A wakening of the Trailblazer-」の主題歌「閉ざされた世界」を手がけるなど映像作品とのコラボレーションも多数展開している。2014年には熊切和嘉監督とタッグを組み制作した映画「光の音色 -THE BACK HORN Film-」が公開された。2016年10月にシングル「With You」と、映像作品「KYO-MEIツアー ~運命開歌~」を発表。11月よりストリングス隊を迎えてのホールツアー「THE BACK HORN『KYO-MEIホールツアー』~月影のシンフォニー~」を開催する。