ナタリー PowerPush - 田村ゆかり

記念すべき?10枚目のフルアルバム メルヘンな“THE ゆかりん”のさじ加減

「田村ゆかりさん、じゅうななさい」の歌

──「今歌いたい曲」がコンセプトだとすると、今回はどんな曲が歌いたいと思ったんですか?

曲のテイストについてはどちらかというと、バランスを見ながら考えているだけなんです。バラードが多くなりすぎないように、とか。考えるのは歌詞ですね。何度か書き直していただいた曲もあります。ちょっとしたさじ加減なんですけど……「かわいくなりすぎず」とは言っても「かわいい」の基準は人それぞれだから、ニュアンスを伝えるのが難しくて。

──同じことを歌うにしても、どの言葉を選ぶかという。

はい。なんというか……マンガの世界よりも、もう少し生身の人間に近い感じのほうがいいなって最近は思っているんです。

──メルヘンすぎず、リアルすぎずのさじ加減が難しい。

そうなんですよね。ファンタジーに寄った言葉もあえて使うんですけど、そればっかりになっちゃうと、今の「田村ゆかりさん、じゅうななさい」が歌うには違うのかなって(笑)。とはいえ、そんなに夢も希望もない感じにはなってないと思うんですけど(笑)。十分にメルヘンな世界観ですけどね、一般的には。

──アルバムで通して聴くと、冒頭の3曲はファンタジー要素も高いキャッチーな曲が続いている印象があります。

曲順はいつも自分で決めるんですけど、実は今回けっこう悩んだんです。最初は「LUNATICA MARE」を1曲目に置いてみたりもしたし。

──それは意外ですね(笑)。アルバムの印象がガラッと変わるかもしれない。

「PINK AQUARIUM」を1曲目にすると「春待ちソレイユ」(2011年12月発売の9thアルバム)に似ちゃうかなーとか。ホントは「LUNATICA MARE」とかを1曲目にしてびっくりさせたかったんですけど、2年ぶりのアルバムなので“THE ゆかりん”から始めたほうがいいかなって(笑)。

──なるほど(笑)。冒頭にキャッチーな曲とシングル2曲が続いて、6曲目の「アジュールの実」からは印象がガラリと変わって……みたいな、全体にきれいな流れを感じました。

だとしたらよかったです(笑)。ホントに悩んだので。

ディープな“松井五郎ゾーン”

──今回、田村さんの中で一番のチャレンジ曲はどれですか?

これだけたくさん歌ってきたから、もうそんなに新しい挑戦もないんですけど……「アジュールの実」はここまで自分の声を加工したことがなかったので、ちょっとびっくりされるかなとは思います。

──「アジュールの実」はその加工されたメインボーカルとともに、すごくアダルトな声のコーラスが印象に残りました。コーラスに対するこだわりはありますか?

私はちゃんとした歌のレッスンもやったことがないし、歌がうまい歌手ではないと思うんですよ。ただ声優ということもあって、声を生かすべきだと思っているので、コーラスは必ず自分の声を入れるようにしています。神楽坂ゆか(2013年9月のライブ「田村ゆかり LOVE ♡ LIVE 2013 Autumn *Caramel Ribbon*」で生まれた別名プロジェクト)は昭和なので(笑)、あえて当時の名うてのコーラスさんにお願いしましたけど。オリジナル作品については、下手くそでも自分でハーモニーを作りたいんです。

──「アジュールの実」と1曲目の「スパークリング☆トラベラー」ではまるで別人ですし、それは確かに声優ならではの武器かもしれませんね。

意識的に変えているというよりも、曲調に合わせて歌ってるだけなんですけどね。

──実験的な「アジュールの実」からアラビアンなムードを持った「LUNATICA MARE」、さらにサルサ歌謡的な「ナルシスが嘘をつく」、重厚なギターが印象的な「Passion Error」と、中盤は特に際立ってバリエーション豊かな感じがありますね。ファンタジーな世界とは少しかけ離れたような。

曲調はバラバラですけど、歌詞がどれも自分の心に刺さる感じというか。松井五郎さんの歌詞はいつも、私からは何も言うことがない……もらった瞬間に「ありがとうございます!」みたいな(笑)。

──あっ、歌詞で見るとここはほぼ松井五郎ゾーンなんですね。

そうなんです! 松井さんには明るい曲もお願いしたいんですけど、どうしてもこのあたりの曲調だと「誰に歌詞を頼もう……やっぱ松井さんかな」って(笑)。なぜこの方は男性なのにこんな繊細な女心を書けるんだろうって不思議で不思議で。この4曲はまさに「田村ゆかりさん、じゅうななさい」のゾーンかなって。

──前回のインタビューでおっしゃっていた「特にマイナーなものを好む」という王国民(田村ゆかりファンの総称)が好きなのは、今作だとこのゾーンかもしれないですね。

きっとそうでしょうね(笑)。

話題の「恋と夢と空時計」PV

──「恋と夢と空時計」はアルバムリード曲としてビデオクリップも制作されました。

「純愛レッスン」とか「スパークリング☆トラベラー」も候補に上がったんですけど、シングルの「Fantastic future」と「W:Wonder tale」がどちらも音が厚くて元気な曲だったので、「純愛レッスン」だとおなかいっぱいになっちゃうかなと思ったんです。どれも“THE ゆかりん”な曲だと思うんですけど、ちょっと切なかわいい曲をリードにしてみようかなって。

──映像はまさに“THE ゆかりん”な、ファンシーでファンタジックな仕上がりになっています。

最近ようやく映像を撮ってもらうのが楽しくなってきたんですけど、自分ではまだどうしていいかわかんないんですよね。監督さんに「こういう感じがいいんじゃない?」って意見をいただいて、それに基づいて作っていきます。

──話題になったセクシーな衣装も監督のアイデアで?

あれはセクシーを狙ったわけでもなんでもなくて(笑)、「ちょっとよそ行きの服で写真を撮る」っていうことしか考えてなかったんです。

バラードは気持ちをシンプルに伝えられるもの

──終盤の「ひとりあやとり」はオリエンタルなメロディを持った美しいバラードです。田村さんは「バラード」というものについてはどうお考えですか?

バラードが一番、私の好きなことをやらせてもらっているところですね。田村ゆかりに求められているものは「スパークリング☆トラベラー」や「純愛レッスン」だと思うんですけど、バラードはやっぱり自分の気持ちを乗せやすいものだし、シンプルに伝えられるものだと思うので。

──印象としては「田村ゆかり=元気で明るい曲」のイメージが強い気がしますけど。

私はもともと速い曲があんまり得意ではないし、速くて元気な曲ってどうしても気持ちが乗せにくいんですよ。音階やリズムを追うのに必死になっちゃったりして。表現のうまい下手はともかくとして、歌っていて気持ちがいいのはバラードですね。

──速くて元気な“THE ゆかりん”を求められることは苦ではない?

ぜんぜん苦じゃないですよ。自分1人が気持ちよくなっても面白くないし、自分の立ち位置的にもそこなんだろうなと思っているので。速い曲もイヤイヤ歌ってるわけじゃないですよ?(笑)

ニューアルバム「螺旋の果実」/ 2013年11月20日発売 / KING RECORDS
初回限定盤 [CD+Blu-ray] / 3990円 / KICS-91969
初回限定盤 [CD+DVD] / 3990円 / KICS-91970
通常盤[CD] 3000円 / KICS-1969
収録曲
  1. スパークリング☆トラベラー
  2. Moonlight secret
  3. キャンディスターにお願い
  4. Fantastic future
  5. 微笑みのプルマージュ
  6. アジュールの実
  7. LUNATICA MARE
  8. ナルシスが嘘をつく
  9. Passion Error
  10. PINK AQUARIUM
  11. 純愛レッスン
  12. 恋と夢と空時計
  13. Papillon
  14. ひとりあやとり
  15. W:Wonder tale
初回限定盤DVD / Blu-ray 収録内容
  • 恋と夢と空時計(MUSIC VIDEO)
  • Fantastic future(MUSIC VIDEO)
  • W:Wonder tale(MUSIC VIDEO)
  • 微笑みのプルマージュ(MUSIC VIDEO)
  • 田村ゆかりとバーチャルデート ~スフィンクスに会いに行くのだ!編~
  • MAKING
ライブDVD / Blu-ray「田村ゆかり LOVE ♡ LIVE *Cute'n ♡ Cute'n Heart*」/ 2014年1月15日発売 / KING RECORDS
Blu-ray 8400円 / KIXM-149~150
Blu-ray 8400円 / KIXM-149~150
DVD 8400円 / KIBM-406~408
収録内容(予定)

2013年6月22日、23日に埼玉・さいたまスーパーアリーナで開催された「田村ゆかり LOVE ♡ LIVE 2013 *Cute'n ♡ Cute'n Heart*」の千秋楽、6月23日の模様を収録。特典映像には6月22日のみ演奏された楽曲も収録予定。

24thシングル(タイトル未定)/ 2014年2月5日発売 / 1200円 / KING RECORDS / KICM-1494

テレビアニメ「のうりん」(2014年1月放送開始)オープニングテーマ。

田村ゆかり(たむらゆかり)
田村ゆかり

2月27日生まれ、福岡出身の声優アーティスト。1997年にCDデビューを果たし、声優および歌手としての活動を始める。いずれも精力的な活動で着実に評価を集め、2008年には声優として3人目となる日本武道館公演を行った。2013年4月には通算23枚目のシングル「Fantastic future」、同年11月には10枚目のオリジナルアルバム「螺旋の果実」をリリース。