supercellという現象
──前作は、聴く側としては「初音ミクがポップスを歌っている」という気分がどことなくしましたけど、今回はボーカルのnagiさんや、あるいは初音ミクのようになんらかのキャラクターを想像して歌詞を書かれたんですか?
今回は結果的になんですけど喜怒哀楽のイメージを並べたアルバムになっているんです。毎日のいい日もあれば悪い日もあるっていう感情を1曲ごとに意識していて。例えば「今日は本当につまんなかったな」っていう日の気持ちを覚えておいて、それを曲にパッケージしていってるんです。だからキャラクターというよりはその感情をイメージして曲を作っていった感じですね。「Today Is A Beautiful Day」っていうタイトルは「今日すげえいい日だよね」って普通に思う日もあるし、皮肉たっぷりで言いたいときもあるっていう、まあそういう感じなんです。だらけた曲もありますけど、毎日生きてるってそんな感じで、それも含めて人生ということを表してるんです。
──supercellの場合は、その曲が柱になって、それにほかのメンバーが絵を付けたりブックレットをデザインしたりしていくわけですよね。同人的なグループというか、サークルのような。
まさにサークルですね、帰属意識のないサークルというか。それぞれのジャンルも全然違いますしね。音楽を作るのは自分しかいないですし、イラストの人たちもマンガ家もいれば普通にイラストをやっている人もいるし。いろんな人がいる中で、それぞれ全力でやってくれっていうことだけがテーマとしてあって。
──そこがたぶんsupercellを知らない人にとってわかりにくい部分だと思うんですよ。ryoさんが全部ディレクションするというわけでもなく、全員で作品を作っていくわけですね。
もともとsupercellってユニット名とかじゃなくて、自分と誰かが何かコラボすることなんですよね。それを以前supercellにいた119さんっていう人が「これってスーパーセルっていう現象(回転する上昇気流域を持つ、激しい嵐をもたらす巨大な雷雲群のこと)みたいだよね」って名付けたんです。でもメジャーデビューにあたって「supercellってなんなの?」ってさんざん聞かれて「こういう現象なんです」って言っても「え? んでユニット名は何?」ってなるんですよ(笑)。ただ、supercellっていう名称の使い方に今までこだわらなさすぎたので、今年はこだわっていこうかなって思うんですけどね(笑)。「supercellって何?」ってなったときに「今こういうのやってます」とか、もうちょっと明確に言えるようにやっていきたいなっていうふうに思いますし、単純にそれで面白いことをやりたいなとも思いますね。
──今までこだわらなかったっていうのは「これはユニット名じゃない」っていう気持ちがあったからなんですか?
最初のうちはそうですね、まあ誰かに聴かれても「別にこれ、ユニット名じゃないしね」って最初の1年か2年くらいはみんなで言ってたんですよ。ただ、それを言い続けてるうちにみんな疲れてきちゃって。「じゃあなんなのそれ?」って言われて、これくらいしゃべらないと理解してもらえないので(笑)。だから、みんな知ってればそんな説明しなくても済むじゃないですか。「ああ、そういう感じなのね」くらいになれるように、まあちょっと周知活動も含めてやっていきたいなと。
──今回、初回盤には新作のビデオクリップも収録されていますが、そういうコラボレーション感も含めて「supercell」みたいな感じなんですかね。
アニメはやっぱ半年くらいかかるので、今回ビデオクリップになってるのはアルバムを作るにあたって最初に作った曲です。で、映像はついこないだ完成したという。本当なら全曲やりたいんですけどね。音楽って「あ、ここちょっと変だな」と思ったらすぐ直せるんですけど、アニメは絵コンテ切ったらそれで動くしかないんですよ。実写よりもアニメだと特にそうで「もう描いちゃったんで戻せません」みたいな。まあ、そういう意味で難易度の高いアニメというものに、ぜひ一度ちゃんと向き合ってやってみたかったんですね。おかげさまですごくいいものができたと思っています。
supercellでライブもやってみたい
──ビデオクリップも、超豪華なブックレットや特製ケースもそうですが、ryoさんとしては、こういうものを見ながら聴くことで作品が完成するような感覚はあるんでしょうか。
できれば見てほしいですよね。映像を見ながら音楽を聴いたときに衝撃力は1.5倍になるっていう話があるらしいんですよ。いいスピーカーとかで普通に聴くよりも、パソコンとかの画面であっても音とリンクした映像があったほうが通常の1.5倍びっくりするっていうか、意識に残るっていう。なんかそういうアカデミックな話があるんですけど、そんな感じで、歌詞カードだけでもいいですし、なるべく一緒に読みながら聴いてもらいたいっていうのはありますよね。自分がやっぱりそういうのが好きなんで。
──ともあれ、さまざまなコラボレーションを重ねてアルバムは作品として完成するんですが、普通のミュージシャンだとその後は……。
まあライブですよね。
──そうですよね。新曲を引っさげてライブをやる流れになると思うんですけど、supercellの場合はどういうふうに展開していくんでしょうか。
いやあ、ライブしたいですよね(笑)。それはねえ、うん、今年になってから、したいなと思って。
──それも生のサウンドに回帰しているということなんですか?
いや、単純にそのほうが人生が面白いなっていうことです。去年、1年中さんざん家に籠もってパソコンと1日中朝から晩まで向き合う生活をしていて、それで「どっか行こうよ」とか誘われないですし、面白くないなって(笑)。昔からモットーにしてるのは「自分が思ってるほど人は自分のことを気にしてはいない」っていうことなんで、だったらライブしようがしまいが同じことだなって、特に今年に入ってから強く思うようになったんですね。アルバムとしてはリスナーの方に、携帯プレイヤーとかに好きな曲を1曲だけでもいいんで入れてもらって、毎日お供にしてほしいっていうか、どっか連れてってくれればいいかなって思っていて、本来の意図としてはもうそこで完成しているんです。だからライブをするとしたらその後の自分へのご褒美ですね。まあ時間があればですけど(笑)。
CD収録曲
- 終わりへ向かう始まりの歌
- 君の知らない物語
- ヒーロー
- Perfect Day
- 復讐
- ロックンロールなんですの
- LOVE & ROLL
- Feel so good
- 星が瞬くこんな夜に
- うたかた花火
- 夜が明けるよ
- さよならメモリーズ
- 私へ
DVD収録内容
- 「君の知らない物語」×アニメ「化物語」コラボCM
- アニメ映画「センコロール」トレーラー映像
- PCゲーム「魔法使いの夜」トレーラー映像
- 「ヤングジャンプ」新増刊雑誌「アオハル」トレーラー映像
- 新曲「Perfect Day」Music Clip
初回生産限定特典
- supercellオリジナル全36Pフルカラーイラストブックレット封入
- supercellオリジナルデザインピック封入
- supercellオリジナルデザインケース仕様(illustrated by redjuice)
- 新曲ビデオクリップなどが収録されたDVD付き
初回限定盤イラストブックレット 参加イラストレーター
三輪士郎 / redjuice / huke / 宇木敦哉 / コザキユースケ / 優 / こやまひろかず / 粉冬ユキヒロ / なぎみそ / マクー / スガ
supercell(すーぱーせる)
コンポーザーのryoと複数のイラストレーター・デザイナーによって構成。VOCALOID「初音ミク」が歌唱するオリジナル曲をニコニコ動画にアップしたことから人気に火がつき、ニコニコ動画での楽曲の総再生回数は2000万回以上を記録する。2009年3月に発表したメジャー1stアルバム「supercell」のセールスは10万枚を超え、ゴールドディスクに認定された。続く1stシングル「君の知らない物語」もアニメ「化物語」の主題歌に起用され大ヒット。2011年3月には2年ぶりとなる2ndアルバム「Today Is A Beautiful Day」をリリース。