ナタリー PowerPush - それでも世界が続くなら

新作とメジャーデビューと罪悪感

日常の中で生まれる葛藤や迷い、恐怖、諦めといった感情をリアルな言葉で発する4人組バンド・それでも世界が続くなら。彼らがメジャーデビューアルバム「僕は君に武器を渡したい」をリリースした。ナタリーではこれを受けて、バンドの中心人物でありすべての楽曲の作詞作曲を手がける篠塚将行(Vo, G)に、現在の心境や音楽に対する向き合い方について話を聞いた。メジャーデビューを前にして「申し訳ない」「正直つらい」と語る彼には、根深い問題が内在しているようだ。

取材・文 / 伊藤実菜子

申し訳ない気持ちでいっぱい

──メジャーデビューが決まってから、オフィシャルサイトに「僕らの音楽を聴いてくれているみんなへ」という声明文が掲載されましたね。メジャーへ移籍することへの不安や戸惑い、デビューまでの裏事情が明かされていましたが、ここまで自分の気持ちをさらけ出すバンドはなかなかいないなと感じました。

これはデビュー前に最後に好きなように言わせてもらうために書いた文章で。レコード会社とか事務所に「絶対このままで載せたい」って言って渡したんですけど、マジで何もいじられなかったですね。ほんとに書きたいことそのままです。

──どうしてこれを書こうと思ったんですか?

僕はその、「メジャーは言いたいことが言えなくなる」っていう噂を聞いてたから、メジャーに対して不信感みたいなものがあったんですね。でも実際はこんな感じだったよ、で俺はこう思ってるよっていうのを、僕らの音楽を聴いてくれてる人に言いたかったんですよ。メジャーデビューなんてほっといてもできるものでは絶対ないし、聴いてくれた人全員のおかげだと思ってるから。そういう人になんも言わないでデビューするのはできなかったから、ちゃんと挨拶しないとって思って。

──そんな不信感を抱いていたメジャーシーンに行こうと決意したのはなぜですか?

今のディレクターの海部さん(日本クラウン)っていう人が、このバンド組んだ頃からずーっとライブ観に来てくれてて。3曲でやめるような日もあれば、泣いて話になんないような日もあるし、すっげえ対バンに怒ってる日もあって、おおよそまともじゃない光景のライブを何度も目の当たりにしてると思うんですけど、それでも一緒にやろうって言ってくれて。メジャーでどうこうっていうよりは、ここまでずっと側にいてくれた人を裏切れんっていう気持ちだった。

──では「満を持してメジャーデビュー!」という感じではないんですね。

いやあ申し訳ない気持ちでいっぱいですね。2年契約なんですけど、2年で切れるかもしれないこの現状にすごい罪悪感がある。スタッフの人は僕に媚びてもないし合わせてもないんですけど、担いでくれるんですよね。僕は気付いたら神輿で担がれてたんですよ。でも僕は自分がぞうきんみたいなもんだと思ってるから、ぞうきんを担いだところでそんな変わんないよみたいな。「落ちてんのも担いでんのもそんなに変わんないのに大丈夫? 俺期待に応えられないよ」っていう気持ちなんですよね。このインタビューだって、俺なんかの話聞きに来てなんの得があるんだとか(笑)。

──でもメジャーデビューできるのは、それでも世界が続くならに将来性を見出して、これから世の中に広めていきたいと思っている人がいるからであって。

そう、それも申し訳ないんですよ。例えばこのアルバムが10枚くらいしか売れなくて落胆するスタッフを見るのはつらいけど、商業的な意識がまったく持てない。俺には歌作るしかできないんですよね。

バンドを組んだ時点でゴールしてる

──それでも世界が続くならは、前身バンドの中心人物だった篠塚さんが新しいメンバーを集めて始まったバンドなんですよね。

前のバンドがなくなったときの話なんですけど……例えばみんなで1つのお店を作るとするじゃないですか。でもその店が倒産したら、もう1回自営業やるのって相当なエネルギーがいると思うんですよ。僕にとってはそれと同じくらいの気持ちで、1回なくなった音楽をもう1回やるっていうのは相当キツかったんです。一時期は電車に乗るだけで吐き気がして、スタジオにも行けなくて。またイチからバンド組むなんて絶対無理、音楽はやりたくない、これからしたいことしようと思ってたら……またバンド組んでたんですよね。

──先ほどの声明文に「バンド組んでるだけで、もう僕は幸せ」という言葉もあるように、篠塚さんはすごく「バンドを組む」ということにこだわっていますよね。

僕コミュニケーションがヘタで友達作れなくて、高校のときあんまり教室にいなくて“よく保健室にいる人”みたいな感じで音楽室にいたんですけど。ある日「バンドやらないか」って誘われて、そこで初めて友達ができたんですよね。だから、僕の中でバンドをやるっていうことは友達ができるもんだっていうイメージなんです。友達に一緒にいてほしいからバンドやりたいんですよ。僕はバンドを組んだ時点でゴールしてるんです。夢っていう言葉を使うとしたら、もう夢が叶っちゃってるんですよね。好きな友達と一緒にバンド組んで、友達が俺なんかの曲を本気で演奏してくれて。こんなうれしいことはない。

──音楽とバンドはイコールじゃないと。

全然イコールじゃないですね。最初はイコールだと思ってたんですけど、音楽やることとバンドやることは全然違うことに気付いた。僕はバンドを組むことが目的だからそのために曲が必要なわけで、もしかしたらコピーバンドでもよかったかもしれない。でも僕は一生懸命やりたかったから、一生懸命曲書いて。

──じゃあ自分が作った音楽で人を元気付けたいというような思いは……。

(食い気味に)まったくないですね。てか、できると思いますか? 自分の力で人のことを感動させることができたとしても、人の力になりたい、救いになりたいなんてそんなおこがましいこと。そもそも僕には才能と呼ばれるものや何かを創造する能力は全然ないと思ってる。実際にあったこと、思ったことを簡単な言葉で書くことしかできないんですよ。

──ではリスナーには届かなくてもいいということ?

だって僕にとってのバンドって誰かに頼まれたから始めたものじゃないし、みんなに嫌われてもやりたかったらやるし。でも、だからこそライブハウスに来た人が僕らの音楽を聴いてくれるということはもう心からうれしいんですよ。そのうえ、もし好きになってくれたらめちゃくちゃうれしい。だから作ったものを人に聴かせたいっていうよりは、こんな僕らの曲をもし聴いてくれている人がいるならば誠実でいたいっていう気持ちなんですよね。

ニューアルバム「僕は君に武器を渡したい」 / 2013年9月4日発売 / 2800円 / CROWN STONES / CRCP-40349
ニューアルバム「僕は君に武器を渡したい」
収録曲
  1. シーソーと消えない歌
  2. 一般意味論とアリストテレス
  3. ウェルテルの苦悩
  4. 鮮やかに変われ
  5. 参加賞
  6. パンの耳
  7. 水色の反撃
  8. 痛くない
  9. 焼却炉
  10. テセウスの夜
  11. 夜を越えろ
  12. スパロウ
  13. カイン
それでも世界が続くなら
(それでもせかいがつづくなら)

篠塚将行(Vo, G)、菅澤智史(G)、琢磨章悟(B)、栗原則雄(Dr)からなるロックバンド。篠塚を中心に活動していたドイツオレンジがメンバーチェンジを経て現体制となり、バンド名を改名して2011年より活動を開始する。リアリティあふれる歌詞と繊細かつ鋭い歌声が口コミで話題を集め、2012年2月発売の1stアルバム「彼女の歌はきっと死なない」はタワーレコードのインディーズチャートで1位を獲得した。同年9月には早くも2ndアルバム「この世界を僕は許さない」をリリース。2013年9月4日、13曲入りアルバム「僕は君に武器を渡したい」で日本クラウンよりメジャーデビューを果たした。