ナタリー PowerPush - それでも世界が続くなら
新作とメジャーデビューと罪悪感
「もうこれで死んでもいい」って思いで曲作ってる
──今回のアルバム「僕は君に武器を渡したい」は、1曲1曲のメッセージが濃いうえに切迫感がありますね。
僕、毎回「この曲が最後になる」と思って作ってるんです。いつ事故って死んじゃうかわからないし。だからぶっちゃけ全部同じような曲になっちゃうんですよね(笑)。どの曲をリード曲にするだとかもあんまり考えてない、いつも「もうこれで死んでもいい」って思って作ってるから。最初はそうじゃなかったんですけど、あるとき歌詞のノートを見返したらすげー恥ずかしくなっちゃって。こんなの残せない、もし今死んだら恥ずかしすぎると思ってコンビニのゴミ箱に捨てに行ったんですよ。それからは、自分に対して「この曲が最後になってもいいくらい自分の人生全部出せや」ってずっと思ってるというか。
──確かにいろんなタイプの曲に挑戦するということは、今後もたくさんの曲を作るということですもんね。
そう、大きな流れの中で見てるんですよね。僕の場合は1曲単位なので、アルバム作っても作品っていうイメージが全然ない。ただ名前を付けるならこれ、っていう。
──歌詞にはうれしい、楽しいといった感情は出てこないですね。
うれしい、楽しいは曲にしたら1行で終わっちゃいますから。「♪楽しい、楽しい」ってずっと歌うみたいな(笑)。まあそれを書きたくないとか、暗いことを歌いたいと思ってるわけじゃないんですけど。
──それは「この1曲が最後になってもいい」という気持ちで書いているから出てこないんでしょうか。
そうなのかもしれないですね、そう言われてみれば。そうなのかな……そう考えたらそうですね、最後に楽しいとかならないですもんね。そうなのかな、そうか……。
──でも最後の曲「カイン」には「手をつなごう 僕らはきっとここからはじまるんだよ」と希望を匂わせる歌詞があって、ここで今後のそれでも世界が続くならを予兆しているのかなと。
「カイン」はライブの歌なんですよ。僕は音楽やってるからライブハウスでお客さんに会えるけど、携帯番号を交換するわけでもないし、もう二度と会えないかもしれないですよね。ステージから「はじめまして」って何度言おうが、全員がまたライブに来てくれるわけじゃない、むしろそうじゃないことのほうが多い。別にいいんですよ、それが普通なのかもしれないんですけど、僕はそれをちょっとさみしいと思っちゃうんですよ。自分の音楽を商品にしようっていう気持ちがものすごい強いバンドなら「はじめまして」が増えたほうがいいんだろうけど、俺はそこに重きを置いてなくて。でも、どうやらお金に変えたいバンドマンはいっぱいいるみたいですけどね(笑)。バイトすりゃいいじゃんって思いますけど(笑)。音楽をお金にするのって効率悪いから、もっとほかにいっぱいあるんじゃね?って。
「やっててよかった」って思えるバンドになりたい
──不安要素はあるにせよ、これからはメジャーレーベルとがっちり二人三脚でやっていくことになりますね。
いやもう、つらいですね、正直……。
──具体的に何がつらいですか?
なんか……PVとかすごくたくさんの人が観てくれてるんですよね。
──「参加賞」のPVは27万回くらい再生されてますよ。
キツイっすね……。PVは賛否両論って話を聞いたんですけど、なんかそれだけで申し訳ないっていうか。やだなあっていうことではなく、悪いなあって。
──なんだかあらゆることに対して自己評価がものすごく低いですよね……。もしこのアルバムがすごく売れたり、大きい会場を満員にできるようなバンドになったりしたときに、ちょっとずつ自己評価は上がっていきそうですか?
いや、想像ができないですそれは。俺には家賃が払えたらそれでいいっていうくらいが似合ってるというか。ただ事務所とかレコード会社の人が全然ダメダメな僕のことを大事にしてくれようとしてるのはわかってるから、なんとかそれを受け止めてみようかなって思ってるところで。あんまり俺、カッコつけちゃって人に甘えたりとか頼ったりしたことなかったんだけど、せっかくだからそういうのを信じてみたい……信じられる人になりたいです。
──では今後ツアーを経たり次の作品を出したりしたときに、どう変わっていくか見ものですね。
なかなか変わんないかもしれないですけどね。でも僕は変わりたいです。自分のことがイヤで変わりたいけど、変われないんですよね。変わろうとしたこともあるけど、結局三文芝居になるんですよ。
──変わりたいとは思ってるんですね。
バンドってみんな変わりたいんじゃないんですか? 演奏の練習するのって今の自分よりもっと上手になりたいから、自分に満足してないからじゃないですか。僕も一緒で。歌詞だって俺に表現力がないから、ほんとはもっとすごいことが起こってるのにそれが届いてないんですよ。俺がちゃんと届けられてない。演奏も別にすごく上手になりたいと思ってるわけじゃないけど、演奏がダメでスタッフに恥ずかしい思いさせちゃったこともいっぱいあるから。
──ではそんな篠塚さんが思う、それでも世界が続くならの理想形とはなんだと思いますか?
バンドっていうものは100バンドいたら100バンド必ず成功するわけじゃない、むしろ成功しないじゃないですか。俗にいう成功するバンドなんて、一握りどころか握れないと思うんですよね。僕はその握られるところに100%入れないと思ってるから最初からなる気がないけど、「このバンドやっててよかった」って思えるバンドには100バンドみんな努力次第でなれますよね。僕がやりたいのはそういうバンドなんですよ。もっと言うと、僕らに関わった人がおっさんになったとき、僕らと一緒にいてよかったって思えるようなバンドにしたいですね。
それでも世界が続くなら「参加賞」
収録曲
- シーソーと消えない歌
- 一般意味論とアリストテレス
- ウェルテルの苦悩
- 鮮やかに変われ
- 参加賞
- パンの耳
- 水色の反撃
- 痛くない
- 焼却炉
- テセウスの夜
- 夜を越えろ
- スパロウ
- カイン
それでも世界が続くなら
(それでもせかいがつづくなら)
篠塚将行(Vo, G)、菅澤智史(G)、琢磨章悟(B)、栗原則雄(Dr)からなるロックバンド。篠塚を中心に活動していたドイツオレンジがメンバーチェンジを経て現体制となり、バンド名を改名して2011年より活動を開始する。リアリティあふれる歌詞と繊細かつ鋭い歌声が口コミで話題を集め、2012年2月発売の1stアルバム「彼女の歌はきっと死なない」はタワーレコードのインディーズチャートで1位を獲得した。同年9月には早くも2ndアルバム「この世界を僕は許さない」をリリース。2013年9月4日、13曲入りアルバム「僕は君に武器を渡したい」で日本クラウンよりメジャーデビューを果たした。