音楽ナタリー PowerPush - サザンオールスターズ

「葡萄」を読み解く全曲レビュー&3つの考察

サザンオールスターズが3月31日にニューアルバム「葡萄」をリリースした。

今作は2005年10月発売の「キラーストリート」以来となるオリジナルフルアルバム。「ピースとハイライト」「栄光の男」「東京VICTORY」「天国オン・ザ・ビーチ」といったシングル曲をはじめ、TBS系ドラマ「流星ワゴン」主題歌の「イヤな事だらけの世の中で」、NHK放送90年イメージソング「平和の鐘が鳴る」など全16曲が収録された、ボリューム満点の内容となっている。

今回ナタリーでは、油納将志氏による全曲レビューを紹介。また高橋健太郎氏、大石始氏、高木“JET”晋一郎氏の3名の音楽評論家に「葡萄」のCD評を依頼した。ぜひ三者三様の考察を楽しんでほしい。

「葡萄」全曲レビュー

文 / 油納将志

01. アロエ
冒頭を飾るにふさわしいアッパーなダンスチューンであり、全16曲という大作の幕開けを高らかに告げているようだ。高揚感を煽っていくピアノとストリングスをフィーチャーしたディープハウス調のアレンジで、サビでの桑田のボーカル、原のコーラスがボコーダー処理されているアレンジに、現行型のダンスミュージックにも視線を配っていることが伝わってくる。
02. 青春番外地
番外地という文字を目にして思い浮かぶのは高倉健の「網走番外地」シリーズ。その名画が昭和の空気感を今に伝えるのと同様に、この曲もまた高度経済成長期の影でくすぶる学生の情景を「楽団」「ピンク映画」「酒場」「ディスコティーク」という言葉と共に描いていく。どこか郷愁を誘う1970年代風のサウンドも歌詞の世界を広げていくようで、実に相性がいい。
03. はっぴいえんど
サザンの魅力の1つであるノスタルジックなメロディが続く。そして、この曲名から日本のロックに革新をもたらしたグループへの賛歌であり、2013年12月30日に急逝した大滝詠一への感謝であることがうかがえる。出だしの「海街」という一節は松本隆が想像する「風街」へのオマージュであり、また茅ヶ崎をイメージしているのだろう。後半に挟まれるスティーヴィー・ワンダー風のハーモニカにも胸が締め付けられる。
04. Missing Persons
はっぴいえんどに続いて、技巧派ギタリストのウォーレン・ククルロを擁したグループを曲名に拝借したかと思ってしまうロックチューンだが、ここはじっくりと歌詞を追いながら聴いてみてほしい。このようなテーマの歌をサザンのようなグループが歌うことで、ほかのアーティストもあとに続くきっかけになるのではないだろうか。「Megumi,Come back home to me」という叫びが痛切だ。
05. ピースとハイライト
日本版ウォールオブサウンドを取り入れ、現在の日本が置かれている社会情勢の好転を願うメッセージを込めた先行シングル。アルバムで前々曲と前曲の流れでこの曲を聴くと、その音楽的な意味合いと歌詞の重みが増してくるはずだ。本来は暗いテーマでありながら、逆にサザンらしい快活なサウンドで歌われているアンビバレントさが存在感を際立たせている。
06. イヤな事だらけの世の中で
曲の舞台は京都へ。「鴨川」「祇園囃子」「嵐山」「花見小路」という京都の風物の情景の中で、男と女の睦み合いを描いていくような艶かしい雰囲気が漂う。2009年に発表された桑田のソロシングル「君にサヨナラを」のカップリングに「声に出して歌いたい日本文学<Medley>」が収められていたが、そこでの日本語の美しい響きをサザンでも昇華したと言える文学的な歌詞にも注目したい。
07. 天井棧敷の怪人
1945年に公開されたフランス映画「天井桟敷の人々」がバレエとして初めて上演されたのがパリのオペラ座。オペラ座と言えば怪人というように連想してしまうが、寺山修司が主宰した劇団「天井桟敷」のアングラ感もこの曲から伝わってくる。ラテン音楽が持つ蠱惑(こわく)的な調べが、聴く者を妖しい世界へと誘うようだ。それでいて歌詞は実に通俗的で、そのギャップもサザンらしい。
08. 彼氏になりたくて
ど真ん中に投げられるような、ミディアムテンポの直球ラブバラード。男性のロマンチシズムとセンチメンタリズムをにじませた切ない思いが、ポール・ウィリアムズとロジャー・ニコルズのコンビに通じる普遍的なメロディと共に歌い上げられていく。アルバムの中の隠れた名曲として、これからも長く聴き継がれていきそうだ。
ニューアルバム「葡萄」2015年3月31日発売 / タイシタレーベル
完全生産限定盤A [CD+グッズ+DVD] / 7020円 / VIZL-1000(CD+オフィシャルブック「葡萄白書」+“おいしい葡萄の旅”Tシャツ+ボーナスDVD / 特製BOX入り)
完全生産限定盤B [CD+グッズ+DVD] / 4860円 / VIZL-1010(CD+オフィシャルブック「葡萄白書」+ボーナスDVD / 特製BOX入り)
CD / アナログ収録曲
  1. アロエ
  2. 青春番外地
  3. はっぴいえんど
  4. Missing Persons
  5. ピースとハイライト
  6. イヤな事だらけの世の中で
  7. 天井棧敷の怪人
  8. 彼氏になりたくて
  9. 東京VICTORY
  10. ワイングラスに消えた恋
  11. 栄光の男
  12. 平和の鐘が鳴る
  13. 天国オン・ザ・ビーチ
  14. バラ色の人生
サザンオールスターズ
サザンオールスターズ

1975年に青山学院大学の音楽サークルで結成。現在のメンバーは桑田佳祐(Vo, G)、関口和之(B)、松田弘(Dr)、原由子(Key)、野沢秀行(Per)の5名。1978年6月にシングル「勝手にシンドバッド」でデビューし、独自の音楽性が当時のシーンに衝撃を与える。1979年3月に3rdシングル「いとしのエリー」の大ヒットにより幅広い層に受け入れられ、名実ともに日本を代表するロックバンドの仲間入りを果たす。その後も時代の変化に伴い、さまざまなアプローチで革新的かつ大衆的な楽曲を発表。1992年7月のシングル「涙のキッス」が初のミリオンヒットを達成し、1999年発表の「TSUNAMI」は293万枚の売り上げを記録する。その後デビュー30周年を迎え、バンドは2009年から無期限活動休止期間に突入していたが、2013年6月に活動再開を発表。同年8月に54thシングル「ピースとハイライト」をリリースし、大規模な全国ツアーを開催した。2015年3月、前作「キラーストリート」以来9年半ぶりのオリジナルアルバム「葡萄」をリリース。4月からは全国10都市21公演のツアー「おいしい葡萄の旅」を実施する。