ナタリー PowerPush - salyu×salyu
SalyuとCorneliusの新プロジェクト テーマは「クロッシングハーモニー」
コミュニケーションの基本は音のやりとりだけ(小山田)
──実際に制作のプロセスは、ふたりで顔をつきあわせての作業じゃなく、小山田さんが作った音をSalyuさんがひとりで聴いて歌を入れて……という形ですね。
Salyu うんうん。
──そのあたりのコミュニケーションは言葉にしなくても、ちゃんととれていた。
小山田 そうですね。基本は音のやりとりだけで。たまに電話して一言二言言ったり。
Salyu うんうん、そうですね。
小山田 アレンジができてる段階まで詰めたデモテープを渡して、彼女は彼女で勝手に仮歌を入れて、その仮歌を作詞の人に託して、彼女の元に返って歌が入って、それが最終的に僕のところにきて、ちょっとポストプロダクションをやるっていう。
Salyu とりあえず楽曲ができて、仮歌を入れるところまではあまりコミュニケーションが発生しないんです。そこから少し話をするんだけど……。
小山田 具体的には、歌詞を誰に作ってもらおうか、とか。
──最初に作るトラックは、メロディや譜割りまで完璧に指定してあるんですよね。
小山田 うん。僕の作るデモテープって、メロディだったりリズムだったり、ほかの楽器との関連性で決まるところがあって、基本的にはそれに忠実に仮メロディを入れておくんだけど、実際は仮メロはシンセみたいなもので入っていることが多くて、例えばどのタイミングで母音を入れるかどんなタイミングで子音を入れるか、歌の強弱だったり歌につけていく表情だったりは、何も入ってない(指示していない)から、そういうものは彼女が仮歌の段階で、英語でも日本語でもないような、「発声したい音」みたいなのを入れるわけ。
Salyu うん。
小山田 それによってずいぶん聞こえ方が変わるってことはあると思う。
──そこのイメージの膨らませ方は、音をもらったときの自分の感覚なわけですね。
Salyu うん、うん、うん。
小山田 そこでどのタイミングでどういう音が出てくるかによって、リズムって全然変わってくると思うし、そこらへんはたぶん彼女が、感覚的にだけど、ベターな歌い方を考えてると思う。
自分のレコードやるときよりも制約がなかった(小山田)
──以前小山田さんとちょっと話したとき、Salyuさんはめちゃくちゃに歌がうまいから、音作りが自由にできるとおっしゃってましたね。
小山田 うん。自分のレコードやるときよりも制約がなかったですね。使う音域だったりメロディの行き方だったり。
──今まで女性ボーカルのプロデュースも何度かやられてると思いますが、かなり異なる作業になったんじゃないですか。
小山田 最近だと本田ゆかさんが始めたIF BY YESってバンドで何曲かやったんだけど、そこはボーカルがペトラ・ヘイデンっていうチャーリー・ヘイデン(モダンジャズの大物ベーシスト)の娘で。彼女は割とSalyuとタイプが近かったかな。過去にもいろいろ女性アーティストの仕事もしてきたけど、Salyuはボーカリストとしての意識がすごく高くて、そこでできることをできる限りやってみたいという、そういうわりと具体的なアプローチがあったりとか。あとはアルバム1枚一緒にやったのは初めてだったんで、トータルで世界観を作れたというのはありましたね。
──小林武史さんとずっとやっておられたわけですが、どういう違いを感じましたか。
Salyu 人が違いますからね。あとは小林さんはピアノの人で。小山田さんはギターの人で。そういうところでも、作る曲が全然違うんです。メロディ感とか。
──歌いやすさに違いはあるんですか。
Salyu 歌いやすさというより、音楽が持つ性格の違い?(笑) それはもう人と一緒で、違いますよね。私が感じ取れる美意識もそれぞれ違うし。
譜面を通して曲に向き合うだけ(Salyu)
──前作の「MAIDEN VOYAGE」と同時進行だったわけですよね。ご自分ではどういう風に区別されてたんですか。
Salyu (笑)。特にそこまで考えていないというか……あまりスタンスは変わらないんです。とにかくオケがあって譜面があって、シミュレーションしていい場所があって、レコーディングできる状況があって、そこで“今日は何をやりましょう”って、あとは曲に向き合うだけなんですね。特に棲み分けをしなきゃいけないほど混乱もしてなかったし。
──両方とも、歌うべき曲として目の前にあって。あとは歌いこなすだけであると。
Salyu そうそう! うんうん。棲み分け……当初はあったかもしれないけど、忘れちゃった(笑)。
──声の出し方とか、そういうのも変わらないわけですか。
Salyu うん、結果を聴くと違いませんね。あまり変えていこうとは思わない。
──意識的に変えていこうとか。
Salyu ううん、特にありませんね。楽曲に対してどうするか、だから。私はかなり譜面が大事だと思ってて。あの……どうやって音にしていくか。紙じゃないですか譜面って。面白いなあって思うわけですよ。それを丁寧にやっていくと立体化するわけだから。どういう風に立体になったものをイメージできるか、っていうのがすごい楽しいわけですよ。読譜力っていうかさ、そういう遊び? なので楽曲に対して1個1個向き合っていくだけだから、うん。時間的に疲労した日とかはあるけど(笑)。
──いろんなタイプの曲を歌えて楽しい! という感じですか。
Salyu はい。それだけ! ほんとに。
──Salyuさんは、こういう音をバックに歌いたいとか、こういう音楽性を追求したい、というこだわりはあまりないわけですか。
Salyu 自分が選んだ、受け入れた曲が目の前にあれば、それを歌うだけですね、うん。
CD収録曲
- ただのともだち(作詞:坂本慎太郎 / 作曲:小山田圭吾)
- muse' ic(作詞:Salyu、国府達矢 / 作曲:小山田圭吾)
- Sailing Days(作詞:七尾旅人 / 作曲:小山田圭吾)
- 心(作詞:いとうせいこう / 作曲:小山田圭吾)
- 歌いましょう(作曲:小山田圭吾)
- 奴隷(作詞:坂本慎太郎 / 作曲:小山田圭吾)
- レインブーツで踊りましょう(作詞:七尾旅人 / 作曲:小山田圭吾)
- s(o)un(d)beams(作詞:Salyu、国府達矢 / 作曲:小山田圭吾)
- Mirror Neurotic(作詞:いとうせいこう / 作曲:小山田圭吾)
- Hostile To Me
- 続きを(作詞:坂本慎太郎 / 作曲:小山田圭吾)
Salyu(さりゅ)
2001年公開の映画「リリィ・シュシュのすべて」に、Lily Chou-Chou名義で楽曲を提供。2004年6月に小林武史プロデュースのシングル「VALON-1」で、Salyuとしてデビューを果たす。2006年にBank Band with Salyuとして「to U」、2008年にはWISEとのコラボによる「Mirror feat. Salyu」をリリースするなど、他アーティストのコラボにも意欲的。自身のオリジナルソロ作品もコンスタントに発表し、2008年11月には初のベストアルバム「Merkmal」をリリース。2009年2月には初の日本武道館公演も成功させた。2010年3月にソロとして3枚目となるアルバム「MAIDEN VOYAGE」をリリース。2011年からは新プロジェクト「salyu×salyu」としての活動を開始し、Cornelius=小山田圭吾との共同プロデュース作品「s(o)un(d)beams」を完成させている。
CORNELIUS(こーねりあす)
小山田圭吾によるソロユニット。1991年のFlipper's Guitar解散後、1993年からCORNELIUS名義で音楽活動を開始する。アルバム「THE FIRST QUESTION AWARD」「69/96」は大ヒットを記録し、当時の渋谷系ムーブメントをリードする存在に。1997年の3rdアルバム「FANTASMA」、続く4thアルバム「POINT」は世界21ヵ国でリリースされ、バンド「The Cornelius Group」を率いてワールドツアーを行うなどグローバルな活動を展開。2006年のアルバム「Sensuous」発売に伴う映像作品集「Sensurround + B-sides」は米国「第51回グラミー賞」最優秀サラウンド・サウンド・アルバム賞にノミネートされた。現在、自身の活動以外にも国内外多数のアーティストとのコラボレーションやリミックス、プロデュースなど幅広いフィールドで活動を続けている。