ナタリー PowerPush - サカナクション

山口一郎語る「裏と表」「バンドの旬」

言葉が付くと音を食べちゃう

──「INORI」と「ストラクチャー」がこのアルバムにとっての鍵だということでしょうか。

サカナクションの“真裏”ですね。「僕と花」や「ミュージック」で僕らを知った人がアルバムを聴くと、いきなり「INORI」が始まるという(笑)。今回のアルバムは、表と裏の間を埋めてる作品って感じです。

──“真裏”がインストなのはなぜ?

歌があるって時点で「今まで通りのサカナクション」になるんですよ。メロディがあるし、言葉が音楽を食べちゃうから。

サカナクションのメンバーがインスタントカメラでレコーディング期間中に撮影した写真。

──食べちゃう?

余白がなくなるっていうか。言葉のイメージの曲になっちゃう。「INORI」にはラララで合唱が入ってるんですけど、その部分に歌詞をあてはめたバージョンも作ったんですね。でも歌詞があると、曲の景色を言葉が担ってしまう。聴く側が、歌を聴く感じで聴くから、言葉が音を食べちゃう。景色を与えてしまうんですね。

──音を聴かせたいところなのに、それが歌に付随する単なるイントロや間奏みたいに思われるかもしれない、と。

そうそう。僕らが踊るときにそういう情報(言葉の作る景色)はいらないんですよ。言葉が欲しいわけじゃない。余白が欲しいんです。自分でイメージしたいし。そういうところで言葉はいらないかなって。「ストラクチャー」も最初は歌詞があったんだけど、例えば最後に歌詞が出てきて、それが自分が浸ってた世界と違う歌詞だったら変な裏切りになるし。世界が狭くなる気がする。でも僕らの場合、間奏だったりブリッジを作るのも手法の1つだから。そこでの世界観もサカナクションのイメージの1つだと思うんです。それだけでも曲として成立するはずだし、それをライブでもやっていきたい。

──それはシンガーソングライターであるところの山口一郎とどうつながってくるんですか。

どうだろう……。歌があろうがなかろうが、音の作る世界観は一緒かな。

──でも以前、サカナクションの曲は生ギターで弾き語れる曲じゃないといけない、と言ってましたよね。

それは、弾き語れない歌モノは作らないという意味だったんです。曲を作っても、それをすべて歌にしたいわけじゃない。インストはこれまでも作ってたし。「ストラクチャー」は最初ギターで作ってたから歌の延長線上にあるかもしれないけど、「INORI」は関係なかったな。踊れればいいやって。

──そういった“真裏”があって、“表”が「ミュージック」「僕と花」「夜の踊り子」「Aoi」だったりすると。

それらが僕が外に向かって作った曲で、それを好きだっていう人たちに、インストも好きになってほしいという期待も込めた感じですね。“表”しか聴かないって人がいたらイヤだし、“裏”しか聴かないって人がいてもイヤだし。

──“表”と“裏”の融合の仕方、加減が難しかったと思います。

作りまくって、混ぜ合わせて混ざらなかったら抜こうと思ってましたね。ただ自分たちが作るものだから、混ざらないことはないと思ったし、実際混ざったなと思いますね。

サカナクションはメインストリームではない

──タイアップ曲でもなく“表”でもない歌モノに関してはどういう考えですか?

ダンスミュージックの中にどう歌謡曲を混ぜるか、ってことだけ。歌詞も全部。そこで「サカナクションらしさ」を探っていった感じですね。

──その「サカナクションらしさ」とは、現在の自分たちの興味ってことですか?

そうです。生ドラムを使った曲がサカナクションらしいとか、打ち込みの曲がサカナクションらしくないとか、そういう特定のサウンドスタイルの意味じゃない。

──サカナクションが今まで作ってきたイメージとか、リスナーに与えているであろう印象は、作品を作る上で考えますか?

もちろん。考えた結果こういう形だと思いますね。

──お客さんはサカナクションにどういうものを期待してると思いますか?

“斜めに入ってくる音楽”だと思われてると思うんですよ。ギターロックでバキっとわかりやすいメロディを英語で歌うんじゃなくて、ロックっていうフォーマットと、フォークっていうフォーマットと、ダンスミュージックっていうフォーマットが混ざってて、普通じゃない感じ、って思われてる気がする。それを斜めって思ってるけど。

──メインストリームではない?

メインではないと思います。でも今のシーンではいい違和感と捉えてくれてるから、タイアップの話も来てるんだと思うし。自分たちで言うのもアレだけど、“旬”だと実感してもおかしくない状況になってるんじゃないかなって思いますけど。

──そうですね。山口くんは戦略ってよく言いますが、かなり考えてこの状況に持ってったっていう実感はあるんですか?

それはあります。テレビに露出するって決めて、タイアップとかもあって、そうなるといいなと思ってオファーを受けてきて。実際に反響があったうえでこうなってると思うから。その戦略的な結果と感じてますけど、運もあるでしょうね。でもまだまだだし、もっと食い込んでいかなきゃって思ってますけど。

──具体的なレベルとしては、どんなアーティストを思い描いてますか?

どのレベルかな……。ユニコーン。

──一般層にも知られてるレベル。

“バンド”として知られてるっていうレベル。それが自分の理想ですけどね。

ニューアルバム「sakanaction」/ 2013年3月13日発売 / Victor Entertainment
初回限定盤 Blu-ray [CD+Blu-ray] 3990円 / VIZL-519
初回限定盤 Blu-ray [CD+Blu-ray] 3990円 / VIZL-519
初回限定盤 DVD [CD+DVD] 3780円 / VIZL-520
通常盤[CD] 3000円 / VICL-63999
通常盤[CD] 3000円 / VICL-63999

iTunes Storeにて配信中!

iTunes - ミュージック - サカナクション「sakanaction」
CD収録曲
  1. intro
  2. INORI
  3. ミュージック
  4. 夜の踊り子
  5. なんてったって春
  6. アルデバラン
  7. M
  8. Aoi
  9. ボイル
  10. 映画
  11. 僕と花
  12. mellow
  13. ストラクチャー
  14. 朝の歌
  15. 『バッハの旋律を夜に聴いたせいです。』(Ks_Remix)

※15曲目は初回生産限定盤のみ収録。

初回限定盤Blu-ray / DVD 収録内容
  • version21.1 fourth(DocumentaRy)
  • TOKYO FM & JFN present EARTH×HEART LIVE 2012(アルクアラウンド)
  • SAKANAQUARIUM 2012 ZEPP ALIVE(OPENING / Klee / フクロウ / ホーリーダンス / インナーワールド / サンプル)
  • SPACE SHOWER SWEET LOVE SHOWER 2012(アイデンティティ / ルーキー)
  • 僕と花 ビデオクリップ(Blu-rayのみ収録)
  • 夜の踊り子 ビデオクリップ(Blu-rayのみ収録)
  • ミュージック ビデオクリップ(Blu-rayのみ収録)
サカナクション

山口一郎(Vo, G)、岩寺基晴(G)、江島啓一(Dr)、岡崎英美(Key)、草刈愛美(B)からなる5人組バンド。2005年より札幌で活動開始。ライブ活動を通して道内インディーズシーンで注目を集め、2006年8月に「RISING SUN ROCK FESTIVAL 2006 in EZO」の公募選出枠「RISING★STAR」に868組の中から選ばれ初出場を果たす。2007年5月にBabeStarレーベル(現:FlyingStar Records)より1stアルバム「GO TO THE FUTURE」、2008年1月に2ndアルバム「NIGHT FISHING」を発表。その後、初の全国ツアーを行い、同年夏には8つの大型野外フェスに出演するなど、活発なライブ活動を展開する。2009年1月にVictor Records移籍後初のアルバム「シンシロ」をリリース。2010年3月に4thアルバム「kikUUiki」を発表し、同年10月に初の日本武道館公演を成功させる。2011年には5thアルバム「DocumentaLy」をリリースし、同作のレコ発ツアーの一環で初の幕張メッセ単独公演を実施。約2万人のオーディエンスを熱狂させた。2012年は「僕と花」「夜の踊り子」という2枚のシングルを発表。2013年3月に約1年半ぶりとなるアルバム「sakanaction」をリリースした。