ナタリー PowerPush - サカナクション

初ドラマ主題歌で得た新手法 2012年第1弾シングル「僕と花」

メディアを使ってリスナーを濾過する

──テレビを介してこれまでのサカナクションのファン層ではない人たちへアピールできると思った?

インタビュー写真

サカナクションの、というよりはバンドとか、日本のロックとか。そういうものの面白さを体験できていない若者たちに届けるには、テレビメディアはすごく重要だし、知らないことを知ったときのカルチャーショックを与えられるきっかけや入り口として使えるなと思ったし。もちろんそこで全部をわからせることは無理だけど、ただ利用するんじゃなく、相互に利用しあえたらいいなと思って。そういう方法論もありうるなと思ったんですね。今まではテレビメディアの中で全てを見せようという考えしかなかったけど、今はいろんなメディアがある。僕らが仮に民放のテレビ番組をつまらないと思っても、直接変えられるわけじゃない。でもそこに入り込んでうまく利用して、そこでパフォーマンスしたりエンタテインメントしたりして、掴んだお客さんをどこに着地させるか。そこでUstreamなりTwitterなりYouTubeなりに引き込めば、いい意味で濾過できるんじゃないかと思って。

──濾過? 

例えば……「『バッハの旋律を夜に聴いたせいです。』」で「Mステ」に出演したとき、僕らはラップトップを前に5人並んで登場したんです。サカナクションを知ってる人は、あれがスペシャルなことだとわかるけど、初めて観た人はこれがフラットだと思う。それで興味を持った人はまずYouTubeを観る。そこで「『バッハ~』」のPVを観て、さらに面白いと思ってほかの曲も聴いてみたいと思うか、趣味じゃないと思って離れていくか。そこで濾過できる。言い方は悪いけど、選別できる。僕たちを好きになるエッセンスを持った人たちだけが集まってくる。そういうメディアの使い方って、今までなかったわけじゃないけど、意識されてなかった。もちろん曲を作る、ライブで演奏するのは表現者として大前提だけど、それをさらにたくさんの人たちに聴いてもらうために、結果じゃなく作為的にやっていくのも表現としてアリだと思うんです。それが「戦略すら表現」ということで。現代的だし、テクノロジーを利用するのは当たり前の話だし。Pro Toolsが出てきたときと同じようにね。だからすごく健全じゃないかと。

──ソーシャルメディアと旧来のマスメディアを複合的に利用することで、サカナクションの魅力をより多くの人たちに知らしめたい、と。

そうですね。でも僕たちのことだけじゃなく、もっと音楽の楽しみ方を知ってもらいたいんです。こんな音楽もあるんだよ、こんな面白いものがあるんだよと。そこをもっと模索したい。

ドラマ主題歌はチャンス

──なるほど。そういうことを考えているとき、テレビドラマの話がきたと。

もうタイムリーでしたね。今回は指名していただいて。ありがたい話ですよ。ちょっと前だと、テレビドラマの主題歌を作るようなミュージシャンなんて敵だと思ってたけど(笑)。ずっとそこに対してのカウンターというつもりで音楽をやってたから。テクノロジーやインターネットの使い方も、そこに抵抗していくためにどうしたらいいのか考えていた。でもテレビメディアを利用するって考え方になったときに、いいタイミングで話がきた。うれしかったですよ。チャンスだ!と普通に思った。

──自分に何を求められていると思いました?

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まずドラマの内容を説明していただいて、2回目までの脚本が完成していたので、それも読ませていただいて。37歳になって医者になった人の話で。人生何歳からでもやり直せるという前向きな、背中を押すような明るい曲をお願いしますと言われて。過去のサカナクションの曲で例として挙げられたのが「アイデンティティ」とか「アドベンチャー」。いわゆるアップテンポのダンスロックみたいな。

──全然「僕と花」とは違いますね(笑)。

ええ(笑)。「わかりました」ってそのときは受けたんですけど、台本を読んでみたら、その曲調だと内容に合わないかもって相談して。1stアルバムで言うと「夜の東側」とか、2ndアルバムだと「ワード」とか。そういうテイストの曲のほうがドラマの内容には合うと思うし、歌詞の世界観も作りやすいと思うんです、という話を逆提案したんです。そうしたらプロデューサーさんが理解してくださって。結構スケジュールがなかったんですけど、思いどおりやらせていただいて。今までは自分の作品として、自分のストーリーとして作ってきたけど、今回の曲はドラマという作品の一部にもなるというのが新感覚だったし、そこに挑戦するんだという気持ちが強かった。それさえも自分のストーリーにしてしまおうと。そこがシングルとして着地させる意味でもあったんです。

ニューシングル「僕と花」 / 2012年5月30日発売 / 1200円(税込) / Victor Entertainment / VICL-36705 / レコチョクshoppingへ

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CD収録曲
  1. 僕と花
  2. ネプトゥーヌス
  3. ルーキー(Takkyu Ishino Remix)

※初回プレス分のみ20ページブックレットが付属。通常形態のブックレットは8ページ。

「僕と花」
関西テレビ・フジテレビ系ドラマ「37歳で医者になった僕 ~研修医純情物語~」主題歌

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サカナクション(さかなくしょん)

山口一郎(Vo, G)、岩寺基晴(G)、江島啓一(Dr)、岡崎英美(Key)、草刈愛美(B)からなる5人組バンド。2005年より札幌で活動開始。ライブ活動を通して道内インディーズシーンで注目を集め、2006年8月に「RISING SUN ROCK FESTIVAL 2006 in EZO」の公募選出枠「RISING★STAR」に868組の中から選ばれ初出場を果たす。2007年5月にBabeStarレーベル(現:FlyingStar Records)より1stアルバム「GO TO THE FUTURE」、2008年1月に2ndアルバム「NIGHT FISHING」を発表。その後、初の全国ツアーを行い、同年夏には8つの大型野外フェスに出演するなど、活発なライブ活動を展開する。2009年1月にVictor Records移籍後初のアルバム「シンシロ」をリリース。2010年3月に4thアルバム「kikUUiki」を発表し、同年10月に初の日本武道館公演を成功させる。2011年には5thアルバム「DocumentaLy」をリリースし、同作のレコ発ツアーの一環で初の幕張メッセ単独公演を実施。約2万人のオーディエンスを熱狂させた。2012年5月に初の書き下ろしドラマ主題歌を含むシングル「僕と花」を発表した。