音楽ナタリー PowerPush - くるり
実験の末に生み出した多国籍ファンタジー
くるりが9月17日にニューアルバム「THE PIER」をリリースした。「坩堝の電圧」以来およそ2年ぶりとなる今作には、ストレートなロックから民謡や中東音楽、EDM、ファンクなど、実にさまざまなエッセンスを含んだ14曲を収録。約5年半ぶりのナタリー登場となったくるりは、「THE PIER」が誕生した背景や制作意図について、多彩な比喩表現を使ってユーモラスに語ってくれた。
取材 / 中野明子、丸澤嘉明 文 / 丸澤嘉明
新生くるりが動き出したきっかけ
──今作「THE PIER」は2012年9月に発表した「坩堝の電圧」以来およそ2年ぶりのアルバムとなります。前作は岸田繁(Vo, G)、佐藤征史(B)、ファンファン(Tp, Key, Vo)、吉田省念(G, Cello)という布陣でしたが、2013年5月に吉田さんが脱退を発表されました。まずはそのときの心情からお聞かせいただけますか?
岸田繁(Vo, G) まあ、いろいろ大変でしたけどね(笑)。
──でも脱退を受けてもバンドとして立ち止まることなく。
岸田 いや、立ち止まったら続かないんで。辞めるというのであれば、それは仕方ないし。彼がいたくるりはそこまでだったっていうだけの話であって。まあ、くるりはブラック企業とか言われてますし(笑)。ただ音楽に対するアプローチの仕方がほかのバンドとだいぶ違うからわかりにくいところはあるのかもですね。うちはモノを作るときに作品が第一なんですよね。別に僕が歌ってなくてもいいし、「こういう作品でなければいけない」っていう縛りもない。ただ思い付いて何かが動く瞬間だけに集中していて、そこに邪念は入らないようにしていますね。
──そして吉田さんが脱退して1カ月後には「ロックンロール・ハネムーン」を配信リリースしました。
岸田 これは省念くんが抜ける前に僕が1人で弾き語りで作っていた曲なんですけど、最初はOasisみたいなブリットポップやったんです。ギターのコードも4つくらいのシンプルな曲で。彼の脱退後、アンサンブルのやり方も変わるからどうしようって思っていたときに、自分で左の小指の先を切り落とすっていう怪我をしてギターが弾けなくなってしまって。
──えっ!?
岸田 それで曲を解体して打ち込みとかで作り直して全然違うことになって。その時点でこの新しいメンバーでの化学変化が起きてるんですよね。録り終わったときには完全に次に向かって転がり始めていたんで、アルバムの中でこの曲の存在は大きかったですね。
──この曲があったから先に進むことができた。
岸田 そうですね。それはあくまで結果論ですけどね。
意味はわからんけどなんかすごい!
──「THE PIER」を聴かせていただいて、非常にファンタジー性の強いアルバムだなという印象を受けました。いつ頃から制作をスタートしたんですか?
岸田 昨年くるりのメジャーデビュー15周年でそのときにテレビのテーマソングだったりCMの曲だったりを何曲か作ってはいたんです。それでアルバムを作ろうってなったのが去年の年末とか今年の頭とかですかね。けっこう寒い時期に京都の北部にある僕の家に機材を持って集まってセッションをしながら作っていったんですけど、今までとは雰囲気の違う作品になるっていう印象はありましたね。
佐藤征史(B) 京都市街からだったら東京に行くほうが近いっていう場所やったんですけど、けっこう回数行きましたね。合宿もしながら。
──作品ができあがったときに手応えはありましたか?
ファンファン(Tp, Key, Vo) すごくありました。
佐藤 マスタリングして曲順通りに聴いたときに、これまでにいいシングルを出しておいてよかったなって(笑)。
──アルバムの資料を拝見したんですが、「中東音楽」「東欧の民族音楽」「EDM」などのサウンドの特徴からジュール・ヴェルヌ「八十日間世界一周」、マーティン・スコセッシ「ヒューゴの不思議な発明」といった小説や映画作品、さらに「未来の廃墟」「水と海」など抽象的なイメージまで、さまざまなキーワードがコンセプトイメージとして並んでいますよね。
岸田 その資料はある種、煙に巻くための資料なので。「意味はわからんけどなんかすごい!」っていう(笑)。
──それは十分伝わりました(笑)。
岸田 何かを模して作ろうとは思ってないですけど、何かから得たヒントを混ぜたりとか、絶対取り合わせられないと思っていたものを混ぜるっていう作業はしました。先ほどファンタジックっておっしゃいましたけど、例えば女子高生がひょんなことから戦国時代に行くみたいな発想は昔からあると思うんです。そういう「なんですかそれ!?」っていうことを一生懸命やったっていうんですかね。
──なるほど。
岸田 例えば料理で言うと、釣ったアジを放っておいたら腐ってるみたいだけど食べてみたら意外とおいしくて、そこから一夜干しが始まった、みたいな。そういうことをあらかじめ期待しながらやって、その成功例をすくい上げていったっていう。そうすると新しい音楽のようで実は違う国や違う時代にすでに同じようなものが生まれてたっていうことを確認できたりするんですよね。いろいろ実験していたら、メンバーも楽しそうだからよかったなっていう(笑)。
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- ニューアルバム「THE PIER」2014年9月17日発売 / SPEEDSTAR RECORDS
- 初回限定盤 [CD+ブックレット] 5400円 / VIZL-719
- 初回限定盤 [CD+ブックレット] 5400円 / VIZL-719
- 通常盤 [CD] 3132円 / VICL-64167
- iTunes Store レコチョク
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CD収録曲
- 2034
- 日本海
- 浜辺にて
- ロックンロール・ハネムーン
- Liberty&Gravity
- しゃぼんがぼんぼん
- loveless<album edit>
- Remember me
- 遥かなるリスボン
- Brose&Butter
- Amamoyo
- 最後のメリークリスマス<album edit>
- メェメェ
- There is (always light)
初回限定盤 仕様特典
- 7inchサイズジャケット
- 300ページを超えるアルバム収録曲全曲の楽譜が付属
- 「Liberty&Gravity」のハイレゾ音源がダウンロードできるシリアルコード
- 京都音楽博覧会2014 IN 梅小路公園
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2014年9月21日(日)京都府 梅小路公園 芝生広場
<出演者>
くるり / Penguin Cafe(イギリス)/ トミ・レブレロ(アルゼンチン)/ サム・リー(イギリス)/ ヤスミン・ハムダン(レバノン) / 椎名林檎 / tofubeats / サラーム海上
くるり
1996年、立命館大学のサークル仲間の岸田繁(Vo, G)、佐藤征史(B)、森信行(Dr)により結成。1998年10月にシングル「東京」でメジャーデビュー。2007年9月より野外イベント「京都音楽博覧会」を主催している。2010年に9thアルバム「言葉にならない、笑顔を見せてくれよ」、2012年に10thアルバム「坩堝の電圧」をリリース。2013年より全県ツアー「DISCOVERY Q」を開催中。2014年9月17日に「THE PIER」を発表する。常に革新的なサウンドを提示し続けており、現在は岸田、佐藤、ファンファン(Tp, Key, Vo)の3人編成で活動している。