ナタリー PowerPush - Prague

バンドのポテンシャルを見せつける新機軸シングル「Distort」

昨年9月にメジャーデビューを果たし、グルーヴ感あるバンドサウンドで注目を集める3人組、Prague(プラハ)。3rdシングル「Distort」は、ジャンルを超える彼らの貪欲な野心を示す1枚だ。表題曲では3ピースのバンドサウンドにこだわった四つ打ちのダンスナンバーに挑戦。カップリングの「願い feat. Mummy-D」ではRHYMESTERのMummy-Dを迎え、浮遊感あるミドルチューンでロックとヒップホップとの融合を実現している。さらには前作「Light Infection」をDEXPISTOLSが、未発表曲「バタフライ」をDJ TASAKAがリミックスし、ダンスミュージックとしても機能する楽曲の潜在能力を見せている。

今回ナタリーでは、鈴木雄太(Vo, G)、伊東賢佑(Dr)、金野倫仁(B)の3人にインタビューを実施。彼らの目指すもの、そしてゼロ年代に思春期を過ごしたという23歳の3人の世代感について話を訊いた。

取材・文/柴那典 撮影/中西求

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今回は楽曲の幅の広さで勝負したい

──今回のシングルは、4曲すべてでPragueというバンドが一筋縄ではいかないバンドであるということを見せる1枚ですね。こういう曲の並びにしようというのはどこから決まっていったんでしょう?

伊東賢佑(Dr) 3枚目のシングルで自分たちがどういうアプローチができるかについて、具体的な案はいろいろあったんです。その中の1つとして、フィーチャリングの曲とリミックスを入れるという形を選んだんですね。自分たちの持っているスキルや表現できる幅の広さを最大限アピールしたかったから。自分たち自身、1つの枠にとらわれたくないし、こだわりたくないという考えがあるんです。

インタビュー写真

──ではまず、表題曲の「Distort」について聞かせてください。Pragueというバンドにとってグルーヴはひとつの大事な要素ですけれど、ここまでディスコロックのテイストを持った曲は新鮮ですよね。こういう曲のテイストは最初から持っていたんでしょうか? それともいろんな曲を作っていく中で手にしていったものですか?

伊東 後付けですね。この曲、もともとは完成させることができなくて置いといた曲なんです。

鈴木雄太(Vo, G) 最初に四つ打ちでいこうということだけ決めて、どこに当てはめてもいいようなメロディだけを作ったんです。でも、そういうやり方で曲を作ったことがなかったし、単純にそれを曲として構成していくスキルがなかった。それで、1年越しでやっとできた感じなんですよね。

──曲を聴くと、シンセベースやディレイギターなど、曲の展開ごとにいろんなアイデアが盛り込んまれてる感じがします。

鈴木 四つ打ちのビートは基本的に変えないので、そこでどれだけ面白く展開させていけるかを考えたら、おのずとそういう発想が必要になってくるんですよね。最初はそのスキルが足りなくて詰まっていたんですけど、完成したときは楽しみながらアレンジできました。

わかりやすく「踊ろうよ」と歌うような歌詞は書けない

──Pragueというバンドは、自分のできることよりも必ずちょっと上を目指しますよね。後から自分のスキルをそれに追いつかせていくというところがあるように思います。

伊東 ありますね。3人ともそうだと思う。無意識のうちにやってる部分ではあるんですけど。でも、ただスキルを見せるという方向だけを考えてしまうと、趣旨から外れてしまう。きちんとポップミュージックとして成り立たせるという意識は、3人とも同じですね。

──歌詞のテーマも興味深いですよね。曲のスタイルはダンスロックだけど、歌詞は「すべて忘れて楽しいことに身を任せよう」というような内容じゃない。「垂れ流しの嘘に 慣れるのが怖いの」と、ダンスミュージックによくある快楽主義とは逆のことを歌っている。

鈴木 わかりやすく「踊ろうよ」と歌うような歌詞が書けないんですよね。そこまで振りきれてない自分がいる。僕が言う「踊る」というのは、ただ音楽にあわせて踊るというよりも、人生観における踊り方、この社会でどう踊るかということなんだと思います。今の社会でどう生きていくかというところに執着している自分がいるので、結局そういう歌詞になっちゃうんですよね。

──そういう考え方は自分たちのどういう部分から出てくるんだと思います?

金野倫仁(B) 現代っ子だからでしょうね。すべて忘れて踊ろうよと言っても、そこまで不自由じゃないし、そこまで嫌なことがあるわけでもない。だから、そう歌うことに現実味がない。僕らの世代のリアルな目線という感じがしますね。嘘がないというか。これが本当だろう、っていう感覚はあります。グレたくてもグレる理由のないヤンキーみたいな(笑)。

鈴木 そう。やり場がないというか、行き場がないんですよね。

Mummy-Dさんは現実を男らしく紳士的に書いている

──カップリングの「願い」についても聞きたいんですけど。まず、Mummy-Dさんをフィーチャリングで迎えるというアイデアは、どの段階で出てきたんでしょう?

鈴木 ディレクターを含めて話し合いで決めました。自分たちの曲はいろんな考え方で解釈できる曲ばっかりなんで、それをどうわかりやすく提示するかということで、ラッパーの方とやってみる。そういう方向が一番わかりやすいと思ったのでお願いしたんです。で、Mummy-Dさんにお願いしたら、自分たちが作った「願い」という楽曲のブラックな要素が前面に押し出された。それがすごく面白いなと思いますね。

インタビュー写真

──もともとはラップを入れようと思って作った曲ではなかったんですよね?

伊東 それはなかったですね。

鈴木 でも、この曲じゃなかったらラップを入れようと思わなかったでしょうね。この曲の中にある要素にMummy-Dさんが合っていたからこそお願いしたんです。

──Mummy-Dさんはヒップホップのシーン以外でもいろんなアーティストとコラボをしていますよね。で、多くのパターンはファンキーなパーティチューンだと思うんですよ。でもこの曲は真逆で、スローテンポで浮遊感のあるダークな曲。そういう曲にラップを乗せようという発想は面白いと思いました。

鈴木 Mummy-DさんがRHYMESTERで書かれているリリックを読ませていただくと、現実を正確に見てらっしゃるし、それを男らしく紳士的に書いている。そういうところがいいなと思ったんです。だから、歌詞の共作をお願いしたときも、自分たちにあわせてもらうよりもMummy-Dさんらしさを出していただきたいとお伝えしたし。にぎやかしのようなものになるとは全く思わなかったですね。

ニューシングル「Distort」 / 2010年5月12日発売 / 1223円(税込) / Ki/oon Records / KSCL-1581

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CD収録曲
  1. Distort
  2. 願い feat.Mummy-D
  3. Light Infection (DEXPISTOLS REMIX)
  4. バタフライ (DJ TASAKA REMIX)
Prague(ぷらは)

アーティスト写真

鈴木雄太(Vo,G)、伊東賢佑(Dr)、金野倫仁(B)による関東出身のスリーピースバンド。同じ高校で3年間同じクラス、軽音楽部、プライベートも一緒にいた腐れ縁の鈴木雄太と伊東賢佑の2人が、同じ音楽専門学校に進み、2006年に金野倫仁と出会って結成。自主制作盤を2枚出したところでレコード会社の目にとまる。2009年9月9日シングル「Slow Down」でキューンレコードよりメジャーデビュー。