ナタリー PowerPush - パスピエ
話題沸騰の文化系ニューカマー 初アルバムは「わたし開花したわ」
彼らの名前はパスピエ。キャッチコピーには「21世紀流超高性能個人電脳破壊行進曲」とある。1stアルバムのタイトルは「わたし開花したわ」。そう、回文だ。本人たちの容姿を伝える写真はない。唯一、メンバー5人の髪型のみ詳細に判別できるイラストが公表されていて、しかもご丁寧なことに目のあたりには横線が引かれている。まるで具象と抽象を撹拌させたかのような佇まい。彼らのこの捕らえどころのなさは意図的なものなのだろうか?
確かなこともある。「わたし開花したわ」がじわじわと支持を広げている。実際、そこに収められた8曲を聴くと、有機的かつスピード感あるバンドアンサンブルに心が躍る。懐かしさと新しさが微妙なバランスを保つ歌世界にも引き込まれる。ざっくり言うなら“いい曲”が多い。いい曲とはいい絵にも似ている。構図、配色、絵筆のタッチなど、さまざまな要素が複合して生まれるものだ。
東京藝術大学卒の俊才であり、バンドの中心人物でキーボードの成田ハネダと、一度聴いたら心に棲みついてしまう歌声の持ち主、ボーカルの大胡田なつきに話を訊いた。
ドビュッシーとポップロックを組み合わせたい
──「パスピエ」というバンド名はドビュッシーの曲名から取ったそうですね。
成田ハネダ 語呂の良い名前で「なんかないかな?」って考えてて、「パスピエ」って曲がすごく好きだったからこれでいこうって。僕はドビュッシーやラベルのような印象主義の音楽が好きなんですよ。「それとポップロックを組み合わせたいな」と思ったのがこのバンドをやる動機でもあったんで、ならば"名は体を表す"じゃないけど、そこから取りたいなって。
──ところで“成田ハネダ”というのは、ずいぶん人を食った名前ですよね。
成田 お世話になっているライブハウスの店長さんにつけてもらったんです。それ以来、「成田ハネダとして生きていこう」と。
──「旅がしたくなる名前だな」みたいな受け止め方でいいですか。
成田 はい(笑)。でもライブハウスって外人の方も来るじゃないですか? 名前を訊かれて答えると、「俺ナリタは知ってるよ。最近はハネダからも来れるようになったよね」とか、この名前はイジられやすいんですよね。
──一方、大胡田さんという名前には歴史を感じますよね。
大胡田なつき 本名ですけど、あまりない苗字なんでしょうね。
──シャチハタとかは既製品はなく……。
大胡田 注文です(笑)。
覆面バンドのつもりはない
──既にライブを観ている人は別でしょうが、アルバム「わたし開花したわ」で初めてパスピエを知った人は、いわゆる"覆面バンド"的なイメージも感じていると思うのですが……。
成田 ずっと覆面で活動しよう、とかそういうことは思ってないんです。ただ今回大胡田が描いたジャケットやアーティスト写真がああいう匿名性の強いものになったので、「だったら今はそれに乗っかろうか」って感じなんですよ。
──この状況を自分たち自身も楽しんでいるということ?
成田 「自然に思いついたことをやっていこう」っていうだけなんです。それをどんどんやっていくうち「〇〇に似ている」とか言われもするだろうけど、そこで固められカテゴライズされ、しかし脱却し、再び思いついたことをやって……という、この先もその繰り返しでいくんだと思います。
──要は“思いつくこと”を止めなければいいわけですね。カテゴライズされるまでには時間差もあるし。
成田 そうですね。そうやって僕らは何度でも繰り返し発信したいし、それをその都度リスナーの方たちが受け入れてくれたらなって思うんです。
パスピエ(ぱすぴえ)
2009年に成田ハネダを中心に結成。メンバーは大胡田なつき(Vo)、成田ハネダ(Key)、ミサワマサヒロ(G)、露崎義邦(B)、やおたくや(Dr)の5名。都内を中心にライブを行い、2010年3月に自主制作盤「ブンシンノジュツ」をライブ会場限定でリリース。2011年11月、初の全国流通作品となる1stアルバム「わたし開花したわ」を発表した。