ナタリー PowerPush - NICO Touches the Walls
本能剥き出しの攻撃的キラーチューン完成 新曲「サドンデスゲーム」が明かすバンドの現状
バンドの状況が肉体的な歌詞を生んだ
──さて、歌詞も今回かなりぶっ飛んだ感じで。
光村 そうですね。歌詞を書くときって、去年までは割と大きなフィールドをイメージすることが多かったんです。例えば「世界とは」「人間とは」みたいな。そういうところで自分の中のいろんなキーワードを結びつけながら書いてたんですけど、今回はそういうこともやめちゃって。夜な夜な親に隠れてゲームしてるっていう、そういうシチュエーションだけを、自分の思いつく韻で並べていった感じですね。でも大したメッセージもなく書き始めていったら、自分の核にあるものとしてにじみ出ちゃったみたいな。シチュエーションがハッキリしているが故に、結構何をやっても許される気がして。どうせすっごい何でもないシチュエーションなら、どう飾り付けても全部オチが付くっていう安心感があって。どうにでもなれみたいな。もっと大きな世界観で書いてるとプレッシャーもあるし。
──書き切らなきゃいけないし、辻褄もあわせなきゃいけないし。
光村 前はそういう大きな世界観にチャレンジしたかったっていうのもありますけど、今はバンドが肉体的にきてるから。僕も肉体的なところで歌詞を書きたいなって、そういう相乗効果ですね。
──歌詞は自分たちにとってどれくらい重要なもの?
光村 あまり重要だとは思ってないです。
──日本において歌詞はリスナーと共有するための一番有効な道具って側面が強いと思うんですよ。メロディやリズムよりも、歌詞でそのバンドにコミットできるというリスナーが多いと思うんですが、そういうことは意識しますか?
光村 意識せざるを得ないってことはありますけど、洋楽と違って日本語は、奥ゆかしさみたいなものが認められるじゃないですか。あえて少ない言葉の中で行間を読ませるみたいな。そういうのができるから便利だなとは思うんですよね。ただ僕自身が歌詞を書きたくて、何か伝えたいメッセージがあって音楽を始めたというよりも、単純に音楽が好きで、曲を作りたいってところから始まってるんで。歌詞はあとからついてきたのがスタートだから、いまだに歌詞を書くことをベースに音楽をやるのは意識しないとできないです。
──言葉で伝えられるなら、音楽をやる必要はない。言葉にならないものをぶつけたいから音楽をやってるってことですね。
光村 そうですね。曲を作れば作るほどそれが強くなって。歌詞が自分のプライオリティの中で一番ではないんです。それよりも、まずミュージシャンとして認められたいっていうのがあるんですよ。とにかく作品が作品であるためには、それを作ってる人が発するものがオリジナルじゃないと、どうがんばっても意味がない。そこをハッキリさせるために音楽をやってるところはあるかもしれません。
──自分のオリジナリティは言葉ではなくて、演奏することで発せられるものだと?
光村 そこから始まるなって思います。
──そういう部分が今回の「サドンデスゲーム」では出てると思いますか?
光村 意思表示というか、そういう側面はあるでしょうね。
バンドの生き様を表した曲だからネタバレは怖くない
──今回のシングルでは、それぞれのパートのマイナスワンのテイクを入れてますね。楽器演奏の教則レコードみたいですが、コピーしてくれという意図なんですか?
光村 まさにそういうことです。
──中高生は学園祭でこの曲をコピーしてくれと。
対馬 CD出て1カ月後に文化祭があると思うんで(笑)。
古村 夏休みの課題でね。
対馬 結構自分たちでも演奏しててしびれるポイントがたくさんあったんで、それを演奏しながら感じてもらいたいなと思ってます。
──なぜそういうことやろうと思ったんですか?
光村 スタジオで結構苦労しながら作ってて、その苦労感をそのままパッケージできないかと思って。だったらコピーしてもらうのが早いだろうと。今YouTubeとかで一般の素人が勝手にコピーした動画が上がってるじゃないですか。それを逆手に取って自分たちで発信すれば面白いかなって、レコーディングリハーサル映像をDVDに入れて。曲の楽しみ方が多様化してると思うんで、自分たちが発信してもおかしくないなって思いました。
──これって一種のネタバレみたいなものですよね。アレンジの細かい部分もわかってしまう。人によっては、結果としてできたものだけを見せたい、その過程を見せるのはいやだっていう人もいると思うんですよ。それを出してしまうことに抵抗はなかったですか?
光村 この曲だから出せたっていうのはありますね。いろんなマジックみたいなものをいっぱい仕込んだ、ファンタジックな曲だったらやらないと思うんですけど。自分たちの中で「サドンデスゲーム」にはファンタジーはないんですよ。ロックバンドのただの生き様を表した曲だと思ってるんで。そういう曲だからこそ分解してみても何も恥ずかしくなかったんです。これが去年のシングルだったら、絶対イヤでしたけどね。それが自分からふつふつ出てくるシャウトしたい感みたいなものが出てきたのも不思議で。何で3年前には認められなかったのに、今になってすごくいいと思えるようになったのか? 今の自分がそういうモードになったのが不思議です。
──認められなかったっていうのは?
光村 性格上あんまりハイボルテージな人間でもないんで。ライブになるとボルテージがあがりますけど……自分らしくないってずっと思ってたんですよね。ロック然とした自分の姿みたいなのが。でも何年もライブやってたらそういう自分がいることを認めざるを得なかったんです。ステージに上がればそうなってしまう。そういうのを無理に飾り付けして隠していくよりも、そのまま出したほうがいいんじゃないかっていうふうになれたんですよね。それがすごく不思議で、なんで今気持ち良く受け入れられたんだろうって。不思議でしょうがなかったんですけど、体が反応してるんで。
──それはロックやってる人としては別に不思議なことでもなんでもないと思いますが、彼の変化は皆さんどう捉えてますか。
古村 不思議じゃなかったですね。むしろ「それがイヤなんだ!」って思ってたし。ようやく素直になったか、みたいな。
──そういう意識が彼から出てくることで、バンドとしての演奏に変化が出てきました?
古村 バンドとしてのまとまりとか、意志が一致してカチっとする感触はありますね。
誰にもできないことをするのがフロントマン
──光村さんはフロントマンとして何を心がけてますか。
光村 やっぱり誰にもできないことをやらないといけないなって。お客さんもできないし、他のメンバーにもできないってことをやらないとフロントマンじゃないと思うので。
──お客さんと一番近いところにいるのがフロントマンっていう意識はある?
光村 それはあんまりないですね。むしろお客さんといかに違う存在になれるかが大事じゃないかと。それがあるからバンドとして見せるということができるのかなって。
──お客さんと同じところに立って、同じ目線で見るんじゃなくて、ということですか?
光村 そう。バンドって特別だと思うんですよ。だから特別な気持ちでやらないと、特別な気持ちは持って帰ってもらえないと思う。
──等身大の僕たちを観てくださーい、なんて冗談じゃないと。
光村 僕的にはしっくりこないですね。でも特別な存在の人が、すごく自分(観客)と近い気持ちを共有できてたら、それはすごくワクワクするとは思うんですよ。それはお客さんや観る人がどんなタイミングで観るかだと思いますけど、そこは強要できない。ステージに上がる自分としては、いつも特別な気持ちで上がるようにはしてますけど。
CD収録曲
- サドンデスゲーム
- 泣くのはやめて
-bonus track-
- Instrumental
- Instrumental (-Mitsumura Guitar)
- Instrumental (-Furumura Guitar)
- Instrumental (-Sakakura Bass)
- Instrumental (-Tsuhima Drums)
DVD収録内容
- 「サドンデスゲーム」レコーディングリハーサル映像(メンバー別マルチアングル)
- 「サドンデスゲーム」TOURファイナルLIVE Ver.@YOKOHAMA BLITZ 2010.06.12
NICO Touches the Walls
(にこたっちずざうぉーるず)
2004年4月に光村龍哉(Vo,G)、古村大介(G)、坂倉心悟(B)の3人で結成。同年7月に対馬祥太郎(Dr)が加入し、現在の編成となる。同年ヤマハのバンドコンテストに出場し、優勝に準ずる賞を獲得。2005年から渋谷と千葉・柏を中心にライブ活動をスタートさせる。2006年2月に初のミニアルバム「Walls Is Beginning」をインディーズレーベルから発表。その後「SUMMER SONIC」「ROCK IN JAPAN FESTIVAL」などの夏フェスやライブイベントへの出演を経て、2007年11月にミニアルバム「How are you?」でメジャーデビューを果たす。2008年9月に1stフルアルバム「Who are you?」、2009年11月に2ndフルアルバム「オーロラ」をリリース。2010年3月には初の日本武道館ワンマンライブを開催し成功を収める。メンバー全員が1985年生まれと若手ながら、楽曲のクオリティの高さと演奏力に定評がある。また、エネルギッシュなライブパフォーマンスも多くのロックファンを魅了している。