音楽ナタリー Power Push - ザ・なつやすみバンド

想像力から生まれた毒入りポップアルバム

ザ・なつやすみバンドが前作「パラード」から1年5カ月ぶりとなるニューアルバム「PHANTASIA」をリリースした。

イラストレーター惣田紗希のデザインによる、漆黒の夜空に星々のきらめくジャケットのイメージのように、収録されている全12曲はどれも粒ぞろいの仕上がり。大きく広がったバンドの音楽を旅するようなポップな作品となっている。ザ・なつやすみバンドはいかにしてこのアルバムを作り上げたのか、そして、そのポップネスの源には何があるのか話を聞いた。

取材・文 / 小田部仁 インタビュー撮影 / 関口佳代

当たり前で一番大切なところに立ち返った

──まず「PHANTASIA」というアルバム名の由来を伺いたいのですが。

ザ・なつやすみバンド

MC.sirafu(Steelpan, Trumpet) ブルーノ・ムナーリという画家がいるんですけど、その人の作品に「ファンタジア」という本があって、そこから取りました。言葉自体には、いろんな意味があるんですけど「想像力」とか「空想する」「妄想する」とか。バンドって長くやっていると最初に音楽を始めたときの衝動とか、「オリジナルやってみよう!」みたいな感覚を忘れちゃったりするんですけど、このアルバムではそういう衝動をもとにイチからみんなで作ってみたアルバムですね。初心に戻る……ではなくて想像してみるっていう、当たり前で一番大切なところに立ち返りました。

中川理沙(Vo, Piano) まず、最初にあったのは、「ハレルヤ」という曲。この曲は自分が今まで作った中で一番前向きな曲で。これがあればアルバムは大丈夫かなと思えるような曲だったんです。その後、パラパラと曲ができていくうちにsirafuさんが「ファンタジア」という曲を作ってきて、その「想像」というキーワードからほかの曲の歌詞とかもできあがった気がします。

MC.sirafu(Steelpan, Trumpet)

MC.sirafu あと、個人的に、いろんなメディアで見かける音楽のあり方とか、人のそれに対する考え方や見方も想像力がなくなってきて予定調和の中にあるような気がするんですよ。みんなが期待しているものから外れない、どこか全員同じ方向を向いているような感じがするんです。だからこそ、もう1回想像力を働かせて、普通に面白いことをやろうぜっていうのが、今一番僕らにとっても新しかったり、やっていないことなんじゃないかなって思って。

──高木さんと村野さんのお二人は、制作にあたってどのような思いを持って臨みましたか?

高木潤(B) 前作の「パラード」は、前々作の「TNB!」から3年という期間を経てのアルバムだったので、いろいろと自分もバンドも変わっていて。だからそれに合わせて“がんばった”という感覚がありました。でも、今回は1年というスパンで作ったものだったので、あまり気負わずに今できることが素直にできたような気がしています。あと、ベースが好きになりました(笑)。

村野瑞希(Dr) 私も……無理をせずに、身の丈にあったことができたような(笑)。個人的にはバンドのメンバーとして以前よりも曲作りとかがわかるようになってきた感覚があるので、気持ちは1周して初心に戻ったけど、より音楽をやる上での筋肉が付いたような気がしています。

高木 それぞれのメンバーのこだわりが強く出ているのがレコーディングする中でけっこう感じていました。納得いかないからここだけは録り直すっていう作業は前回よりも圧倒的に多かった気がする。

中川 前がそもそも全然なかったんですよね……そういえば。自我が芽生えてきたんですかね? 私たちもとうとう大人になったのかも……。

MC.sirafu これまでになくアルバム自体のサウンドの幅も広いですよね。ゲストも多いし。これまではバンドメンバー4人で作ってきたっていう感じがあったんですけど、月日を経て、そこに新しい出会いがあって音に広がりが出てきたっていう感じですかね。

いろんなものと出会うことで幅が広がった

──サウンドの幅に広がりが出たということに対して、思い当たる節はありますか?

中川理沙(Vo, Piano)

中川 そもそも同じような曲を作りたくないっていうのは常にあるんです。メジャーに行ってからテレビとかラジオのお仕事をさせてもらう機会も増えて、いろんな人と関わらせてもらって。このアルバムに収録されている「森のゆくえ」という曲はNHK総合の「助けて!きわめびと」という番組から依頼をもらって作った曲なんですけど。そのスタッフさんから「ザ・なつやすみバンドのイメージはがんばっていこう!って感じじゃなくてダメなときもあるよね、肩ポンポンみたいなイメージだから……」って言われて。番組自体が、悩んでる人がいてその相談に乗るプロフェッショナルな人たちがいて、悩みが解決されるときも、あまりうまくいかないときも、人によってあるっていう内容なんです。「それでも大丈夫だよ、気楽にいこう!」って伝えるようなエンディングを作ってほしいって言われて、なんかジーンってきちゃったんですよね。番組を作っている人たちが観ている人たちのことをすごく想像しながら作っているんだなっていうのがわかって。そういうものに影響されて今回は曲を作った気がしています。いろんなものと出会うことで幅が広がったかな。

高木 前より世界観が壮大になったと思いますね。「Odyssey」なんか特にそうだと思うんですけど、何かが飛び出してくるような、前よりも明らかに弾けている感じ。歌詞については特にそんな印象が強いです。

ニューアルバム「PHANTASIA」/ 2016年7月20日発売 / 2700円 / SPEEDSTAR RECORDS / VICL-64599
「PHANTASIA」
収録曲
  1. ファンタジア
  2. Odyssey
  3. FULL SWING !
  4. 森のゆくえ
  5. O.V.L.U.V. part1
  6. Donuts
  7. GRAND MASTER MEMORIES
  8. lapis lazuli
  9. summer cut
  10. O.V.L.U.V. part2
  11. ハレルヤ

ツアーファンタジア

2016年9月9日(金)
愛知県 Tokuzo
2016年9月11日(日)
大阪府 Shangri-La
2016年9月17日(土)
東京都 渋谷duo MUSIC EXCHANGE(※ゲストあり)
2016年9月25日(日)
福岡県 brick
2016年9月27日(火)
長崎県 Cafe&Bar Last(※オープニングアクトあり)
2016年9月28日(水)
熊本県 NAVARO(※オープニングアクトあり)
2016年9月30日(金)
岡山県 YEBISU YA PRO(※ゲストあり)
2016年10月1日(土)
徳島県 EMILE
2016年10月2日(日)
広島県 浄泉寺(※ゲストあり)
2016年10月4日(火)
兵庫県 旧グッゲンハイム邸
2016年10月15日(土)
宮城県 塩竈市杉村惇美術館(※ゲストあり)
2016年11月13日(日)
富山県 HOTORI(※ゲストあり)
2016年11月23日(水・祝)
沖縄県 Output(※オープニングアクトあり)
ザ・なつやすみバンド

中川理沙(Vo , Piano)、高木潤(B)、村野瑞希(Dr)、MC.sirafu(Steelpan, Trumpet)からなる4人組バンド。「毎日が夏休みであれ!」という信念のもと2008年4月に結成され、2010年にMC.sirafuが加入してからはスティールパンやトランペットによるトロピカルなサウンドが加わり、バンドの独特の個性を確立させた。2012年に自主制作で完成させた1stアルバム「TNB!」はノンプロモーションながら口コミだけでヒットを記録。同アルバムはさまざまなメジャー作品と並んで「第5回CDショップ大賞」にノミネートされた。2013年には短冊8cmシングルCD「サマーゾンビー」をリリースし、2014年には4曲入りシングル「S.S.W」を無料配信。2015年3月に2ndアルバム「パラード」でSPEEDSTAR RECORDSからメジャーデビューする。2016年7月にニューアルバム「PHANTASIA」を発表。2016年には「FUJI ROCK FESTIVAL」に初出演した。