音楽ナタリー Power Push - 中塚武

“6カ年計画”の果てに生まれたカオスな新境地

ナンセンスな日本語としての祝詞

──そのなんでもありなアルバムのタイトルが「EYE」になったのはどういう理由からでしょうか。

曲が出そろったあたりで決めたんですが、ひと通り自分で聴いたときに極彩色なイメージがあって。僕の音楽はカラフルに見えるって言われることが多いけど、今回のアルバムは聴いてるとすごく“目”に来る作品だなと思ったんです。で、目玉ってビジュアルとしていいなと思ったし。“EYES”じゃなくて目玉1個ってギョロッとしてて、すべてを見透かす感じもする。アルバムのカオス感を表せるなと思って「EYE」にしました。

──極彩色のヤバい感じを表現したときに「EYE」になったと。タイトルは英語だけど、歌詞では徹頭徹尾「美しい日本語」を意識してるなという印象があったんです。少しだけ出てくる英語も日本でなじみのある外来語、カタカナ英語だけという。

歌詞については「Lyrics」を作ったあとの段階で「これからはひらがなだな」というイメージが自分の中にありましたね。大和言葉で、さらに意味のない方向に。自分で歌詞を書いて歌うようになったことで、いろんな人の歌詞をまた違う視点から見られるようになったんですけど、やっぱり井上陽水さんや山下達郎さんはすごいんですよ。何も言ってない(笑)。サウンド面にこだわってる人ほど意味のない歌詞で、わざとそうしてるなって感じてるんですけど。

──景色として余計な要素が入ってこないように計算しているような。

そうそう、踏み込んでこない。陽水さんの歌詞は日本語としての語感のよさも大きくて。マネをすることはできないけど、「これいいな」と感じたものを自分なりに咀嚼していきたいなと考えてました。

──なるほど。そういう発想を極端に追究した結果1曲目の「JAPANESE BOY」が生まれたのかなと思うんですけど……この歌詞は何を言ってるんでしょうか(笑)。

これは神社で神主さんが唱える祝詞(のりと)なんです。それを抽出したりうまくエディットしたりしてるんで、聴くたびに清められます(笑)。

──あはははは(笑)。

日本語の音感なのに意味がわからないもの、ナンセンスなものって何があるかな、と思ってけっこういろんなアイデアを試したんです。ハナモゲラ語(外国語のように聞こえる日本語を話す、タモリの持ちネタの1つ)とか。でもこのへんは1960年代とか70年代当時の文化人がやったから効果的だったのであって、2016年に発売するものはそぐわないなと。あとはドラクエの復活の呪文。レコーディング中なのにファミコン本体と「ドラゴンクエストI」を買ってきて、竜王を倒さずにレベルを最高まで上げて、武器をフル装備にした状態で復活の呪文をメモったんです。でも歌詞にするには足りなくて。ほかにもいろいろ試した結果、最終的に「祝詞はどうだろう?」って。聴いてても全然ワケわかんないけど、この音感はいいなと思ったんです。だから海外の人が聴いたら普通に日本語だと思って聴いて……まあ日本語なんですけど(笑)、その感じが面白いなあと思ってます。

頭の3曲で言いたいことを全部言っちゃおう

──これに続く2曲目の「プリズム」、さらに「律動(リズム)」と、このあたりは昔から中塚さんがやっていたクラブ的なサウンドと今のジャズテイストのサウンドがほどよく交じり合った、中塚武音楽の完成形を見たような印象があります。

ありがとうございます。「JAPANESE BOY」と「プリズム」はかなり最後のほうにできた曲なんですけど、僕の中の偏執狂的な部分を突き詰めたのが「JAPANESE BOY」だとしたら、普通にカッコいいクラブミュージックとしての日本語の曲、グルーヴに乗せた日本語の曲も欲しいなと考えて。それで作ったのが「プリズム」です。この2曲と次の「律動(リズム)」、頭の3曲で言いたいことは全部言っちゃおうみたいな感じで。

──知らないアーティストの作品を試聴機などでチェックするとき、頭の3曲って重要ですよね。そういう意味ではこの冒頭3曲はすごく中塚さんらしさが出ているから……。

うん。これで嫌われたらもうしょうがない(笑)。

──クラブミュージックとしても楽しめるキャッチーな要素を冒頭で見せつつ、例えば「初夏のメロディ」では堂々たる“シンガーソングライター”をやってますよね。

中塚武

はい。こういうてらいがなくなった感じが、前作から3年経って“転職”に慣れてきたところなのかなあって思ってます。今回のアルバム自体も、さっき言ったみたいに「カオスにする、タガを外す」ということをすごく大事にしてたんですけど、てらいやこだわり、こうあるべきみたいなものがようやく本当に取れてきて。やっぱり6カ年計画はここで生きてきたなと思いますね。あれがなければたぶんずっと、うっすらと自信がないまま過ごさなきゃいけなかった。

──自分に対する説得力が欠ける、みたいな?

そうそう。例えば受験とか、ライブの前の練習とかで「これだけやったんだからもう大丈夫」って考えることがありますよね。そういうのって「うまくできる」っていう自信じゃなくて「うまくできなくてもいいや」っていう自信だと思うんです。僕は結果を見て心が折れちゃうタイプで、結果よりもプロセスに自信を持ちたいと考えているので、そういう意味でも6カ年計画は今後もずっと役に立つと思います。

ニューアルバム「EYE」 / 2016年3月16日発売 / 3024円 / Delicatessen Recordings / UVCA-3035
ニューアルバム「EYE」
収録曲
  1. JAPANESE BOY
  2. プリズム
  3. 律動(リズム)
  4. あの日、あのとき
  5. 初夏のメロディ
  6. ○の∞(album version)
  7. ふれる
  8. 苹果
  9. parkour
  10. ひとしずく
  11. ひねもすえそらごと
  12. からまるゆるまる

中塚武NEWアルバム「EYE」RELEASE PARTY ~目玉の飛び出す夜~

2016年4月21日(木)東京都 代官山UNIT
OPEN 18:00 / START 19:30
出演者
中塚武
PERFORMANCE:Shumusic Saxphone Quartet
DJ:高橋マサル(Swing Design) / Tetsuya.Nz(Charlie-Hz) / 勝矢和紙(渡る世間は音ばかり) / wallflower(Floor Extra)
VJ:杉江宏憲 / 佐藤こずえ / and more
STYLIST:森下紀子
GOODS DESIGNER:倉田ゆりえ / TOSHIKO
FOOD:東京カリ~番長 / "EAMO" MARO & SONS / エムケバブ / コズミックキッチン / 中西怪奇菓子工房。
中塚武(ナカツカタケシ)
中塚武

1998年、自身が主宰するバンドQYPTHONE(キップソーン)でドイツのコンピレーションアルバム「SUSHI4004」に参加。国内外での活動を経て2004年にアルバム「JOY」でソロデビューを果たした。その後はCM音楽やテレビ&映画音楽、アーティストへの楽曲提供など活動の幅を広げ、2010年には自身のレーベル「Delicatessen Recordings」を設立。2014年4月にはソロ活動10周年を記念したベストアルバム「Swinger Song Writer -10th Anniversary Best-」を、同年11月にディズニー楽曲のカバーアルバム「Disney piano jazz “HAPPINESS” Deluxe Edition」をリリースした。2016年3月には約3年ぶりとなるオリジナルアルバム「EYE」を発表。4月21日にはこれを記念したリリースパーティを東京・代官山UNITで開催する。