ナタリー PowerPush - 中島 愛

7thシングル制作秘話とアイドルマニアまめぐの原点

2008年放送のテレビアニメ「マクロスF」でヒロインのランカ・リー役を射止め、松本隆×菅野よう子書き下ろしのキャラクターソング「星間飛行」で歌手として一躍脚光を浴びた中島 愛。2009年のソロデビュー以降は、個人名義のオリジナルソングからさまざまなアニメのキャラクターソングまで、コンスタントに新曲を発表している。

8月1日にリリースされる通算7枚目のオリジナルシングル「マーブル / 忘れないよ。」は、現在放送中のテレビアニメ「輪廻のラグランジェ season2」のオープニングテーマとスペシャルエンディングテーマを収めた作品で、「マーブル」では6thシングルに続き、スウェーデンの音楽プロデューサー、ラスマス・フェイバーとのコラボが実現した。ナタリーではこの新作の魅力をひも解くべくインタビューを実施。新曲の制作エピソードのみならず、大のアイドルマニア、アナログレコード収集家としても知られる彼女の素性にも迫る内容となった。

取材・文 / 臼杵成晃 インタビュー撮影 / 笹森健一

ラスマス・フェイバーとの2度目のコラボ

──今回の新曲「マーブル」は、スウェーデンの音楽プロデューサー、ラスマス・フェイバーが作曲・編曲・プロデュースを手がけています。ラスマスさんとのコラボは今年2月にシングルリリースされた「TRY UNITE!」に続き2度目となりますが、そもそもの出会いはどのようなものだったのでしょうか。

中島 愛

きっかけはラスマスさんのアルバム「プラチナ・ジャズ」(2009年発売「プラチナ・ジャズ -アニメ・スタンダード Vol.1-」)ですね。私がランカ・リー=中島 愛として発表した「星間飛行」(アニメ「マクロスF」劇中歌)をジャズアレンジでカバーしてくださって。間接的ではありますが、それがご縁のきっかけですね。2011年にとあるライブ会場で初めてお会いすることができたんですけど、そのときラスマスさんが「僕はメグミの声がすごく好きなんだ」っておっしゃってくれて。「いつか一緒にお仕事できるようにがんばります!」と言ったら、あれよあれよとこのような展開に(笑)。

──前作「TRY UNITE!」がアニメ「輪廻のラグランジェ」のテーマソング、そして今作はそのアニメの続編である「輪廻のラグランジェ season2」のテーマソングに起用されました。この2曲の関連性は楽曲制作の段階で意識しましたか?

はい。歌詞の内容もそうですし、曲の一番根っこの部分にはラグりんの血が流れています。「TRY UNITE!」は私の中のラスマスさんのイメージどおりの"どハウス"というか、手加減なしのハウスチューンで。ハウスを歌うのも初めてだったし、自分からそこに挑んでいくような気持ちがあったんですね。「マーブル」はリズムがループしていたりというハウス的な要素もありつつ、ポップスらしさもあり、クラシックのような弦の動きもあり、ひとつのジャンルにくくれない曲調で。今回は挑戦するというよりも、言葉の壁などを乗り越えてよりラスマスさんのサウンドに寄り添うみたいな、そんな気持ちが強かったですね。

──元々ハウスというものにどんな印象を持っていましたか?

体の奥に流れ込んでくるものというか、聴いて自然に楽しんだり踊ったりする音楽というイメージですね。自分が歌うものだという意識はなくて、完全に受け身で捉えてました。

「明るさ」の表現

──スウェーデン在住のラスマスさんとは、どうやってレコーディングのやりとりを?

今回はラスマスさんが来日しているタイミングで一緒にレコーディングできたので、ディレクションもタイムラグなく、ラスマスさんから直接指示をいただきながら制作できました。「TRY UNITE!」のときは日本とスウェーデンでSkypeを使ってやりとりしたんですよ(笑)。Skypeで指示を受けて録ったボーカルトラックをスウェーデンに送って。

──では前回よりも作業自体はスムーズに。

はい。ラスマスさんはあらかじめイメージを固めて録るのではなく、いろんな感情でいくつものテイクを録るんです。今回は「近くにいてくれる」ということで気持ちの面でも違いましたし、その場その場で私からも「こういうふうに歌ってみたいんだけどどうかな」ってリアルタイムで伝えることができたので、そこは大きく違いますね。

──ラスマスさんとのやりとりで、何か新しい発見はありましたか?

ディレクションで一番印象に残っているのが「明るく歌ってほしい」という言葉で。私にとって「明るい」というと、無邪気で、元気で、ある意味ちょっと子供っぽいようなイメージだったんですけど、きっとラスマスさんが思い描いているのは、その明るさじゃないんだろうなって。自分の心に持っていた「明るさ」のイメージでは、この曲に太刀打ちできないと思ったんです。

──なるほど。ひとくちに「明るい」と言っても、歌の表現としてはさまざまな解釈があるかもしれない。

レコーディング中はそれを真剣に考えて、なんとか歌で返していったんですけど。結果的に「マーブル」の歌として採用されたのは、口角を上げて、すごく幸せな気持ちなんだけど、眼差しはまっすぐ揺らがないみたいな……「抑揚のない強さ」というか、女の子の底力が感じられる声を表現しようと思って歌ったものです。

普遍的な懐かしさを感じる「忘れないよ。」

──そしてもうひとつの収録曲「忘れないよ。」ですが、作詞・作曲は坂本真綾さんや青山テルマさんにも楽曲を提供している矢吹香那さんで、編曲はEPOさんや飯島真理さんの作品などでも知られる清水信之さん。清水さんは「夏鳥」(2010年11月発売の4thシングル「メロディ」収録曲)、「神様のいたずら」(2011年10月発売の5thシングル)に続いて3度目の参加となりますが、個人的にはこのクレジットを見た時点で「オッ!」とテンションが上がりました(笑)。

うふふ、ですよね。私もです(笑)。

──この曲は「輪廻のラグランジェ season2」のスペシャルエンディングテーマとしてオンエアされるそうですが、こちらもやはりアニメの世界観を重視して?

そうですね。歌うときに思い浮かべたのはやっぱり、アニメの舞台である鴨川市の風景ですとか、(京乃)まどかとラン(フィン・エ・ルド・スイ・ラフィンティ)とムギナミとの関係性だったり。

──オリエンタルな曲調が印象的ですが、歌入れ前の第一印象はどうでしたか?

なんかこう、誰が聴いてもふるさとだって思える曲なんじゃないかなと思いました。初めて聴くのに懐かしい、みたいな。初めて訪れた場所なのになぜか「帰ってきた」って感じることありませんか? あの感じに近いんですよね。まずはそこに惹かれました。「○○年代の感じ」とかではない、普遍的な懐かしさを感じるというか。

──シングルでは両A面として、この対極のサウンドが収められているのもいいですね。

「マーブル」で宇宙に飛んで、「忘れないよ。」で日本に戻ってくる感じ(笑)。その世界観の差は、レコーディングしていても楽しめましたね。

ニューシングル「マーブル / 忘れないよ。」/ 2012年8月1日発売 / FlyingDog

CD収録曲
  1. マーブル(TVアニメ「輪廻のラグランジェ season2」OPテーマ) [作詞:岩里祐穂 / 作曲・編曲・プロデュース:Rasmus Faber]
  2. 忘れないよ。(TVアニメ「輪廻のラグランジェ season2」スペシャルEDテーマ) [作詞・作曲:矢吹香那 / 編曲:清水信之]
  3. マーブル‐bis‐ [作曲・編曲・ピアノ演奏:Rasmus Faber]
  4. TRY UNITE! -Live Version-(2012年4月8日Zepp Tokyoにて収録) [作詞:サエキけんぞう / 作曲・編曲:Rasmus Faber]
  5. Hello! -Live Version-(2012年4月8日Zepp Tokyoにて収録) [作詞・作曲・編曲:北川勝利(ROUND TABLE)/ ストリングス編曲:長谷泰宏(ユメトコスメ)]

ほか「マーブル」「忘れないよ。」のカラオケを収録。

中島 愛(なかじまめぐみ)

プロフィール写真

1989年6月5日、茨城県生まれ。2007年に行われたアニメ「マクロスF(フロンティア)」の歌姫オーディション「Victor Vocal&Voice Audition」でヒロインのランカ・リー役に抜擢され、2008年6月に「ランカ・リー=中島 愛」名義によるシングル「星間飛行」で歌手デビューを果たす。2009年1月には初の個人名義によるシングル「天使になりたい」を発表。声優として「マクロスF」「けんぷファー」「バスカッシュ!」「こばと。」「セイクリッドセブン」「輪廻のラグランジェ」などのアニメ作品に参加しながら、ソロアーティストとして国内のみならず海外でも積極的にライブ活動を行っている。2012年8月1日には通算7枚目となるオリジナルシングル「マーブル / 忘れないよ。」をリリース。