ナタリー PowerPush - ももいろクローバー
アイドル戦国時代を駆ける全力少女 ももクロに今何が起きているのか!?
NARASAKI(COALTAR OF THE DEEPERS、特撮) インタビュー「ピンキージョーンズ」作曲・編曲
「ミライボウル」編曲
ハードコアパンクのスピリットを持ってアイドルソングを作る
──ももクロをプロデュースするうえで意識したことはありますか?
自分がももクロにかかわることで、何をすれば彼女たちが面白くなるかと、どこで自分ならではの色を出すかっていう、そのバランスですね。それを考えた結果が「ピンキージョーンズ」でした。
──「ピンキージョーンズ」では具体的にどのあたりが自分の色ですか?
自分が民族音楽を好きなので、スタッフにテーマを「冒険」っていうコンセプトにして、世界各国の民族音楽を取り入れてはどうか? と提案したのです。そしてももクロのコンセプトが「和」ということは聞いていたので、恋人を探して世界一周して最後には日本にたどり着くイメージで。だから最後は曲調が和風になって終わる予定だったのですけど、作っているうちに道が反れて宇宙のほうに行ってしまったんですよ(笑)。
──ああ、世界一周の旅を表現していたんですね。
あとボーカルのディレクションでは、スタッフからあかりんラップ(早見あかりのラップパート)を考えてくれって言われて、ラガラップにしたんです。15歳の女の子がレゲエのリズムでラップしたら面白いんじゃないかって。
──世界中の民族音楽を混ぜたアレンジもそうですが、メロディや曲の展開もパターンが多くて、初めて聴いたときはあまりの情報量の多さにクラクラしました(笑)。
めちゃくちゃですよね! 「音数を増やしてくれ」という注文はあったのですが、作ってるうちにPro Toolsのトラック数が最大の192までいっちゃって、最後に「さあ、録音しようか」と思ったらそこにトラックが足りなかったという……。「ミライボウル」も192トラック使いましたけど……。
──わははは(笑)。いくら音数を増やせといっても、スタッフもそこまでのものは想定してなかったんじゃないでしょうか。
そもそも、俺はハードコアパンク出身というのもあって、ハードコアパンクのように直球で一瞬の休みもない、攻め立てる曲をやってみたかったのですね。俺がなんとなくイメージしてるアイドルソングって、途中でリズムが落ちたり、静かなソロパートが挟まったりするんですけど、そういうのナシ! 休ませない! っていう。彼女たちなら若いから大丈夫だろうって。
──なるほど。偶然なのかもしれませんが、ももクロの体質にピッタリはまったようですね。
うん、そうですね。
俺に依頼したってことは、変な音楽をやれってことだと解釈してます
──NARASAKIさんはももクロについてどういうイメージを持ってますか?
えっと、奇をてらっていて、身体能力が高くって、……そういう漠然とした感じですかね。自分はもともとアイドル分野に詳しくないので、今回初めて知りました。
──あー、そうなんですか。もともと「洋楽志向で日本の音楽は聴かない人」というイメージがあったんですが、アニソン制作やアイドルのプロデュースといった最近の仕事ぶりを見ると、そういったオタクカルチャー的なものに興味が出てきたのかなと思ってました。
いや、そういうの全っ然知らないです。普段日本の音楽はまったく聴かないです。
──洋楽だとどんなものを聴いてるんですか?
最近はエレクトロニカとかフォーク・カントリーですね。アイルランドにフィオン・リーガンっていう弾き語りの男性がいるんですけど、その人の歌は素朴にさみしい感じで好きでよく聴いています。
──「ピンキージョーンズ」と全然違う(笑)。では、アニメの仕事をするようになったきっかけは?
キングレコードさんと仕事するようになって、「さよなら絶望先生」にかかわってからですかね。「はなまる幼稚園」は監督がSadesper Recordを聴いてくれていて、あのテクノが幼稚園に合うんじゃないかって申し出てくれて。その前にやった「パラダイス・キス」は監督がDEEPERSを好きで、というようにアニメの仕事は監督からの直接指名が多いですね。
──その結果、いつの間にかアニソン作家としての地位も確立してしまったと。
うーん、わかんないです。自分がどの立ち位置にいるのか(笑)。最近になってアニソンをいろいろ聴いてみたら、「なるほど、歌メロはこんな感じが多いんだな」みたいな、アニソンっていう音楽ジャンルの傾向がなんとなくわかってきました。でも、そういう王道アニソンをわざわざ俺が作る必要はないし、というか作れないし……。ディレクターが俺を選んだってことは、変な音楽をやれってことだと勝手に解釈してるので(笑)、自分はやりたいことをやるだけです。
──あはは(笑)。でもそういう仕事をしているときは、自分でギターを弾いて歌うときにはやらないジャンルの音楽もやってますよね。
思うんですけど、俺はすごく音楽の趣味が悪いんですよね。なのでそういう悪趣味なことは自分の名義だけにしとかなくちゃ(笑)。自分の趣味を全面に出すと仕事にならないです(笑)。
──COALTAR OF THE DEEPERSでやっていたようなシューゲイザーやグラインドコアは?
あっ、でも今手がけてるアニメの劇伴ではグラインドコアの曲も書きましたよ。シューゲイザーは「はなまる幼稚園」のときに挑戦しました。もう俺、DEEPERSではシューゲイザーとかやれなくなったんですよ。自分の看板を背負ってシューゲイザーってのがこっ恥ずかしくなったというか……。だからそういうのはアニソンでやっていけたらなぁ、と思います。
──逆にプロデュース業で身になった経験が、自分のアーティスト活動に返ってくることもありますか?
もちろんあると思います。プロデューサーとしては相手に合うように曲を作ってますが、自分もそれをおもいっきり楽しんでいます。
「ピンキージョーンズ」は変じゃないところが素晴らしい
──裏方の仕事ならではの楽しみはありますか?
劇伴を作って、自分の曲に絵がつくのは快感ですね。すごくうれしいものです。「ザ・クイズショウ」ってドラマで音楽担当したとき、自分が作った曲をロックシンガー役の哀川翔さんが振りつきで歌ってくれて。
──劇中で大ヒット曲という設定の「イニシアチブ、俺」ですね。あれはどういう気持ちで作ってたんですか?
聴いててすっごい中途半端な気持ちになるようなものを作りたいと思って。
──あははは(笑)。
最初から「サビは2つの音階しか使わないものにしよう」って、一番盛り上がるべき部分なのに何も起こらない曲にしようってことは考えていました。
──ずいぶん遊びましたね(笑)。
俺もさすがにちょっと震えましたよ。ゴールデンタイムの地上波にこれを流してしまうのか、という(笑)。作家生命にかかわるような大舞台で、一番自分が微妙な気持ちになる曲と思うものをかけるんですもん。
──「ピンキージョーンズ」もそうやって構造的なことを考えながら作曲したんですか。
そうですね。民族音楽って、ずっと同じコードで上モノだけがいろいろ変化していく構造の曲調が多いんですね。だから「ピンキージョーンズ」もAメロはずっと同じコードで、上モノがどんどん変わっていくようにしました。この曲のどこが素晴らしいかというと、さまざまな民族音楽を取り入れているのに、あまり滑稽な仕上がりではないんですよ。多分、普通ならアイドルの曲に民族楽器を入れると、なんだかおかしなものになってしまうと思うんです。そのブレンド加減がうまくいったかなと。
──ノイジーなロックをやっていたので、理論や構造をしっかり考えて曲を作るタイプではないのかと思っていました。すいません……。
いや、別に音楽理論とかは勉強してないですよ。劇伴をやっているうちになんとなく身になってるのかもしれませんね。自分のバンド活動は基本的にノイズギターばっかなんで。やっぱりギターノイズまき散らしたり、グラインドコアだったりっていうのが、自分の居場所みたいな感じはします。
CD収録曲
- ミライボウル
TVアニメ「ドラゴンクライシス!」ED主題歌 - Chai Maxx
テレビ朝日「お願い!ランキング」3月度エンディングテーマソング - ミライボウル (Instrumental)
- Chai Maxx (Instrumental)
初回限定盤A DVD収録内容
- 「ミライボウル」PV
- FLASHアニメ「週末お届け!ももクロ便」Aタイプ
初回限定盤B DVD収録内容
- 「ミライボウル」PV
- FLASHアニメ「週末お届け!ももクロ便」Bタイプ
CD収録曲
- ミライボウル
TVアニメ「ドラゴンクライシス!」ED主題歌 - Chai Maxx
テレビ朝日「お願い!ランキング」3月度エンディングテーマソング - 全力少女
- ミライボウル (Instrumental)
- Chai Maxx (Instrumental)
- 全力少女 (Instrumental)
ももいろクローバー
スターダストプロモーションの次世代新人プロジェクトとして2008年に結成。数回のメンバーチェンジを経て、現在は高城れに、百田夏菜子、早見あかり、玉井詩織、佐々木彩夏、有安杏果の6人で活動している。「週末ヒロイン」「いま、会えるアイドル」というキャッチフレーズのもと全国津々浦々でライブ活動を行い、2009年7月には1stシングル「ももいろパンチ」をリリース。翌2010年5月にはシングル「行くぜっ!怪盗少女」でメジャーデビューを果たした。その後スターチャイルドレーベルに移籍し、2010年11月にシングル「ピンキージョーンズ」、2011年3月9日に最新シングル「ミライボウル」を発表。なお、早見あかりは2011年4月10日に行われる中野サンプラザ公演を最後にグループを脱退する。