ナタリー PowerPush - 水木一郎
アニソン一筋40年!「Z」のアニキが語る音楽論
水木一郎がニューアルバム「THE HERO~Mr.アニソン~」をリリースした。彼はこのアルバムで「バビル2世」「キャプテンハーロック」「ルパン三世 愛のテーマ」など代表曲のセルフカバーに挑戦。誰もが耳にしたことのあるナンバーに新たな命を吹き込んでいる。
今回ナタリーではそんな“アニメソングの帝王”水木一郎に初のインタビューを敢行。なぜアニソンを歌い続けるのか? その情熱の源はどこにあるのか? そしてなぜバラエティ番組で「ゼェェット!」と叫ぶのか? 今年でアニソンデビュー40周年を迎える我らが“アニキ”に、その思いを訊いた。
取材・文 / 大山卓也 インタビュー撮影 / 中西求
自分の個性を出さずに歌い続けてきた
──アニソンデビュー40周年おめでとうございます。でも歌手としてのキャリアはもっと長くて、よく考えたら水木さんはTHE BEATLESが現役だった頃から歌手として活動してるんですよね。
そうですね。THE BEATLESは俺が高校1年くらいのときから流行ってて、クラスの仲間集めちゃあ「She Loves You」とか歌ってましたね。友だちにハモらせて僕がメロディ歌うっていう。ジャズ喫茶、ラ・セーヌのオーディションでグランプリを獲って、ステージデビューしたのもその頃だね。
──学生時代から歌はお好きだったんですか?
最初小さい頃はうちのおふくろの影響で、ずっとスタンダードジャズが好きだったんです。小学生になってアメリカンポップスが流行ってきて、ニール・セダカやポール・アンカ、プレスリーなんかを聴き始めて。中学になると何十人というアーティストの歌唱法を独自に研究して歌ってました。当時僕が子供だった頃、日本にはありとあらゆる音楽があふれていたんですね。ジャズあり歌謡曲あり演歌ありハワイアンありカンツォーネ、シャンソンもあり、民謡もウエスタンも、もちろんロックもポップスも! で、高校2年のときに和田香苗先生という作曲家の先生に付いて3年くらい歌を習って、いかに気持ちを込めて歌うかってことを学んで。そこで身につけた表現力が今のヒーローソングにつながってるんです。
──そのレッスンが今も生きている。
そう、生きている! ジャズ喫茶時代の経験も、学生時代にいろんなアーティストの真似をしてきたことも生きていて、その引き出しの多さが、たくさんの種類のヒーローになりきるときに役に立ってるんですね。それでまさに「これは俺のためにあるジャンルだ!」と思ったわけ。だから40年間、わき目も振らず歌い続けてるんだけど。
──最初は1968年に歌謡曲でデビューされたんですよね。
うん。でもいろんな人の歌を歌ってきちゃったもんだから自分がわかんなくなっちゃって。“水木一郎”という個性がどうやっても出せなくて、当時は悩みましたね。
──ああ、いろんな音楽を知りすぎているせいで。
そんなときにアニソンの話が来たんです。最初は「原始少年リュウ」っていうアニメの主題歌でね。そもそもアニソン、ヒーローソングというのは“水木一郎”という個性を出しちゃいけない世界なんだよね。で、俺は元々個性がなかったから、自分を出さずにヒーローになりきって1200曲歌ってきた。皆さんは俺のキャラクターをすごい“濃い”って思ってるかもしれないけど、元々は濃くなかったの。やっているうちに濃くなったっていうか、歌っているうちにいろんなヒーローが体の中に入っちゃった(笑)。
恋愛の歌はほかの歌手にまかせておく
──最初、アニメソングやヒーローソングを歌うことに抵抗はなかったですか?
元々僕は映画音楽が好きだったんです。「ロシアより愛を込めて」という「007」の映画のテーマソングを聴いたときに「あれ、俺の声に似てるな」と思って、それで「♪From Russia with love I fly to you~」ってその歌をずっと練習したりして、いつか歌いたいと思っていたんです。アニソンも主題歌という意味では映画音楽と同じだし、話が来たときにはうれしかったですよ。
──なるほど。
だから「歌っても自分の顔は出ないよ」「有名にはなれないよ」って言われたけど別に気にならなかったしね。やっぱり子供たちに対して勇気とか希望とかね、そういうことを教えられるっていうのはいいですよ。愛だ恋だっていう歌はほかの歌手の人たちにまかせて、俺はそっちをやってやろうと。
──性格的にも合っていたんですね。
あとね、アニソンはキャンペーンしなくていいんだよね(笑)。当時、歌謡曲だとレコードを売るためにスナックとか飲み屋に行って酔っ払いの客にお酌したり、頭下げたり媚び売ったり。宣伝のためにタスキをかけて電車に乗ったりとかね。それが悪いことだとは言わないけど、ご祝儀とかおひねりとか、歌謡界のそういうしきたりが俺はどうしても嫌だったんだよね。「そんなことするために歌手になったんじゃない」って俺は思ってたから。
──水木さんのそういうまっすぐなところがヒーローソングにぴったりだったのかもしれないですね。
あはは、ありがとうございます。自分は歌が大好きだっていう、それだけなんですけどね。
DISC 1
- THE HERO
- コン・バトラーV のテーマ (THE HERO ver.) from 超電磁ロボ コン・バトラーV
- 仮面ライダー・メドレー (THE HERO ver.)
- セタップ!仮面ライダーX from 仮面ライダーX
- 仮面ライダーストロンガーのうた from 仮面ライダーストロンガー
- 燃えろ!仮面ライダー from 仮面ライダー(スカイライダー)
- はるかなる愛にかけて from 仮面ライダー(スカイライダー)
- バビル2世 (THE HERO ver.) from バビル2世
- ルパン三世 愛のテーマ (THE HERO ver.) from ルパン三世
- タイガーマスク・メドレー
- タイガーマスク from タイガーマスク
- みなし児のバラード from タイガーマスク
- 海のトリトン from 海のトリトン
- 傷だらけの栄光 from あしたのジョー2
- 宇宙海賊キャプテンハーロック (THE HERO ver.) from 宇宙海賊キャプテンハーロック
- THE HERO (Instrumental ver.)
DISC 2
- プロローグ (THE HERO ver.)
- マジンガーZ (21st century ver.)
- デビルマンのうた (21st century ver.)
- Golden Rule ~君はまだ負けてない!~ Produced by 高見沢俊彦
- 見上げてごらん夜の星を
水木一郎(みずきいちろう)
1948年東京都出身。1968年に歌謡歌手としてデビュー。その後1971年に「原始少年リュウ」の主題歌をきっかけに活動の場をアニメソングへと移す。以降「マジンガーZ」「バビル2世」「仮面ライダーX」「超電磁ロボ コン・バトラーV」「宇宙海賊キャプテンハーロック」などアニメ、特撮番組の主題歌を数多く発表し「アニメソングの帝王」の異名を得る。1999年には前人未踏の「24時間1000曲ライブ」も敢行。自身の持ち歌は1200曲を越え、近年は中国、フランス、シンガポール、タイなど海外でもライブを実施。Wikipediaにおいて、もっとも多くの言語で紹介された日本人としても知られている。