ナタリー PowerPush - ミドリカワ書房
J-POP界の無頼派が茂木淳一と語る「みんなのうた」ヒストリー
方向性は変えようがなかった
茂木 最初のころは自信あったの?
ミドリカワ 東京出てきたころはありましたよ。1作目の「みんなのうた」を作った頃は舞い上がってて「これは大変なことになるぞ」って。
茂木 そしたら箸にも棒にも……。
ミドリカワ あはははは(笑)。そんな甘くない、って気づきましたね。
──それで方向性を変えようとは考えなかったんですか? いわゆる“シンガーソングルポライター”路線から、もっとポップだったりロックだったりって方向へ。
ミドリカワ まだ1枚目でしたからねえ。「次やればどうにかなるんじゃないか」て思ってた面もあるし、普通に作っているだけなので変えようがなかった面もあるし。
茂木 ミドリカワさんの場合はいろんな音楽のスタイルを借りて聴きやすくしてるけど、ずいぶんキツいこと歌ってるなっていうのが面白さですからね。ああいう歌詞は普通に出てきちゃうんでしょ?
ミドリカワ 自然に出てきちゃうんですよ。だから人間性が疑われますね。
茂木 ランキングで上位に入るなら、ポピュラリティみたいなものが求められるじゃない。たとえば「顔」みたいに「整形手術がしたいの、ママそんなに悲しい顔しないで」なんて曲は家族で聴きづらいでしょう。
──テレビの歌番組も出づらいですよね。
ミドリカワ そうかしら!
茂木 うん、「めざにゅ~」とか朝の番組じゃ絶対紹介してもらえないでしょ。
ミドリカワ いや、昔は朝弱かったんで、早朝の番組なんか出られなくてもいいです。
──そういう問題じゃないと思うんですが(笑)。
昔はみんな死んでなかった?
──過去の「みんなのうた」シリーズ4作品を振り返って、方向性以外の部分で変わったなって思うところはありますか?
ミドリカワ 歌声というか、歌い方が変わったなとは思いますね。ライブやレコーディングでさんざん歌ってきたから鍛えられたと思います。1枚目のときは人前で歌ったことがほとんどない、みたいな状態でしたし。
──今回のアルバムに収録されている「夢が叶った男」は、7年前のテイクと今のテイクが混在して、それを聴くと如実ですよね。
茂木 声は変わっていってますよね。喉が変わったというよりも、使い方がうまくなったなって感じます。
ミドリカワ うまくなったのかどうかはわからんですけど、やり方とか歌い方は学びましたね。ボイストレーニングもやりましたし。
茂木 あとさ、明るい歌が増えたんじゃないの? 昔はみんな死んでなかった?
──はははは、死んだり殺したり(笑)。
茂木 「チューをしよう」ぐらいじゃないの、ハッピーな曲って。
ミドリカワ “渾身のパーティチューン”って言ってますしね、あの曲は。でも他の曲も全部人が死んでるわけじゃないですよ(笑)。ただ、やっぱり昔よりは暗い曲が少なくなるように意識してますね。
──今回のアルバムだと「愛なるは」とか「ミドシンを聴きながら」とか、人の実体験を元にした曲も多いですしね。以前よりも歌詞の内容がリスナーに近い立ち位置になってますよね?
ミドリカワ そうですね。「みんなのうた3」は今聴くと「うわー、暗いなー」って思うし。「4」はそうならなくてよかったです。
──ラストの「さらばグッバイ」はお別れの曲ですけど、幸せそうな話ですし。
ミドリカワ この曲は思いっきり狙って作ったんですけど、ライブの最後に歌えるような明るいアップテンポな曲がないと私はダメなんじゃないか? と思って、無理やり作ったんです。
茂木 無理やりでもこういう曲が作れるってのは素晴らしいことですよ(笑)。
「みんなのうた 4"ever"」茂木淳一ドラマトラックレコーディング風景
あら最後なの? じゃあ見なきゃ
──茂木さんのドラマトラックは全部ご自身でシナリオを書かれてるんですよね?
茂木 そうです。完全に曲に合わせると曲の世界を邪魔しちゃうんで、どこか1カ所だけクロスするようなストーリーにするのが大変なんですよ。
──茂木さんのレコーディングにはミドリカワさんは立ち会われるんですか?
ミドリカワ 今回はいましたね。途中で帰っちゃいましたけど。
茂木 いてもしょうがないもんね。
ミドリカワ 「3」のときは最後までいたんですけどね。別に「ここはこんな感じで」って注文をつけるわけじゃないし。完全に茂木さんの世界だから。
茂木 こっちもミドリカワさんに言われて聞く気ありませんし(笑)。
──はははは。
茂木 今回はもう「4"ever"」で最終章だってことだったんで、総決算のつもりで過去のキャラクターを再登場させたりもしてます。
──そうか、一応今回“最終章”なんですよね。どうしてそういうことになったんでしょうか。
ミドリカワ 例えば最近の連ドラでね、まだ話が残ってるのに「いよいよ最終章」って予告で煽ったりするんですよ。それでみんな「あら最後なの? じゃあ見なきゃ」ってんで見るわけです。それを真似しました。
茂木 いやらしいですね。
ミドリカワ いやらしいでしょ。
──そんな理由ですか(笑)。路線というか、音楽性が変わる布石なのかって思っていました。
ミドリカワ 作風みたいなものはあんまり変わらないと思うんですけどね。ただタイトルとかジャケットとか、マンネリ化してません? ちょっとここらへんで一旦お休みしてもいいんじゃないかな、とは思ってます。
CD収録曲
- ~殿様食品『しっとり大名』TVCM
―「余はしっとりじゃ」篇― - 愛なるは
- ~にょきにょき本気!?
- ミドシンを聴きながら
- ~ギガビットパーセコンド
- 大丈夫
- ~北口の母
- 自信があるんです
- ~髑髏と蟷螂
- 妹の日記
- ~生クリーマー
- 泊まっていけよ
- ~どぶろくフィズ
- 夢が叶った男
- ~Takanori Makes 朝寝坊
- 喧嘩口論
- ~ドクターマウス氏による基調講演
- 馬鹿姉妹
- ~昼ドキ!五臓六腑 <阿実毛海岸>
- 転校生
- ~特急ヒデリ29号
- さらばグッバイ
※奇数トラックは茂木淳一による導入ドラマトラック
ミドリカワ書房(みどりかわしょぼう)
1978年生まれ、北海道出身。自ら「J-POP界の無頼派」を名乗る異色シンガーソングライター。2004年12月にインディーズレーベルよりアルバム「みんなのうた」を発表。翌2005年7月に「みんなのうた+α」でメジャー進出を果たす。思わず口ずさんでしまうメロディに清涼感あふれる歌声、それと相反する社会や人間の闇に切り込んだ詞世界が持ち味。歌詞のテーマは「死刑」「ひき逃げ」「離婚」「万引き」「DV」など多岐にわたり、すべてが物語調になっている。しばらくメジャーで活動していたが、2008年に所属レコード会社との契約が切れインディーズに拠点を移す。精力的にライブを行いつつ、2009年6月には主催フェス「ミドフェス 2009 ~ミドシンだらけの梅雨フェス~」を代官山UNITで開催。出演をオファーしたアーティストから断られたため、出演者6組をすべてひとりで演じるというそのユニークな内容が笑いを誘った。