音楽ナタリー Power Push - 丸本莉子

“普通の女の子”が歩んだ8年間

丸本莉子が2ndミニアルバム「フシギな夢の中」を完成させた。昨年6月にハイレゾ音源の配信シングル「ココロ予報」でメジャーデビューした彼女は、日常の風景と誰もが持っている普遍的な感情を丁寧に描き出す歌詞と、中低音域を生かした豊かなボーカルによって注目を集めているシンガーソングライターだ。

3rd配信シングル曲「つなぐもの」、ブルボン「ラシュクーレ」CMソングであるアルバム先行配信シングル曲「フシギな夢」、名曲「なごり雪」のカバー、さらにボーナストラックとして「やさしいうた」「コトバ」のライブ音源を収録した本作では、幅広い層のリスナーに寄り添うことができる彼女の歌の魅力が表現されている。今回のインタビューでは「フシギな夢の中」の制作秘話を中心にしながら、彼女のシンガーソングライターとしてのキャリア、メジャーデビュー以降の変化などについても語ってもらった。

取材・文 / 森朋之 撮影 / 須田卓馬

だったら自分で作ってみよう

──2ndミニアルバム「フシギな夢の中」がリリースされます。今回の作品はどんなテーマで制作したんですか?

1stミニアルバム(「ココロ予報~雨のち晴れ~」)以降に制作した新曲もありますが、それだけではなく、高校のときに作った曲などもリアレンジして収録しています。8年間の音楽活動の中で作ってきた曲が詰め込まれているアルバムですね。

──10代の頃に作った曲と改めて向き合う機会でもあった?

丸本莉子

そうですね。歌詞を変えた曲もあるんですが、その曲を作った当時の思いはそのままにして、使う言葉を変えたという感じなんですよ。25歳としておかしくない言葉遣いに直したというか(笑)。例えば「ただそばで」という曲はもともと高校のときの友達に向けて書いたんですけど、改めて聴いてみると「少し上から目線に聞こえるかもな」って思ったんです。悩んでいる友達に対して「私は答えを知っているから、話を聞いてあげるよ」という感じだったというか。そのままだと伝わらないと思ったので、歌詞を少し変えて「人にはそれぞれ自分の中に答えがあるはずだし、それを聞いてあげたい」という歌になっています。

──最初に曲を書き始めたのは高校2年生のときということですが、何かきっかけがあったんですか?

もともとカラオケがすごく好きだったんです。ヒットソングというか、そのときに売れている曲をジャンル問わず歌ってたんですけど、あるとき「私の中にある感情を表現してる歌って、私が知っている曲の中にはないな」って思ったんです。「だったら自分で作ってみよう」と。

──自分の気持ちにピッタリ合うような曲を自分で作ろうと思った、と。

そうですね。最初に作った曲は失恋したときに書いたんですよ。失恋ソングは世の中にいっぱいあるけど「今の私の感情を表している曲はないな」と思って。当時は詞から先に作ってたんですけど、歌詞を書いているうちに「そうそう、今の私はこういう気持ちだ」って思えたんですよね。今はメロディを先に作ることが多いんですが、「こういう感情を歌にしたい」というコンセプトを先に決めるようにしています。

──なるほど。ちなみに当時カラオケで歌っていたヒット曲というのは?

倖田來未さんやいきものがかりさんですね。やっぱり女性ボーカルの方の曲を歌いたいんだけど、私は声が低いから、けっこうキツかったんですよ。それも曲を作り始めた理由かもしれないですね。自分が気持ちよく歌える歌を作りたいなって(笑)。

1970年代ポップスのキーが合う

──では「フシギな夢の中」の収録曲について聞かせてください。まず「フシギな夢」はブルボン「ラシュクーレ」のCMソングとしてオンエアされていますが、この曲はどのように制作したんですか?

まず絵コンテを見せていただいて、「ラシュクーレ」を実際に食べながらイメージを膨らませていきました。最初にメロディを作って、その後「フシギな夢」というワードが浮かんできて。CMサイズからシングルとして作り直したときは「自分の都合のいい夢を見てるんじゃないかな?って疑いたくなるくらいの幸せな瞬間を切り取りたい」と思ってましたね。あと、前々から出会いをテーマにした歌を書きたいというのもあったから、それも組み合わせています。誰かと出会って、恋に落ちて、結婚するって、実はすごい奇跡というか、いろんな偶然が重なってると思うんですよ。

──出会いというテーマには、丸本さんの実体験も重なってるんですか?

丸本莉子

実体験もあるし、映画を観たときに感じることなどもありますね。実際に経験した感情が、映画を観てるときに重なることも多いんですよ。それはいろんな人が感じる感情だと思うし、そこから広げて曲を書くこともあります。

──どうすれば聴く人に共感してもらえるか、ということも考えますか?

考えますね。その曲の中にある感情をより伝わりやすくするには、どういう表現をしたほうがいいんだろう?とか。すごく難しいですけど、そこはもっともっと意識しないとダメだと思ってます。ただ、私はずっと“普通の女の子でも夢は叶う”みたいなスタンスで活動してきたんですよ。私はすごい才能があるわけでもないし、特別美人でもないし、面白いわけでもなくて(笑)。本当に普通だからこそ、ありふれた日常を歌にすることができると思うし、いろんな人が共感してくださるんじゃないかなって。そこはこれからも大切にしていきたいですね。

──普通とはおっしゃっていますが、音楽を始めた頃は「私には才能があるはず!」って思ったりしませんでした?

思ってました(笑)。高校生のときは「私は歌が超うまい」「世界を変えられる」って思ってたので。今、そういう気持ちが全然なくなかったかと言えば、それも違うんですけどね……言い方が難しいんですけど、この声は自分でも特徴的だなって思っていて。でもコンプレックスだった時期もあったんですよ。「こんな変な声じゃメジャーデビューは無理だな」って思うこともあったんだけど、周りの人たちが「いい声だ」とか「ほかの人とは違う個性的な声」って言ってくれて、「そうなのかな」ってだんだん受け入れることができたというか。

──自分の声だけは受け入れるしかないですからね。

そうなんですよね。今は「この声でよかった」って両親に感謝しています。

──アルバムには「なごり雪」のカバーも収録されています。この曲のノスタルジックな雰囲気も、丸本さんの声質にすごく合ってますね。

丸本莉子

キーもピッタリだったんですよ。1stミニアルバムのときは荒井由実さんの「やさしさに包まれたなら」をカバーさせていただいたので、この時代の曲が私には合ってるのかもしれないですね。

──1970年代の日本のポップスは以前から歌ってたんですか?

高校時代に路上ライブをやっていたんですけど、古い曲のほうが立ち止まって聞いていただききやすかったので、よくカバーしていました。その頃から「なごり雪」も歌ってたんですよ。あとは中島みゆきさんの「糸」とか玉置浩二さんの楽曲とか。アーティストとして「自分が死んだあともずっと残っていく名曲を残したい」という夢があるんですが「なごり雪」もまさにそういう曲だなって思います。ただ、「なごり雪」はたくさんの方がカバーしているので、原曲をよく聴かないまま、知っているつもりになっていたんです。今回のレコーディングの際に改めてイルカさんの「なごり雪」を聴いたんですけど、声の表現がすごくて「こんなアーティストがいたんだ!?」って衝撃を受けたんですよ。言葉の1つひとつの表現にここまでこだわれるんだなっていうことを、教えてもらったというか。レコーディングのときもイルカさんの節回しを残しつつ、自分の解釈を加えながら歌わせていただきました。

──カバー曲を通して、表現の幅が広がっていったんですね。

はい。でも、1人のアーティストを聴き込んだり、憧れてしまうのはよくないのかなって思ってるんです。どうしても似てしまいますからね。

2ndミニアルバム「フシギな夢の中」 / 2016年3月16日発売 / 1944円 / Victor Entertainment / AndRec / VICL-64517
「フシギな夢の中」
収録曲
  1. フシギな夢
  2. つなぐもの
  3. なごり雪
  4. YOU
  5. ただそばで
  6. がんばる乙女 ~Happy smile again~
  7. やさしいうた(live)
  8. コトバ(live)
丸本莉子アルバム「フシギな夢の中」リリース記念・歌い旅2016
~タワーレコード渋谷店に集合!の巻~ ミニライブ&サイン会

2016年3月17日(木)
東京都 タワーレコード渋谷店 1Fイベントスペース
START 21:00

丸本莉子(マルモトリコ)
丸本莉子

広島県出身のシンガーソングライター。高校生の頃からギターの弾き語りを始める。高校卒業後はプロを目指して上京し、全国300カ所以上でライブを実施。地元である広島県安芸太田町のサポートソング、テレビ番組やCMのキャンペーンソングを数多く手がけて注目を浴びる。2015年6月に「ココロ予報」のハイレゾ音源を配信リリースしメジャーデビュー。8月に2作目の配信シングル「やさしいうた」、9月に1stミニアルバム「ココロ予報~雨のち晴れ~」を発売する。11月には高知県観光特使に就任。12月に3作目の配信シングル「つなぐもの」を発表し、2016年3月にはブルボン「ラシュクーレ」CMソング「フシギな夢」を収めた2ndミニアルバム「フシギな夢の中」をリリースした。