音楽ナタリー Power Push - 丸本莉子
“普通の女の子”が歩んだ8年間
どんな人にも明日は保証されてない
──「YOU」は高校卒業後、介護の仕事に就いていたときの思い出がもとになっているそうですね。どうして介護の仕事をやろうと思ったんですか?
高校を卒業してすぐに上京するつもりだったんですけど、両親に反対されたんです。「行くなら自分でお金を貯めなさい」って言われて、2年間、訪問介護の仕事に就いていたんです。お母さんも介護の仕事をしていて、「大変そうだけどすごく生き生きしているし、いい仕事なんだろうな」と思ったので。そのときに80歳のおじいさん、70歳のおばあさんのご夫婦と出会ったんですよ。私はおじいさんのケアのために訪問してたんですが、背中に薬を塗っていたら、おばあさんが「そんな塗り方じゃ気持ちよくないし、かゆみも治まらない」と言って、自分で塗り始めたことあったんです。おばあさんは背中をバンバン叩くように薬を塗ってたんですけど、おじいさんがつぶやくように「痛い」って(笑)。マンガの「浦安鉄筋家族」に出てくるような楽しいご夫婦で、孫みたいにかわいがってもらってたんです。
──そうだったんですね。
でも、そのうちおじいさんの認知症が進行して、おばあさんのことがわからなくなってしまって……。そのときいつもは強気なおばあさんが「もし昨日が私のことをわかってくれる最後の日だと知ってたら、もっと優しくしたし、おいしいごはんも作ってあげたのに」って泣いていたんです。その言葉を聞いたときに感じたことを歌にしたのが「YOU」ですね。なんて言うか、どんな人にも明日って保証されていないじゃないですか。みんな当たり前のように明日が来るって思ってるけど、実はそれってすごいことなんだってこの曲を通して気付いてもらいたいなって。だから、若い人たちにも共感してもらえるようなストーリーにしているんですよね。
──介護の仕事の経験も、シンガーソングライターとしての糧になってるんでしょうね。仕事をしながら音楽活動も続けていたんですか?
はい。土日の休みが取りづらい仕事だったんですけど、ライブがあるときは休ませてもらったり。すごく応援してもらっていたし、仕事と音楽活動の両立もちゃんとできていたんです。私自身も楽しかったし「このまま仕事を続けるのもいいかな。東京に行っても、なんの保証もないしな」と思っていたんですけど、そのときの支店長さんが「このままだと中途半端だから、東京に行ってみたらどうか?」って言ってくれて。その言葉で決心が付いて、東京に来たんです。
──人の縁に恵まれているんですね。
私がしっかりしていないから、周りの人たちがたくさん助言してくれるんですよ(笑)。本当に人に助けられてますね、いつも。「フシギな夢」の制作中も、あまり時間がない中でのスケジュールだったんですけど、歌詞を見せたときにスタッフの方から「時間がないからって、甘えてないか?」って言われて。そんなつもりはなかったんだけど、確かに妥協したところがあったかもしれないなと思って、書き直したんです。そうやって周りの皆さんが言ってくれるからこそ、いい作品ができあがっているんですよね。
──丸本さんに周りの言葉を聞き入れる態勢があるのも大きいんじゃないですか?
うーん、どうなんですかね? 何か言われたときは、1回は反発してしまうので。「甘えてません! ちゃんとやってます!」って(笑)。でも、後から冷静に考えてみると「やっぱり違ってたかな」と思うっていう。だから、私に助言をくれる方たちは腹が立ってると思います(笑)。もちろん私の意見もあるけど、冷静に見てくれてる人の意見のほうが正しい場合が多いんですよね。
──ボーカルのレコーディングのときも、話し合いながら進めているんですか?
衝突しながらやってますね(笑)。歌い方に関しては周りのスタッフの中にも「これが正しい」というのがあると思うんです。でも、最終的にはみんなが納得するカタチになってますね。
「泣いたら音源にならない」って我慢した(笑)
──今回のミニアルバムには2nd配信シングル「やさしいうた」と「コトバ」のライブ音源も収録されています。ライブに対する意識もキャリアを重ねるごとに変わってきてますか?
そうですね。私とお客さんは歌う人と聴く人という関係ではあると思うんですけど、「一緒にがんばっていこう」っていうような空気を作りたいという気持ちがずっとあって。メジャーデビューしてからは、いろいろと意識が変わってきたところもあるんです。インディーズの頃は、ライブの当日にセットリストを考えて、MCもその場で思い付いたことを話してたんだけど、最近「ライブの空気感によって、曲の届き方が全然違う」ということを実感するようになって。今はセットリストも早めに決めて、イメージトレーニングするようにしてます。心にもだいぶ余裕が出てきたし、「より多くの人に届けられるように」という意識もさらに出てきたんじゃないかなって思います。
──このライブ音源からも、その場の雰囲気が強く伝わってきます。
ありがとうございます。その場でしか伝わらない表現だったり、臨場感もすごく詰まってると思うので、この音源を聴いてぜひライブに足を運んでほしいですね。これは去年渋谷のTSUTAYA O-EASTでやったメジャーデビューしてから初めてのワンマンライブの音源なんですけど、「やさしいうた」を歌っているときにお客さんが何人か泣いてくださってたんですね。それを見て私も泣きそうになったんだけど、「泣いたら音源にならない」と思って我慢したっていう思い出もあります(笑)。この曲はもともと、家族のことを思って書いた歌です。家族ってずっと一緒にいると「めんどくさい」と思うこともあるし、ケンカすることもあるじゃないですか。でもこの曲には、そういうことが一切入ってないんです。この曲を聴いて「ケンカすることもあるけど、優しくしてあげよう」みたいに思ってくれたらいいなって。
──ライブで歌うときも“この曲の中にある気持ち、メッセージを伝える”というスタンスなんですか?
「聴いて聴いて」っていう一方的な姿勢だと届かないと思うんですね。一歩引くというか、ちょっと冷静にお客さんのことを見て、頭の片隅に家族を思い浮かべながら歌うっていう感じかな。そうすることで、より届くような気がするので。「コトバ」のほうは感情を一気に出すようなイメージなんですよね。だからこそ、ライブのほうが曲のよさが伝わるんじゃないかなって。この曲も人を失う経験が基になっているんです。地元にいた頃、ある男の子とデュオを組んでいて「一緒に有名になろう」って言ってたんですけど、「やっぱり1人でやりたい」と思って、そのことを伝えたら絶縁状態になってしまって。ちゃんと思いを伝えたらわかってもらえると思ったし、「謝りたいから、橋の下に来て」って連絡したんですけど、返信もなかったしその場所にも来てくれなかったんですよ。「取り返しがつかないことをしてしまったんだな」と思い知って、そこで待っているときに書いた曲が「コトバ」なんです。
──強い感情が生まれると、すぐに歌と結び付くんですね。
うん、そうですね。「コトバ」は特に高校生の男の子に人気があるんですよ。そういう時期の子も「素直になりたい」っていう気持ちがあるからだと思うんですけどね。
──高校時代から普遍的なテーマで曲を書いていた、ということかも。
そうだといいですね。あの、新しい曲ができていないわけじゃないんですよ(笑)。高校時代の曲は今リリースしたいと思うから、まずはいい形で発表して、その後、新しい曲を出していこうと思っているので。
──今も新しい曲を書いてるんですか?
はい。歌詞とメロディを同時に作るやり方を試したりもしています。これまでリリースはしてないんですけど、きれいな部分を歌う歌ばかりではなく、ドロドロしている曲もあるんですよ(笑)。今後は曲のレパートリーを増やして、そういう闇の部分を描いたような曲も歌っていきたいと思いますね。
収録曲
- フシギな夢
- つなぐもの
- なごり雪
- YOU
- ただそばで
- がんばる乙女 ~Happy smile again~
- やさしいうた(live)
- コトバ(live)
丸本莉子アルバム「フシギな夢の中」リリース記念・歌い旅2016
~タワーレコード渋谷店に集合!の巻~ ミニライブ&サイン会
2016年3月17日(木)
東京都 タワーレコード渋谷店 1Fイベントスペース
START 21:00
丸本莉子(マルモトリコ)
広島県出身のシンガーソングライター。高校生の頃からギターの弾き語りを始める。高校卒業後はプロを目指して上京し、全国300カ所以上でライブを実施。地元である広島県安芸太田町のサポートソング、テレビ番組やCMのキャンペーンソングを数多く手がけて注目を浴びる。2015年6月に「ココロ予報」のハイレゾ音源を配信リリースしメジャーデビュー。8月に2作目の配信シングル「やさしいうた」、9月に1stミニアルバム「ココロ予報~雨のち晴れ~」を発売する。11月には高知県観光特使に就任。12月に3作目の配信シングル「つなぐもの」を発表し、2016年3月にはブルボン「ラシュクーレ」CMソング「フシギな夢」を収めた2ndミニアルバム「フシギな夢の中」をリリースした。