ナタリー PowerPush - LOVE PSYCHEDELICO

6thアルバムへの期待煽る布石シングル

前作シングル「It's You」から1年3カ月。その間、散発的にライブを行いつつ、制作作業に没頭していたLOVE PSYCHEDELICOが、来たる6thアルバムに先駆けてニューシングル「Beautiful World / Happy Xmas (War Is Over)」を完成させた。

今回のシングルには、映画「任侠ヘルパー」の主題歌に起用された「Beautiful World」と、ひと足早いクリスマスプレゼントであるジョン・レノン&オノ・ヨーコのカバー「Happy Xmas (War Is Over)」を収録。LOVE PSYCHEDELICOが今作の先で見据えているものとは果たして? 久しぶりに新作をリリースする2人に話を訊いた。

取材・文 / 小野田雄

「Beautiful World」は震災とは切り離せない

──今回の「Beautiful World」は、ただ美しい世界を切り取っただけの曲ではなく、「美しくない世界があるからこそ、美しいものがある」という視点から書かれた曲ですね。

KUMI(Vo, G) そう。そういった全てがないまぜになった世界が前提にあって。

NAOKI(G, B, Key) どこかに行けば「Beautiful World」があるっていうことではなく、この世界で「Beautiful World」を見失わないようにしようってこと。日々、いろんなことがあるけれど、今立っている場所が「Beautiful World」なんだよっていう。

KUMI どんな状況であっても、その内側には必ず光がある。そう信じる気持ちをここでは歌っている。

──この曲を作り始めたのは?

KUMI 「It's You」と同時期。だから、東日本大震災直後だね。

NAOKI 映画「任侠ヘルパー」主題歌のオファーをいただいてから完成させたんだけど、この曲は震災と切り離せない。

KUMI ただイメージが漠然としていたから、それを形にするのが結構大変で、特に歌詞は何度も何度も書き直したね。

カオスから生まれた俺たちのブルース

──歌詞には「風」が象徴的な形で何度も登場しますよね。

KUMI 風が意味するものは、はかなさや無常感、希望ですね。いい状況も悪い状況も風のようにもたらされるけれども、その風は止まらずに移ろっていく。それが救いであると同時に、光でもあるというか。どんな状況であっても、そうやってポジティブなものを見出すことができるという確信が持てたら、世界は美しく感じられるはずだと思うんだけどね。

NAOKI ただ震災直後だったということもあってか、作っていた当時は俺たち自身も必死だったし、客観的に曲を作ることができなくて。「Beautiful World」は、ある意味でカオスから生まれた俺たちのブルースでもあるんだよね。

KUMI カオスの中で曲を作りつつ、哲学しつつ。言葉でスパッと言い切れない部分を表現したくて、微妙なニュアンスを表現するために何度も歌を録り直して。結果的にはできた歌詞がどう曲に乗るか、その確認のために歌った仮歌を採用したという(笑)。でも今回の経験を通して、私たちの作ってる音楽はサウンドだけ、歌詞だけではなく、その両方の組み合わせやバランスで成り立ってるなって。音と言葉が両方あって良かったなって思いましたね。

NAOKI 例えば、昔作った「These Days」みたいに明るいメロディに、少し切ない気持ちを乗せると、メロディとのコントラストですごく寂しく聴こえたり、その逆ですごい暗いメロディに明るい気持ちを乗せれば、そこに希望が生まれたりもするし。今回はそういう対比が頭の中にあったね。

KUMI だから歌詞では相反することを歌いながら、楽曲的にはシンプルで淡々とした、それでいて温かみが感じられるものになっているという。

──確かに音数が詰め込まれていない、シンプルで味わい深いバラードですよね。

KUMI ね、曲を聴くと、風が吹いてるように感じるでしょ? これは頭で理解するよりも、感じることを大事にした曲だね。

NAOKI あとアルバム「ABBOT KINNEY」を作り上げたことで、ルーツミュージックの呪縛から解き放たれて、自由に音楽が作れるようになったことも大きいかもしれないね。この曲にしてもミディアムテンポではあるんだけど、一般的なミディアムテンポの曲に比べるとちょっと速かったりするんです。ただその時代その時代で人の歩く速さが変わるように、この曲のテンポは今の時代を反映させたものだったりするし。そういうことを意識しつつ、同時にサラッと聴ける曲にしようと思って作ったね。

「Happy Xmas (War Is Over)」はKUMIの活躍が目立ってる

──もう1曲のシングル表題曲「Happy Xmas (War Is Over)」は誰もがよく知るジョン・レノン&オノ・ヨーコのカバーですが、今回この曲を収録することになった経緯は?

NAOKI 2009年の年末にテレビの音楽番組で初めてこの曲を演奏したんだけど、その後、そのときのライブ映像をYouTubeにアップするファンと、それを削除するテレビ局の間でいたちごっこが続いていたらしくて。それだったら季節的なタイミングも合うことだし、ちょっとしたプレゼントとして気負いなく取り上げてみようかなって。

──この曲でフィーチャーされているゴスペル隊はライブでも共演したことがある有坂美香 & The Sunshowersですよね。

KUMI そう、美香ちゃんたち。2009年に演奏したときも、メンツは違うけどゴスペル隊をフィーチャーしていて、そのときのイメージが今回のカバーにも反映されてるね。

NAOKI オリジナルと比べると、ギターのストロークも違うし、リズムも削ぎ落として、ワルツのリズムを際立たせたり、バックでマンドリンを壁のように鳴らすことで、厳かな感じにもなっているし。そういう部分にLOVE PSYCHEDELICOらしさも出せたかな、と。ちなみにドラムはKUMIが叩いたんだよね。

KUMI そうドラムとパーカッション……あとマンドリンもそうだね。

NAOKI だから、この曲はKUMIの活躍が目立った曲でもあるという(笑)。

LOVE PSYCHEDELICO (らぶさいけでりこ)

1997年に結成された、KUMI(Vo, G)とNAOKI(G, B, Key)によるロックデュオ。2000年4月にシングル「LADY MADONNA~憂鬱なるスパイダー~」でデビューを果たし、流暢な英語と日本語とが行き交うKUMIのボーカルスタイルや、洋楽をほうふつとさせる楽曲がシーンに衝撃を与える。その魅力は瞬く間にリスナーに広がり、2001年発売の1stアルバム「THE GREATEST HITS」は200万枚を超えるメガヒットを記録する。その後も数々の名曲やヒットアルバムを作り続ける一方で、2004年には初のアジアワンマンツアーを開催し、2008年にはアルバム「THIS IS LOVE PSYCHEDELICO」でアメリカデビューを果たすなど海外での活動も展開中。