ナタリー PowerPush - 小林ゆう

女子萌え落語に挑戦&画伯グッズ化計画

談志ゆずりのパンクスピリッツ

──落語へのリスペクトをたっぷりと感じられる作品ですが、あえて落語のスタンダードな形態を打ち破りたいというパンクな気持ちはなかったのでしょうか。

パンクな気持ちって……私、ありますかね?

マネージャー えーっと……。あるんじゃないですか?(ライターに向かって)小林は(立川)談志師匠がすごく好きなんですよ。

あ、談志師匠のお話もさせていただいてよろしいですか? ちょっと話がずれちゃうんですけど、私、立川談志師匠、家元が大好きで。本やDVD、CD、日めくりカレンダー、写真集、いろいろ集めてまして……あ、見ていただいてもいいですか?(カバンの中から取り出して)家元です!

──談志師匠のクリアファイル。かなり使い込まれてますね。

小林ゆう

そうなんですう。2枚持っているので、1枚は肌身離さず「談志師匠と一緒にお仕事に行きたい!」という気持ちで、もう1枚は、おうちに大切に飾らせていただいてます。

──談志師匠はスタンダードな実力を持ちながら、お人柄はパンクでしたよね。

自分自身と格闘していくという意味では、私にもパンクな気持ちがあると思います。大変恐縮なんですけど、“女子萌え落語”と新たなジャンルに挑戦させていただく上で、自分の壁を破るという意味でのパンクスピリッツ。ブンって頭を振らせていただくぞ! みたいな。以前ライブでちょっと頭を振りすぎて担架で運ばれてしまいまして、お医者様に「次やったら命の保証はしないですよ」って止められてるんですけど、でも気持ちの上ではヘッドバンギングです。

──なるほど。談志ゆずりのパンクスピリッツだったんですね。子供の頃からお好きなんですか?

以前から聴いていましたが、こんなに夢中になったのは2~3年前ですね。最初は「落語を聴くのは声優というお仕事の上でとても勉強になるよ」というお話を聞いて落語に興味を持ったんですけど、談志師匠の存在を知ることで、落語への気持ちは大きく変わりました。自分でもやってみたい、と思ったのは談志師匠がきっかけです。

──じゃあ最初の入り口は、声優の仕事の肥やしになるかもっていう。

そうなんです。

「お前なんか破門だよ」

──談志師匠の落語は、ほかの落語家さんとどこがそんなに違ったんですか?

談志師匠は、お若いころから素晴らしい落語をされていらっしゃいまして、50代になると「イリュージョン落語」という新たな落語を開拓されて常に落語と格闘し続けておられたそうです。晩年はガンになられたり、ご病気と闘いながらも、落語というものに文字どおり命がけで取り組まれているお姿を知って、それで……。

──生の高座を観たことは?

大変残念なのですが、生の高座を観させていただくことは叶わなくて……。談志師匠と比べるのは大変恐れ多いのですが、私も声優というお仕事を自分なりに全力投球でがんばっています。「なんて自分は未熟なんだ」って涙しながら帰ったりすることもいっぱいありますけど、ごくたまに、今日はうまくいったなと思えたときは、自分へのご褒美として、道でクルッとターンさせていただいています。ダンスのターンが特に好きなもので。DVDやCDで、談志師匠が一生懸命落語に向かっていらっしゃるお姿に触れると、すごく……魂が震えるんです。私も自分の仕事に対して試行錯誤の毎日ですけど、談志師匠は75歳になるまで、ご病気されながらも必死で落語に挑んでらっしゃったのだから、私なんかが全力でやらなかったら談志師匠「お前なんか破門だよ」っておっしゃられそうで。私まだ入門してないんですけど。

──あははははは(笑)。

勝手に入門した気持ちにならせていただいてるんですけど。すいません生意気で。でも入門しているような気持ちで「お前なんか破門だ」「しくじりやがったな」って注意をされないようにがんばりたいです。

ヘッドバンギングのような落語ができたら

──「モエオチ!」発売後の8月5日には、アルバム発売を記念した落語のお披露目会が決定しました。お客さんを前に落語を生で披露する、いわばライブですね。

ライブなんです!「モエオチ!フェス」でございます。

──ライブとなると、CD作品として作り上げるのと違って、視線や動作による演技が加わるわけですよね。かなり難しい挑戦だと思いますが、現在の心境はいかかですか?

すごくワクワクしています。「モエオチ!」の企画が決まる前から、絶対に生の落語をやらせていただきたいと思っていたので。「モエオチ!」フェスという名の高座、ライブという名の落語ということになりますが、生の高座を観ていただいて初めて「モエオチ!」という作品が完成するというふうに私は思っているんです。たった1回きりの、一期一会のものだと思うので、やっぱりCDとは全然違うものになるのではないかと思いますし、自分から違うものを出していきたいです。

──ライブ感を大事に。

小林ゆう

はい。私、アニメでは少年役や個性的な役、エキセントリックな役をやらせていただく機会を多くいただいているのですが、よくファンの方に「アフレコしている姿を見てみたい」というお声をいただくんです。多分とんでもない姿になっていますし、とても人様にお見せできる表情ではないと思います。汚いお話で申し訳ないのですが、ツバも飛ぶでしょうし。ですが、今回の落語をやらせていただく上では、そういった姿も全部観ていただきたいんです。ヘッドバンギングのような落語ができたらいいなというふうに思ってます。

──病院に運ばれるような(笑)。

そうですね! そのくらいの勢いで完全燃焼したいなって。何が起きるかわかりません。

──観客はどういう気構えで臨めばいいですか?

本当にお越しいただけるだけで幸せなんですけど、よかったら、「微レ存微レ存妹百人」を覚えてきていただけたらうれしいなって。それでみんなでご唱和できたらうれしいなーなんて。

──落語界初のコール&レスポンス(笑)。

キャー!

──世界最長のコール&レスポンスが実現するかもしれないですね。

1センテンスずつ、1小節ずつみたいな感じで、私が「微レ存微レ存?」って言ったら「妹百人萌え萌え祭りー!」とお応えいただけたらうれしいです!

「ブレーキが壊れてるっていうより、ないですよね」

──しかし、この「モエオチ!」という作品が広く評価されて、ライブでも全く新しい独自の世界が作られたとしたら、「声優・小林ゆう」という看板も刷新されてしまう可能性がありますよね。「特殊落語家」としての新しい人生が待っている可能性も、ゼロではないと思います。

特殊枠! ありがとうございます。ただ、私の芯は声優ですので、その部分は変わらないです。今回、本当にすごく自然な形で「モエオチ!」という世界を作らせていただけたと思うんですね。声優というお仕事をさせていただきながら、毎日毎晩談志師匠の落語をDVDで観て、自然と「落語をやってみたい」という気持ちが芽生えて。「モエオチ!」によって、声優のお仕事にも素敵な効果が生まれるんじゃないかと思っています。

──いや、今日お話を聞いて「モエオチ!」という作品が持つパワーと可能性をより強く感じました。

私、よく「ブレーキが壊れてるっていうより、ないですよね」って言っていただくことがあって。人様の前に出ると、自分でもがんばろうとして自分がどうなっちゃうかわからないんですね。なので、今回のライブでも自分がどうなるかわからないですが、一生懸命練習して、みなさまに私の精一杯を観ていただきたいと思います。

──小林さんが今進んでるのは人が通ってない獣道ですから、そこはブレーキを踏まずにガーッと行くべきですよ。

うふふふふ。温かいお言葉をいただけて、すごく励みになります!

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落語CD「モエオチ!」2012年8月1日発売 1890円 徳間ジャパンコミュニケーションズ TKCA-73779

収録曲
  1. 微レ存 ~フルボッコの神降臨~(寿限無)
  2. タヒネ申~彼いない暦=享年~(死神)
  3. じゅうまん怖い ~リア充野郎は逝ってよし~(まんじゅう怖い)
  4. シー・バハマ ~なんてったって地下アイドル~(芝浜)
小林ゆう(こばやしゆう)

2012年5月発売「アニメージュ」にて、読者投票第3位を獲得した人気声優。2009年に「まりあ†ほりっく」のネ氏堂鞠也(しどうまりや)役でブレイク。現在はNHK総合テレビで放送中のTVアニメ「銀河へキックオフ!!」主人公・太田翔役を担当中。元気な少年から可憐な少女、外人、変態、正体不明の宇宙人まで幅広い役をこなす実力派。現在もファッション誌「KERA」モデルにて活躍中という異色の経歴を持ち、抜群のルックスで2冊の写真集(DVD付)を発売している。