ナタリー PowerPush - 小林太郎

実験の果てにたどり着いた「今一番やりたい音」

小林太郎が7曲入り最新CD「IGNITE」をリリースする。今作には昨年発表した1stシングル「鼓動」や配信リリースされた「太陽」のほか、ハーレーダビッドソンが主催するイベント「DEMO RIDE CARAVAN」のオフィシャルタイアップソング「IGNITE」、Steppenwolf「Born To Be Wild」のカバーなどを収録。全体を通して疾走感あふれる、“攻め”の1枚に仕上がっている。

昨年1月発売のフルアルバム「tremolo」でのインタビュー(参照:小林太郎「tremolo」インタビュー)で「(このアルバムは)自分の中にあるイメージにもっとも近付けることができた」と語った小林太郎は、2013年を通じてさまざまな実験に挑戦した(参照:小林太郎「鼓動」インタビュー / 小林太郎「太陽」インタビュー)。そういった活動を経て完成させた新作「IGNITE」で何を表現しようとしたのか。彼の口から明かされたのは、「今まで知らなかったことを勉強したり実験したりするスタンスを『太陽』で一度終わりにしようと思ったんです」という意外な言葉だった。

取材・文 / 西廣智一

新作は「2013年の活動の総まとめ」

小林太郎

──2013年はフルアルバム「tremolo」のリリースから始まって、ライブツアーやイベント出演、そして初のシングル「鼓動」発売や新曲「太陽」の配信リリースと、盛りだくさんの1年だったと思います。ご自身としては2013年を振り返ってみて、どんな1年でしたか?

自分の中にあるイメージを形にするのに必要な技術を勉強しようと思って、たどり着いたゴールが「tremolo」っていうアルバムで。そこからさらに、それまで自分の中にあまりなかった大衆性とか新しい要素を取り入れたり勉強したりしたのが2013年だったのかなという気がします。それこそ「鼓動」や「太陽」ではJ-POPの要素、それこそ俺が大好きなCHEMISTRYさんのテイストとか松尾潔さんっぽいメロディとかを、俺ならではのバンド感と融合させて、納得いくまで何回も作り直したんです。テンポがスローでも勢いのあるギターフレーズを加えることで自分らしさを表現したり、ストリングスを取り入れたりして。本当に勉強になりましたね。

──そういう新たな挑戦の連続の先にたどり着いたのが、今回の「IGNITE」という作品だと思うんですが……とても攻めの要素が強い1枚になりましたね。

そうですね(笑)。実は「IGNITE」の収録曲って、こういう形でリリースしますと決まってから作った新曲って「IGNITE」と「REVOLVE」の2曲だけなんですよ。それも新しいアルバムのために作ったというよりも、ハーレー(ダビッドソン)のタイアップが決まったときに用意した2曲で。だから作品としての統一性がどこまで出てるかはわからないけど、少なくとも2013年の活動の総まとめにはなったかな。

これ以上続けたら単なる作家になってしまう

──昨年の活動の総まとめと言いながら、J-POPを意識した「鼓動」や「太陽」といった既発曲以外がすべてアッパーなロックチューンになったのは何か理由が?

まず、今まで知らなかったことを勉強したり実験したりするスタンスを「太陽」で一度終わりにしようと思ったんですね。そもそも俺は自分の頭の中にあるイメージをそのまま形にする、その技術が欲しかったんです。それを「tremolo」で手に入れることができて、さらに客観性を加えることで手にした技術に磨きをかけたかった。その実験の場が「鼓動」と「太陽」だったんです。たった2曲だけかもしれないけど、その2曲に全力で取り組んだこともあって、「ああ、もうこの部分に関しては十分だな」と実感できて。で、その際に「これ以上続けたら俺は単なる作家になってしまう」と考えてしまったんですよ。

──いわゆる職業作家になってしまうと?

はい。作家だったら別に小林太郎という名前でやる意味はないんじゃないかって。もちろん職業作家自体は素晴らしいと思うけど、今の自分は小林太郎という名前で自分の曲をやりたいから今ここにいるんだ、それを続けたいんだと気付かされて、新しいことを勉強するのは一度「太陽」で終わりにしようと思ったんです。で、もう自分の中にあるイメージを形にする技術はあるし、こういうことをしようという自分に課せた縛りもない。だったら今一番やりたいこと、カッコいいと思うことを音にしたいと考えていたときにタイミングよくハーレーのタイアップの話が来たんです。

──その結果が「IGNITE」と「REVOLVE」だったと。

そうです。タイアップって与えられたテーマや対象のイメージに合った曲を書かなきゃいけない。そう考えるとけっこう難易度が高いと思うんですけど、そもそもハーレーってすごくイメージが湧きやすくって、曲を作る際に何も苦労しなかったですね。それこそThe Rolling Stonesの映画「ギミー・シェルター」におけるヘルス・エンジェルみたいに、ハーレーってロックとの結び付きが強いし。あと革ジャンにジーンズっていうファッションもロックと共通する。俺が今までやってきたロックの方向性自体もハーレーのイメージに近かったし、肩の力を抜いて作ることができました。リリース自体は2014年2月だけど、2013年の年末にこの2曲を制作することができてすごくよかったと思うし、とても気持ちよかったですね。

この王道感って、そもそも俺にとって相性がいいんだな

──表題曲の「IGNITE」ですが、冒頭のギターフレーズからそのままリフに流れていく構成といい、Aerosmithを彷彿とさせる王道のアメリカンロックテイストの楽曲ですね。それでいてボーカルが加わるとしっかり小林太郎としての個性を主張していて、絶妙なバランス感で成り立っている楽曲だなと。「tremolo」までのスタイルをより研ぎすませたような印象を受けました。

ありがとうございます。本当に最初のイメージはAerosmith、ZZ Top、AC/DCあたりだったんです。そういう思いっきり王道のアメリカンロックって作る機会があまりなかったんですけど、完成した「IGNITE」を聴いて改めて「あ、この王道感ってハーレーだからというだけではなくて、そもそも俺にとって相性がいいんだな」と気付かされて。

──そういえばこの「IGNITE」という作品集を聴いて面白いと思ったのが、ハーレーのタイアップ曲「IGNITE」から始まって、Steppenwolfのカバー「Born To Be Wild」で終わるという(「Born To Be Wild」は1960年代末に公開された、ハーレーが登場するアメリカ映画「イージー・ライダー」で使用された)。

あははは(笑)。カバー曲を録音してしばらくしてからハーレーの話が来たんで、本当に偶然なんですよ。王道のアメリカンロックという意味では「Born To Be Wild」もど真ん中の曲ですけど、レコーディングしたときはこんな内容になるとは思ってもみなかったですね。

最新CD「IGNITE」/ 2014/02/12発売 / STANDING THERE, ROCKS
初回限定盤 [CD+DVD] 2100円 / KICS-93013
通常盤 [CD] 1800円 / KICS-3013
CD収録曲
  1. IGNITE
  2. DIVE DEEP
  3. 鼓動
  4. SOL Y SOMBRA~interlude~
  5. REVOLVE
  6. 太陽
  7. Born To Be Wild
初回限定盤DVD収録内容
Studio Live~Another Side~
  • Rock’n Roll Is Dead / Lenny Kravitz
  • Sunday Morning / Maroon5
  • A Hard Day's Night / The Beatles
MUSIC VIDEO
  • IGNITE
  • 太陽
イベント情報
ON THE ROAD

2014年2月18日(火)大阪府 Music Club JANUS
<出演者>
小林太郎 / TarO&JirO / カルメラ

DISK GARAGE MUSIC MONSTERS -2014 winter-

2014年2月23日(日)東京都 TSUTAYA O-WEST / 渋谷duo MUSIC EXCHANGE / TSUTAYA O-nest / TSUTAYA O-Crest

※小林太郎の出演会場はTSUTAYA O-WEST、出演時間は15:00~15:30の30分間。

小林太郎「IGNITE」発売記念インストアライブ

2014年3月28日(金)東京都 タワーレコード渋谷店B1 CUTUP STUDIO

小林太郎(こばやしたろう)

小林太郎

静岡県浜松市生まれのロックシンガー。初音源として、2010年1月にインディーズ1stアルバム「Orkonpood」をタワーレコード限定でリリース。力強いボーカルと洋楽の影響を感じさせる重厚なサウンド、鋭い歌詞でリスナーから支持を得る。iTunesによる2010年にもっとも活躍が期待できる新人アーティスト「iTunes JAPAN SOUND OF 2010」にも選出され、2010年夏には「ARABAKI ROCK FEST」「SUMMER SONIC」など新人としては異例となる16本の大型フェスに出演。「小林太郎とYE$MAN」での活動を経て、2012年よりソロ活動を再開。同年7月に新レーベル「STANDING THERE, ROCKS」からメジャー1st CD「MILESTONE」をリリースした。翌2013年1月には早くもメジャー1stフルアルバム「tremolo」を発売。同年7月には1stシングル「鼓動」を発表し、11月には新曲「太陽」をデジタル配信した。そして2014年2月、ハーレーダビッドソンが毎年開催するイベント「DEMO RIDE CARAVAN」初のオフィシャルタイアップアーティストに選ばれ、そのタイアップソング「IGNITE」も収録された最新CD「IGNITE」をリリース。