音楽ナタリー Power Push - リミックスアルバム「加山雄三の新世界」発売記念特集

加山雄三×PUNPEE×コムアイ(水曜日のカンパネラ)

異才たちの歳の差トーク

自由度の高さが幸せのバロメーターだって、アメリカで研究結果が出てるんだよ

──PUNPEEさんは先ほど話題に出たMVでも加山さんと共演されていますが、コムアイさんは加山さんとお会いするのは……。

加山 今日が初めてだね。

コムアイ そうですね。

加山 こんなにかわいくてキレイな人だとは思わなかったよ。「水曜日のカンパネラ」っていう名前は知ってたけど、見たことはなかったからさ。

コムアイ

コムアイ 今回のリミックスは楽しいお仕事でした。ありがとうございます。

加山 どういたしまして。

コムアイ  水曜日のカンパネラは、作品全体のコンセプトやアプローチを決めて、そこでリスナーにどうイメージされるか、どう受け止められるかを考えながら作品作りを進めているんですね。だけど、今回は1曲に注力する形だったし、リミックスなので、逆に何をやっても大丈夫だなって思ったんです。だから普段の自分の仕事よりも自由にできた感触があったし、それが本当に楽しくて。

加山 「自由度が高い」って感じることが、人間の一番の幸せなんだってさ。

コムアイ そうなんですか?

加山 アメリカの研究で、一生のうちにどれだけ自由な時間を持てるかっていうのが、幸せのバロメーターだって研究結果が出てるんだよね。だから自由なことができたって思えるときが一番幸せだと思うし、今回のリミックスでそれを味わってもらえたならうれしいよ。

Pro Toolsで宅録してると延々やっちゃうんだよな

──今回はどの曲も超有名曲であり、かつ加山雄三の声や原曲の音という“大ネタ”を素材に使うわけですが、PUNPEEさんは原曲を素材に“料理”するときにどんなことを考えましたか?

左からPUNPEE、加山雄三、コムアイ。

PUNPEE この曲はヒップホップ的に王道で普遍的なビートで構成してるんです。「お嫁においで」を再構築するなら、一番それが映えると思ったんですよね。それから、パクったわけではないんだけど、韻踏合組合の「DBマーチ」が、歌謡曲に王道のビートを組み合わせる構成だったんです。それが無意識に頭にうっすらあったかもしれない。リリックについて言うと、俺は結婚に対するイメージが全然ないんですね。だから原曲の内容を基にリリックを書いても、イメージがとっちらかっちゃって、リリックを書くだけでも半年ぐらいかかって。結局作るのに1年ぐらいかかったんですよ。

加山 そんなに悩んだんだ。

PUNPEE スゲえ悩みました。ちょっとハゲができるぐらい。

加山 そりゃあ悪かったなあ(笑)。

──そこまで悩んだ理由は?

PUNPEE 名曲を触るのって、やっぱりプレッシャーなんですよね。原曲に見劣らない、ちゃんとしたものを形にしたかったし、原曲とは時代が変わってるわけだから、今の若い人間の気持ちやムードも代弁しつつ、そこに自分個人の気分、例えばだらしなさとか、そういうものを込めないといけないと思って、構成を作るのに時間がかかってしまって。もうちょっとできるな、もうちょっとできる……を続けていったら、それぐらい時間がかかってしまいました。トラックも制作途中で音のピッチを上げてるんですよね。雄三さんの曲をSP盤で聴いてるみたいな感触が欲しくて。それに合わせてラップも録り直したりして。

加山 なるほどね。

PUNPEE それでまた時間かかっちゃって。いろいろやりました。

加山 俺もわかるよ。自分のスタジオで、コンピュータで自分の音源をデジタル化して、音を調整するって作業を続けてて。Pro Toolsでやってるんだけど、なかなか苦労するよ、あれは。

コムアイ 半端ない……Pro Toolsを使ってるんですか?

加山 使ってるよ。テープとかA-DATとかいろんな機材で今まで録ってきてるから、それを全部コンピュータに流し込んで編集したりしてて。多重録音もコンピュータでやってるけど、延々やっちゃうんだよ。ジャッジは自分が許せるかどうかなんだよな、宅録をする人は。

PUNPEE

PUNPEE そうですね。僕も家で制作してるから、ずっとやっちゃうんですよ。

加山 宅録での完成は、自分がそれを許せなければとことんまで突き詰めちゃう。誰が聴いてもいいなと思うところまで、自分がそう確信が持てるところまで、とにかく持っていこうとするよね。でも、それは音楽に対する情熱であって、愛情だと思うよ。ただ、レコーディングスタジオだとそうはいかないんだよな。借りてる時間もあるし、作業が長引くとまた延長料金かかるな、とかさ(笑)。

PUNPEE そうですね。最終的にはいい感じで決着したんで、悩んだ甲斐はありました。

加山 だからいい曲になったんだな。「あの曲がこんなによくなるんだ」って最初に聴いたときから思ってたよ。ご苦労さんでした。

PUNPEE ありがとうございました(笑)。

いつの間にかアメリカンスクールの卒業歌になってるんだよ

コムアイ 「お嫁においで 2015」はリリースされる前から、裏ルートで聴かせてもらってたんですけど(笑)、聴いた瞬間に「ヤベえ!」と思ったんですよね。愛情をかけて作ってることがわかったし、もともとクオリティが高い原曲を、すごい勢いで破壊して、すごい勢いで再構築してるから、その壊す量も、作る量もとんでもなかっただろうなって。そして「リミックスってこういう作業なんだ」って改めて気付いて。

PUNPEE ありがとう(笑)。

コムアイ それで、あのリミックスを聴いて、水曜日のカンパネラの曲のリミックスをPUNPEEさんにお願いしたんですよ。でも受けてくれなくて。

加山PUNPEE (爆笑)

左から加山雄三、コムアイ、PUNPEE。

コムアイ 加山さんのは受けたのに、私たちはダメなんだ、って。

PUNPEE 違う違う! 時間がなかったんだよ。そんなこと今言われると思わなかった……変な汗かいたよ(笑)。

コムアイ 絶対この話はぶっこんでやろうと思ってました(笑)。でも、それだけ時間がかかったって聞くと、断られたのもしょうがないかなと。

──水曜日のカンパネラは「海 その愛」という“大ネタ”を素材に使うときに考えたことは?

コムアイ やっぱり加山さんの声をどう使うかは悩みましたね。でも加山さんの太い声と、自分ではコンプレックスだと思ってる私の細い声でうまくバランスを取れば、いい相乗効果が生まれるんじゃないかなって。

加山 なるほど。そういう考え方もできるんだな。面白いね。

コムアイ 今回のリミックスが半分カバーみたいな形になったのは、その流れがあってですね。

加山 そうか。それはなにより。

──アプローチとしては「架空の紅白歌合戦」のような、壮大な印象のリミックスになっていますね。

コムアイ 東京オリンピックも控える中で、日本人の中で誰か1人を世界中に観てもらうとしたら、加山さんなのかなって思ったんですよね。

加山 ホントに?(笑)

コムアイ そうなんです。そのイメージの上で原曲をどう再構築しようかなと思ったときに、国歌斉唱のような形にするのを思い付いたんですよね。

左からPUNPEE、加山雄三、コムアイ。

加山 「海 その愛」は、あるアメリカンスクールの卒業歌にもなってるんだよ。英詞バージョンをとあるイベントで歌ったことがあって、そのときにバックで合唱してくれたのがアメリカンスクールの生徒だったんだよね。その生徒たちが以降も学校で歌い継いでるうちに、いつの間にかその学校の卒業歌になってて。

コムアイ へー!

加山 それを歌ったときは、レーガン元大統領の前だったから俺も緊張したな(笑)。

PUNPEE 歴史がありすぎますね(笑)。

加山 そういう思い出もある曲を、国歌のような荘厳なアレンジにしてくれたのは面白かった。

コムアイ 先に知らなくてよかったです。それを知ってたらたぶんそのアプローチはやらなかったから(笑)。

──無意識につながったってことですよね。

コムアイ ホントにそうですね。いろんな人が同じ方向を向いて歌ってるようなイメージがあったんで、自分の声をいっぱい録って、それを被せていったんですよ。だから、1人で歌ってるんだけど、語尾の感じをそれぞれで変えたり、声のトーンを変化させたりして、大人数で歌ってるみたいに聴こえるようにして。かつ、加山さんの歌がとにかくグルーヴィだったので、逆に私はグルーヴを消した歌い方で、その距離感を付けようと思ったんです。コーラスワークだったり、声だけで表現を進めるのは、普段の制作とは真逆のアプローチだったので、すごく刺激になりました。例えばラップじゃない、「あー」「うー」みたいな声が持つ情報量について考える機会になったし。今後にも生かせると思いましたね。

V.A.「加山雄三の新世界」 2017年3月8日発売 / 2500円 / ドリーミュージック / MUCD-1380
「加山雄三の新世界」
収録曲
  1. お嫁においで 2015 feat. PUNPEE
  2. 蒼い星くず feat. ももいろクローバーZ×サイプレス上野とロベルト吉野×Dorian
  3. 夜空の星 feat. KAKATO×川辺ヒロシ
  4. ブラック・サンド・ビーチ~エレキだんじり~ feat. スチャダラパー
  5. 旅人よ feat. RHYMESTER
  6. 夕陽は赤く(yah-man version)feat. RITTO×ALTZ
  7. 海 その愛 feat. 水曜日のカンパネラ
  8. 君といつまでも(Together Forever Mix)feat. ECD×DJ Mitsu The Beats
加山雄三(カヤマユウゾウ)
加山雄三

1937年、神奈川県横浜市生まれ。慶応義塾大学法学部政治学科卒業後、1960年に東宝と専属契約を結び芸能界入りする。1961年7月に主演映画「若大将」シリーズがスタートし、挿入歌「夜の太陽」で歌手デビュー。1966年にシングル「君といつまでも」が大ヒットを記録し、その後も多数のヒット曲を発表する。弾厚作名義で作曲家としても活躍し、自身の楽曲のほか、日本テレビ系「24時間テレビ『愛は地球を救う』」のテーマソング「サライ」などの作曲を担当。2013年に宮城で開催された野外フェス「ARABAKI ROCK ROCK FEST.2013」への出演をきっかけに翌2014年に、キヨサク(MONGOL800)、佐藤タイジ(シアターブルック)、名越由貴夫(Co/SS/gZ)、古市コータロー(THE COLLECTORS)、ウエノコウジ(the HIATUS)、武藤昭平(勝手にしやがれ)、タブゾンビ(SOIL & "PIMP" SESSIONS)、高野勲、山本健太、スチャダラパーと共にロックバンド・THE King ALL STARSを結成。同年に加山自身の最後の全国ツアーとして「若大将EXPO ~夢に向かって いま~」を47都道府県で行った。4月21日には生誕80年を記念して東京・東京国際フォーラム ホールAで一夜限りのスペシャルライブを開催する。

PUNPEE(パンピー)
PUNPEE

東京都板橋区在住のラッパー / トラックメーカー。2006年に「ULTIMATE MC BATTLE 2006」東京大会で優勝し、翌2007年に弟の5lack、同級生のGAPPERと共にPSGを結成する。2009年10月にPSGとしてデビューアルバム「David」を発表し各方面で話題に。2014年にはPUNPEE単独で清涼飲料水「レッドブル」のCMソングやTBS系「水曜日のダウンタウン」の音楽を手がけ、お茶の間にもその存在感を示すようになる。2015年7月に発売されたRHYMESTERのアルバム「Bitter, Sweet & Beautiful」ではプロデューサーとして5曲、フィーチャリングゲストとして2曲に参加。2017年1月には宇多田ヒカルの「光」をPUNPEEがリミックスした楽曲「光(Ray Of Hope MIX)」が配信リリースされ、iTunes Storeの全米チャートで日本人アーティスト最高位となる2位を記録した。

水曜日のカンパネラ(スイヨウビノカンパネラ)
水曜日のカンパネラ

水曜日のカンパネラ 主演・歌唱担当のコムアイと、作曲・編曲担当のケンモチヒデフミ、それ以外担当のDir.Fからなる音楽ユニット。2012年夏にデモ音源「オズ」と「空海」をYouTubeにて公開し、2013年3月に東京・下北沢ERAにて初ライブを実施した。ライブではコムアイのみがステージに立ち、彼女の趣味の1つである“鹿の解体”を行うなどの個性的なパフォーマンスで注目される。2015年には「ヤフオク!」のテレビCMにコムアイが出演。同年11月にはCMでオンエアされた楽曲「ツイッギー」を含むアルバム「ジパング」をリリースし、音楽誌の年間ベストアルバムに選出されるなど大きな話題を呼ぶ。2016年3月、アメリカ・テキサス州オースティンにて開催された「SXSW 2016」でライブを行い、ワーナーミュージック・ジャパン内のレーベル・Atlantic Japanからメジャーデビューすることを発表。同年6月にEP「UMA」、2017年2月にフルアルバム「SUPERMAN」をリリースした。2017年3月8日には初の東京・日本武道館公演「八角宇宙」を開催。