ナタリー PowerPush - 井上ジョー
痛快ロック一本勝負! 新たな挑戦をみせる2ndアルバム
ビデオクリップ初監督で曲に旨み&コクをプラス
──ではアルバムの曲それぞれについてお聞きしたいんですが、ジョーさん自身が特に気に入っている曲を挙げてもらえますか。
難しいなー(苦笑)。えーと、まず「HOME」じゃないですかね。これはアルバムのタイトルにも使ってるロサンゼルスについて歌った曲ですし、今までにないタイプの曲かなって。
──この曲はどんなふうに生まれたんですか?
夏前あたりにスタジオで考えた曲です。最初は何のプランもなしに大枠ができて、でき上がった音を聴いていたら「なんとなく地元を思い出すメロディだな」と思って、地元のロスについて歌詞を書くことにしました。初めはもっと自分にしかわからないような細かいことを歌ってたんですよ。だけど作っていくうちに、故郷のように“安心できる場所”は誰もが持っていて、そこに戻ったときのホッとする気持ちを聴く人と共有したいなと思うようになっていったんです。だからこの歌を聴いた人にはそれぞれ描けるものがあると思うんですよね、自分の出発点というか。
──この曲はビデオクリップをジョーさん自身が初監督したのも大きなトピックですね。
曲を書くときっていつも頭の中に映像が浮かぶんですけど、この「HOME」はその映像をどうしても自分で撮りたい! という気持ちになったんです。自分の大好きな地元の風景を描いた、そういう曲を書くっていうのはずっとやりたかったことで、今回やっと実現できました。
──撮影は地元のロサンゼルスで敢行したそうですけど、内容はジョーさんの1日に密着したような映像に仕上がっていますね。
もう普段のまんま撮った感じですね。PVだから……と演じてる部分が一切ないので、そこからにじみ出る笑顔を見てほしいです。曲を書く上でも、そういう、シンプルでピュアな気持ちがすごい大事だと思うんですよね。音楽やってると、ある程度狙ったり、計算したり、演じなきゃいけない部分はあると思うんですけど、この曲に関しては僕の素を出し切れたので、本当に作れて良かったなって思います。
──思い入れのあるナンバーを映像化したことで、さらに大切な1曲になった?
もちろん。カレーって、作って寝かせると次の日さらに美味いじゃないですか。それと同じで、曲ができてハイ終わりじゃなく映像作品も作ることで、曲に旨みがプラスされてるんですね。曲を作ってビデオへのインスピレーションが沸いて、作ったビデオを見てその曲がまた好きになって、どんどんコクが出てくる感じ。自分にとってすごく大きな意味を成す曲になりました。だから、このビデオを観た人もそれぞれのホームを思い出してくれたら素晴らしいなと思うんです。ただ僕が地元で遊んでるんじゃなくて、いかに故郷が安心できる場所で、喜びを感じられる場所かってことを思い出してもらえたら。
──では他に、アルバム制作を振り返ってみて思い出すエピソードがあれば教えてください。
スタジオで良いハプニングが起こって、そこから生まれた曲もありましたね。あと数日でミックスの締め切りっていうときにまったく新しい曲が浮かんで、その衝動のままにレコーディングしたものとか。
──例えばどの曲がそうですか?
4曲目の「ふたりでひとり / The Journey」ですね。最初は「ふたりでひとり」のみの曲だったけど、なんか同じサビが続いて終わるのもどうかなーと思ってギター弾き始めたらいいリフと一緒にメロディも歌詞もスッと出てきて、じゃあこれを元のやつとつなげちゃえばいいんじゃないかってひらめいたんです。他にもテイク1か2がそのまま形になって残ってるものがあるし、初期衝動が詰まってる曲が多いのも今回の特徴ですね。
──それからこの4曲目をはじめとして、いわゆる普通の曲構成にのっとった曲が少ないですよね。
そうそう、そこもちょっとチャレンジしてみたところです。曲数が少ないからこそ変則的なものもアリかなと思って。今まではキャッチーさを求めたがゆえの同じ構成だったんですけど、今回は短い中に意外性を詰め込むことを意識しました。これならきっとライブで弾いててもいつまでも楽しく歌える曲になるんじゃないかと思ってます。
車の中、バスの中、電車の中で実験的レコーディング
──レコーディングや制作現場で思い出に残っている曲はありますか?
6曲目(「キミゴコロ」)と10曲目(「ハロハログッバイ」)かな。まず6曲目は、移動中の車の中で作った曲、というか録った曲なんですけど。
──録った?
車の中でレコーディングしたんです。ライブのために東京から大阪まで7時間かけて車移動してるとき、渋滞してるし、長くて退屈してたんですね。で、ちょうど夜景のキレイな橋を渡っているところで何か良いインスピレーションをもらえそうな気がしたんで、パソコン開いて録音機材を広げて、シンセを弾き始め……。
──えっと、それは機材を広げられるほど大きな車なんですか?
ただのグランドキャビンみたいなやつですよ。サポートメンバーみんな寝てる中で(笑)「いいリフができたぜ!」ってテンション上がっちゃって、車内で録ったフレーズがそのまま使われてるんです。
──それはまさに裏話ですね。完成品を聴いてる分には全くわからないです。
それから「ハロハログッバイ」は最初ロサンゼルスで作り始めて、その後歌とか各パートをめちゃくちゃいろんな場所でレコーディングした曲です。例えば、自分がよくサーフィンをしに行ってるビーチの駐車場にマイク立てて、海を見ながら歌ったりとか。傍から見たらすっげえ不思議でしょうね(笑)。あとシンセサイザーは日本のバスの中とか電車の中で録ったなぁ。
──普通はスタジオでやると思うんですが(笑)、なぜ外で?
あははっ! ごもっともなんですけどね、レコーディングって録ったものをそのまま記録として残せるじゃないですか。僕はそこにすごく魅力を感じてて。じゃあ移動中の気持ちとか空気感もパッケージできるのかな? とか、相対性理論みたいなものが働いて何か変わったりするのかな? とかすごく気になって新しい可能性を求めるようになったから、外に出てみたくなったのかも。旅してるときのあのワクワク感とか、バスでレコーディングしてるんだっていう高揚感とか、ひとつひとつのグルーヴを感じることで目に見えない気持ちをより込められるんじゃないかなって。
──1stアルバムの頃ってもっと緻密さを大事にしていたイメージがあったので、そんな気軽に録った音を使ったり、集中できなそうな場所でレコーディングするようになったのは意外です。何かジョーさんの中で心境の変化があったんでしょうか。
1枚目を経て、より実験的になったのかもしれないですね。どれだけ自分の限界を超えられるか、どれだけの感情を込めることができるか、それを試すにはまずこの部屋から出なきゃな、と。やっぱりある程度スタジオにいるとインスピレーションが何も得られなくなってしまいますから。
CD収録曲
- Can you hear me?
- 風のごとく -B.B.B. ver.-
- HOME
- ふたりでひとり / The Journey
- ANIMAL feat. Yoko Yazawa
- キミゴコロ
- LIGHTS -Album Ver.-
- GO★ -Album Ver.-
- CLOSER -English Ver.-(ボーナストラック)
- ハロハログッバイ(ボーナストラック)
初回盤DVD収録内容
- MUSIC VIDEOS
- 「風のごとく」「GO★」「HOME」Directed by JOE INOUE
- Valentine's Day Special Acoustic Live
- MAKING OF "HOME"
井上ジョー(いのうえじょー)
1985年生まれ、アメリカ・ロサンゼルス出身。ソングライティングに加え、楽器やアレンジなどすべて自ら手掛がけるマルチアーティスト。日本人の両親のもとで、日本のポップカルチャーとアメリカの音楽シーンに触れて多感な時期を過ごす。学生時代にオリジナル曲の制作を開始し、2006年に初の日本長期滞在を経験したことを機に、日米を往復しながらの音楽活動を展開する。2007年9月に1st EP「IN A WAY」をリリースし、2009年4月には1stフルアルバム「ME! ME! ME!」を発表。カラフルな新感覚のミクスチャーサウンドがコアな音楽ファンからも評価されている。