ナタリー PowerPush - いきものがかり

作家2人とシンガー1人が作り出す純粋国産ポップミュージック

いきものがかりの3rdアルバム「My song Your song」が12月24日にリリースされた。「帰りたくなったよ」「ブルーバード」「プラネタリウム」「気まぐれロマンティック」といったヒットシングルと、その他数多くのタイアップ曲を含む名曲揃いの1枚。だが、これほど高品質なポップチューンを次々と世に送り出しているにもかかわらず、いきものがかりはまだまだ過小評価されている。

類い希な客観性と大衆性を生み出す「いきものがかりシステム」とは何なのか。果たしていきものがかりは21世紀のピチカート・ファイヴになれるのか。

2人の作曲家と1人のシンガーからなるこの特異なグループの秘密を、ナタリー独自のロングインタビューで解き明かしていこう。

取材・文/大山卓也

 
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自分たちはコアな音楽ファンじゃないんです

——ニューアルバム「My song Your song」聴かせてもらいました。素晴らしい内容で、多くの音楽ファンに聴かれるべき作品だと思います。

3人 ありがとうございます。

——ただ、いきものがかりはまだまだ過小評価されているというか、老若男女に広く支持されている反面、現在コアな音楽ファンといわれる層からはほぼ無視されているように思うんです。そのあたりご本人はどう感じているんでしょうか?

山下 そうだろうな、と思ってました(笑)。

水野 想定内(笑)。

吉岡 でもここまではっきり言われたのは初めてですね。

山下 でも、そんなに気にしてるわけでもないですよ。もともとポップなものが好きで、それを淡々と作ってきただけだし。自分たち自身があんまりコアな音楽ファンっていうタイプの人間じゃないんです。ヒットしている邦楽を当たり前に聴いてきて、あと親の影響で昔のニューミュージックやフォークを聴いてきて、っていう感じだったんで。高校生くらいの頃にちょっと洋楽に走ろうとしたこともあったんですけど、ダメだこりゃ、って帰って来ちゃったタイプなので。

水野 がんばって気取ればもう少しかっこよくできるのかもしれないですけど、それは自分たちではないし。もともと路上ライブから始まったグループだっていうのが大きいと思いますね。そっぽ向いてる状態の人を振り向かせるのが第一の目的だったので、より多くの人に聴いてもらうためにはどうすればいいんだろう、聴いてくれる人はどんな音楽を聴きたいんだろうっていうことに関心がいくんです。だからやっぱりよりポップなほうに向かっていくし、音楽好きの人の視野の外にどんどん行くし。

——なるほど。

水野 それを楽しんでる部分もありますけどね。例えば下北とかで尖ったバンドを探してる若い子とか洋楽好きの人とかは、こっち向いてくんないだろうと思ってます。だからそういう人たちがこっち向いてくれたときの嬉しさっていうのもあるんですよ。

吉岡 あと、フェスといわれるものに参加して、音楽ファンっていわれる人たちの前に立つと私たちは逆に燃えるっていうか。アウェイだなって思う。だって私は童謡から入ったんですよ。合唱団でずっと歌ってきたし。でも今自分たちが持っているものをちゃんと見てもらえば、特にライブでは好きになってもらえるっていう自信があるから。今振り向いてくれてない人の前でもライブしてみたいって、そう思ってますね。

——逆に言うと洋楽的なルーツが見えないのに、これほど完成度の高い音楽をやれていることが不思議なんですが。

山下 みんなが通る音楽ってあると思うんです。初めて買うCDとか、子供の頃に聴いた「みんなのうた」とか。それでいいというか、それがいいと思ってるんです。

——ターゲットはかなり広いですよね。

山下 年配の人が意外と好きでいてくれたりとか、小学生や中学生の人がファンになってくれたりとか。同年代の人ももちろんいますけど。そういう意味ではいきものがかりの音楽は年齢も性別も問わないですね。路上がそういう場だったから。

水野 うん、音楽に対する基本的な考え方は路上ですね。あっち向いてる人を立ち止まらせたいっていう精神は、今もずっと、曲を作る上でもライブする上でも同じです。

——だからあんなにキャッチーな音楽になるんでしょうか?

山下 やっぱりそういう曲が路上では刺さりますからね。

水野 サビあたまばっかりとか(笑)。

歌が作り手の人格を離れているから客観的になれる

——もともとは水野さんと山下さんが2人で路上で始めたグループですよね。そういう人はやっぱり「自分が歌いたい」という意識が強いと思うんですけど、そこで「女の子のボーカルを入れよう」という発想が生まれること自体が面白いなあと思って。

山下 当時10年くらい前にゆずブームが来て、路上はゆずのカバーやってる男の子たちばっかりだったんですよね。うちらもその中のひとつだったし。で、同じことやってもつまんないなって思って、もうちょっと人を集めたいなって思ったときにこのままじゃ無理だろうと思って。

水野 路上の男の子たちは、みんな「モテたい!」っていう顔してるんですよ。ぼくらもたぶん同じ顔をしてたと思うし。それがだんだん恥ずかしくなってきて(笑)。

吉岡 いやらしい感じ(笑)。

水野 それに男子2人だけでやっててもお客さんは女の子しか来ないし。たまたま男女混合のグループがいなかったから、じゃあそういうのやったら男も来るんじゃね?とか、お父さんお母さんも来るんじゃね?とか。

——それはある意味プロデューサー的な発想ですよね。

山下 っていうか、自分らで歌うってことにこだわりがなかったんですよね。やっぱりちゃんと歌える人が歌ったほうがいいだろうって。

水野 非常に単純なんですけど。

——でもそういう話を聞くと、やっぱりいきものがかりは変わったグループだと思います。3人ともアーティストとしてのエゴがいい意味で見えないというか。ギターを弾きまくりたいとか、歌で自分の内面を伝えたいとか、そういう欲求が薄いですよね。

山下 個人個人ではあると思うんですけど、いきものがかりで何をやったら生きるのかっていうのは常に考えてますよね。基本的に男性メンバーが曲も詞も書いてるんですけど、女性目線の詞を書いてる時点で自分の歌ではないわけですし。でもそれに共感してくれる人たちがいるからそれでいいんだろうなって。

水野 作る人間と歌う人間が違うのが、バンドとしてはすごく大きなことだと思うんです。歌がぼくらの人格を離れているから客観的になれるし、この歌はぼくらのためだけじゃなくて聴く人のためにあるんだっていうことがはっきりするんですよね。恋の歌を作っても、それは吉岡の恋を歌ってるわけじゃなくて、聴く人のそれぞれの恋を歌ってることになって。だからよりポップな方向に進んでいくというか。

3rd アルバム『My song Your song』2008年12月24日発売 / 3059円(税込) / Epic Records / ESCL-3146

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CD収録曲
  1. プラネタリウム
  2. 気まぐれロマンティック
  3. ブルーバード
  4. スパイス・マジック
  5. かげぼうし
  6. 帰りたくなったよ
  7. message
  8. Happy Smile Again
  9. くちづけ
  10. 僕はここにいる
  11. プギウギ
  12. 心の花を咲かせよう
  13. 帰りたくなったよ -acoustic version-

いきものがかり

1999年結成。当初は地元・神奈川での路上ライブを中心に活動し、2003年にインディーズで初CDをリリース。2006年に発売したメジャー1stシングル「SAKURA」がスマッシュヒットを記録し全国区の人気を獲得する。2007年3月には1stフルアルバム「桜咲く街物語」を発表。切なくてあたたかい等身大のポップチューンがティーンエイジャーを中心に強い支持を集めている。バンド名は、メンバーの水野と山下が小学1年生のときに「生き物係」だったことから。