ナタリー PowerPush - HUSKING BEE
復活後初アルバム「SOMA」完成 磯部正文が今思うこと
2005年3月6日のZepp Tokyoでのライブをもって唐突な最後を迎えた4人組バンド、HUSKING BEE。その後はCORNERやMARS EURYTHMICS、磯部正文BANDと続いたボーカル&ギター磯部正文の活躍が目立っていたが、7年ぶりの再結成ライブに集結した彼らは「AIR JAM 2012」で正式に活動再開を宣言。スタジオアルバムとしては前作「variandante」から約9年ぶりとなる新作アルバム「SOMA」を完成させた。時代を超えて高らかに鳴る普遍的なメロディと言葉、そして若いリズム隊を迎えた4人編成のバンドによるサウンドは、ここから先どんな物語を紡ぎ出してくれるのか。結成時からの生え抜きメンバーである磯部正文に話を聞いた。
取材・文 / 小野田雄 インタビュー撮影 / 佐藤類
DEVILOCKのオファーを受けて再始動
──昨年の再結成ライブから今回のアルバム完成まで、当事者としてはいろんな思いがあったと思いますが、HUSKING BEE再始動の経緯を教えていただけますか?
数年前から、それこそMARS EURYTHMICSをやってる頃から「HUSKING BEEとして、このイベントに出てもらえないか?」というオファーはいただいていて。そのたびに「それはちょっとできないです」と答えていたんです。その後「音楽を続けようかどうしようか」と悩む過程で、ヒダカ(トオル)さんに相談したら、「あなたにはハスキンの曲が染みついているだろうし、そのときの曲を演奏しないことは、それ以降の音楽活動にも影響があるかもしれない。だから磯部正文BANDというソロ活動のタイミングでハスキンの曲をやってもいいんじゃないか?」という提案をしてもらって。2010年から動き出した磯部正文BANDのサポートとして集まったいろんなバンドの方たちにハスキンの曲を演奏してもらう中で、不思議な感覚をおぼえたんですね。そしてその後起きた3.11の大震災をきっかけに、自分の中で音楽のあり方について考えるようになったり、Hi-STANDARDの再始動や「AIR JAM」の開催だったり。そうやって周りも変化していく中で、また「ハスキンとしてのライブはどうなのか?」っていうオファーもあったりして。実は2011年の「AIR JAM」も、その半年前から「なんとかメンバーを揃えられないか?」という提案もあったんですけど、そのときはメンバーの都合がつかなかったんですね。
──結果として、2011年の「AIR JAM」は、ギターのドンドン(平林一哉)が磯部正文BANDに参加する形でハスキンの曲を演奏されたんですよね。
そうですね。ドンドンにとっては、あのライブがひさしぶりに音楽に触れる機会だったんですけど、リハビリとして、いきなり横浜スタジアムで3万人以上のお客さんを前に演奏するなんて、すごい男だなと思ったりしつつ(笑)。その後、磯部正文BANDに2012年2月の「DEVILOCK NIGHT THE FINAL」へ出演オファーをいただいたんですけど、2011年の年末に遠藤(憲昭 / DEVILOCK主宰)さんが僕のところに直接会いに来て、唐突に「HUSKING BEEとしてやってくれ」って。「そんなこと言われても……」と思いつつ、「ハスキンを観たいという俺の思いはみんなの思いだ」っていう熱いプレゼンを受けて。「それはどうかわからないっすよ」って感じもあったんですけど(笑)、「メンバーを集められるな」っていう予感も同時にあったので、「じゃあ、やります」って返事をしたんです。そのとき同席した事務所の方たちは「この人そんなこと言っちゃってるけど、どうするんだろう?」って思ったみたいなんですけど(笑)。
──はははは(笑)。
そして、そのステージ前後にドンドンやベースのテッキン(工藤哲也)と集まったり、練習をする中で、ひさしぶりの感覚、「そういえば、こんな感じだったな」っていう不思議な感覚をまたしても味わったんですね。それ以前から磯部正文BANDでもハスキンの曲をやらせてもらっていたんですけど、「やっぱりHUSKING BEEっていう名前でやらせてもらうことの責任や大きさはまた違うものがあるんだな」と自分でも改めて思い知ることになったし、「DEVILOCK」の流れの中で、「BAD FOOD STUFF」からも「ハスキンという名前で参加してもらえないか」っていうありがたいオファーをいただいて。4月に東京と仙台でライブをやらせてもらったんです。
──ひさしぶりにHUSKING BEEとしてステージに立った感触はいかがでした?
昨日たまたま「DEVILOCK NIGHT」のライブ映像を観たんですけど、ライブ前日に5分くらいしか寝られなかったのに、終始笑顔で演奏していましたし、すごくよかったんですよね。寝てなかったにもかかわらず声が出ていたし、ワンマンではなくイベントライブだったこともあって、そこまで気負わず、それでいていい感じの気合いを込めつつ、ひさしぶりな感覚を味わいながら演奏することができたんです。さらにその後、ライブを重ねていく中で考えるようになったことはいろいろあって。例えば磯部正文BANDというのはメンバーのスケジュール調整が大変で、そこまで精力的にライブができない状況下にあったので、ハスキンが動くことで、ライブに対する自分のフラストレーションを解消できるんじゃないかなって。それ以外にも、いろんなお客さんに観に来てもらったり、周りの人たちの景気がよくなったり、「周りにいい影響が広がったらいいな」と、あれこれ考えられるようになったことが、ハスキンの本格再始動につながっていったんです。
テッキン脱退と4人バンドの意味
──2010年頃には、横山健さんがライブでハスキンの「WALK」をカバーしたというトピックもありましたよね。
そうなんですね。しかも一時的にカバーしたのかなと思っていたら、今回っているツアーでも「WALK」をガンガンにやってくれているばかりか、こないだ健さんと対バンしたときも同じ日に、僕らと健さんでそれぞれ「WALK」をやりましたからね(笑)。ライブ後に健さんと話したら、「ハスキンは再始動したけど、だからといって、俺が『WALK』をやらないって話でもない気がする」って、うれしいことを言ってくれて(笑)。まあ、あの曲は「健さんプロデュースでアルバム(1997年「GRIP」)を作れるんだ!」っていう気持ちで書いたものなので。
──そういう意味でハスキン再結成は、磯部くんやメンバー間の盛り上がりだけでなく、人とのつながりとかタイミングも大きく影響しているんだと思いました。その一方で、昨年9月の「AIR JAM 2012」ではテッキンの友好的な脱退が発表されましたね。
バンドを前に転がしていくときに、メンバーの音楽観だとか演奏力、キャラや立ち振る舞いだったり、いろんな面が影響するんですけど、それとは別にバンドを運営するにあたって、作品を作ったらこうやってインタビューをやる時間が必要だったり、ライブの前にはリハが必要だったりする。でもなんらかの事情によってライブを削らざるを得ない状況は、バンドにとってすごくもったいないんですよね。でもだからといって、家庭も子供も仕事もあるテッキンに「ハスキンのためにスケジュールを取ってほしい」とは怖くてとても言えないですよ。
──そうですね。
まあ、そういう事情を知らない方の中には「なんでオリジナルメンバーじゃないんだ?」って思う方もいるでしょうから、少しは説明しなきゃなと思いつつ、かつてのハスキンはそういうことをいちいち説明するようなバンドでもなかったですし。ハスキンをやりたい気持ちが再び生まれた自分と、テッキンと一緒にバンドができないジレンマと……そういういろんな気持ちが押し寄せてきたんですけど、自分の原点に立ち返ったとき、「バンドはできるときにどんどんやりたいな」って思ったので、非常に言いにくいことではあったんですけど、思い切ってテッキンにそう伝えたら、テッキンもそのことはわかっていたようでした。
──そしてバンドはベースの岸野一(malegoat)、ドラムの山崎聖之(fam、HARDCORE FANCLUB、The Yasuno N°5 Group)という若い2人を迎えて、6月くらいからアルバムのレコーディングをスタートさせたとか。
そうなんです。2人に声をかけて「やりたいです!」って返事をもらってすぐ、「じゃあ、音を鳴らしてみよう」ってところからすぐに新曲を作ってましたね(笑)。「どんなこと考えてる?」って話し合うより、音を鳴らしたほうが早いですし、鳴れば曲ができますからね。できた曲に関しては、ボーカルの部分では、僕が歌えばハスキンになるし、ドンドンのギターの音色とか若いリズム隊とか、そういう演奏面は多少ニュアンスが変わりますけど、同じバンドでもライブでは音源よりもテンポが速くなることは普通にありますし、そういう変化はバンドならではの楽しみなので、その点はあまり気にしてないですね。以前ドンドンが加入して4人で始動するにあたって、周りからは「なんで4人なの? 3ピースでしょ?」ってかなり言われました。ただ自分の中では3ピースの限界もわかっていたし、楽曲に関してはキーボードが鳴っているイメージもあったので、少なくとも4人、メンバーはもっと増えてもいいんじゃないかって思ってたくらい(笑)。
──5人以上のハスキンはちょっと想像できませんけどね(笑)。
でもそのあと周りの反対を押し切って4人でやったライブを観た人からは「4人で大正解!」って言われたんですよね(笑)。振り返ると、自分が音楽をやりたくて東京に出てきたときもいろんな人から「お前なんて絶対うまくいかない」って言われていましたから(笑)、反対を押し切って実行に移したほうがむしろうまくいくんじゃないかなって。だから新メンバーに関しても、自分の中ではまったく違和感はないですし、最初はあれこれ言われても、数年経てばそれが当たり前になっていくんじゃないかと思ってますね。
収録曲
- Art Of Myself
- Put On Fresh Paint
- Feedback Loop
- Mingle With The Night
- 暖願コントロール
- らせんの夜
- Sun Pillar
- Taking In The View
- 星降る昏い
- Face The Sunflower
- 窓朗夢
- 萌弾タイムス
- Cosmo
HUSKING BEE(はすきんぐびー)
磯部正文(G, Vo)、平林一哉(G, Vo)、岸野一(B, Cho)、山崎聖之(Dr, Cho)による4人組バンド。1994年7月結成。1996年12月に横山健プロデュースで発表した1stアルバム「GRIP」が話題を集め、一躍メロディックパンクシーンを牽引する存在に。フェス出演や海外リリースなどを行いつつ計5枚のアルバムを発表するが、2005年3月に解散。2012年2月に行われたイベント「DEVILOCK NIGHT FINAL」のステージで再結成を果たし、同年9月の「AIR JAM 2012」にて本格的な活動再開を宣言した。2013年2月に9年ぶりのオリジナルアルバム「SOMA」をリリース。