ナタリー PowerPush - Hi-STANDARD

難波章浩&横山健が明かすハイスタとAIR JAM再始動への道のり

「AIR JAM 2011」で力を1つにして被災地に届けたかった

──当初難波さんが考えていた大型フェスは、震災を機に復興支援が目的の「AIR JAM 2011」へと変化したわけですね。

インタビュー風景

難波 そうです。震災があって、僕たち3人の意思がクロスして「よし、一緒にやろう」っていう気持ちになれた。僕たち3人がハイスタをやることで、被災した人たちを元気付けたり、日本全体を覆う暗いムードを食い止めたりできるんじゃないかって気がして。「ハイスタも応援してくれてるし、がんばるぞ」みたいな気持ちになってもらいたいから、「それならせっかくだし『AIR JAM』をやろう」ってことになった。参加してくれたバンドたち、会場に来てくれた人たち、来れなかった人たちみんなのエネルギーを1つにして、それを被災地に届けたかったんです。

──昨年4月26日に「9.18 ハイ・スタンダード AIR JAM。届け!!!」のメッセージと3人の写真が公開されたときのネット上での反響は、強烈なものがありました。

横山 あの日、自宅のパソコンでお昼に3人の写真を投稿してから車で10時間かけて青森まで行ったんですよ。青森に着くまで、僕はネットを全く見てなかったんですけど、ホテルにチェックインしてパソコンを開いたらすごいことになってて。指名手配されたかと思いました(笑)。そのくらいのリアクションがあって、ちょっと怖くなっちゃった。

難波 Hi-STANDARDとして11年間動いてなかったし、正直どれくらいのリアクションがあるのか、みんながどう思ってくれるか、僕らもわかんなかったわけですよ。そこで、自分たちで伝えられるインターネットを通じた告知方法が一番効果があると思って。僕としては健くんとツネ(恒岡章)と一緒にそういうことができたっていうのが最高だった。あのとき、何かが始まったな、って気がしましたね。

──震災後しばらくは電力の問題もあったし、それこそ「こんな時期にライブをするのは不謹慎だ」と言われて、尻込みしてしまうアーティストもいました。そんな中発表された「AIR JAM 2011」開催の情報に勇気付けられたファンも多かったと思います。

横山 不謹慎だって言われるからライブをキャンセルしたり、それでもライブを強行したり、いろんなことに直面しましたね。だけどそれは、僕はいいことだと思うんですよ。そういうときもあっていいと思うし。あの時期、正解というものはなかったと思うんです。みんな自分なりにいろいろ考えてたわけだし、考えたっていうことが大事だったんじゃないかな。

音楽にしか動かせない部分っていうのは絶対にある

──「AIR JAM 2011」は大成功を収めましたね。震災復興支援について考えるきっかけとして、非常に意義のあるフェスだったと思います。

横山 「AIR JAM 2011」に参加したことで復興について考えてくれたら、それは音楽が人を動かしたっていうことになると思うんです。それは胸を張っていいことだと思うんです。僕、常々言ってるんですけど、音楽じゃ電気を作ることはできないし、人の食欲も満たせない。ライフラインとは全く関係がないけど、でもやっぱり音楽にしか動かせない部分っていうのは絶対にあるわけです。

難波 正直、僕らもこれまで音楽で救われてるわけですよ。よく「音楽で何ができるんだ?」「音楽で世の中を変えることができるのか?」って言われてますけど、以前健くんが「音楽は、音楽を聴いてる人を変えるんだよ」って言っていて。それを再確認できたのが、今回の「AIR JAM」だったんじゃないかと思います。

インタビュー風景

横山 僕はHi-STANDARDって特別な音楽をやってるとは思わなくて、その存在感がユニークなんだと思うんです。だって、こんなに自分勝手で生意気で、気まぐれな人たちはいないですよ。それなのに、メンバー3人が揃ったときのパワーがすごいっていう。音楽というより、そこなんじゃないかなって気がしました。

──フェス当日、会場には普段皆さんのライブに来てる若いファンだけじゃなくて、11年前の「AIR JAM」に来てた世代の方々も子連れで参加していたのが印象的でした。

横山 「俺が好きだったバンドを家族に観せるんだ」って言って、「AIR JAM」のチケットを取って家族を連れて音楽の現場に来たってことですよね。

難波 ハイスタが活動し始めた頃って、日本はまだイケイケな状況だったんですよ。「AIR JAM 2011」のステージに立ったとき、ふとその頃の記憶が自分にフラッシュバックした気がして。初めて観た人は「これがハイスタか」って思ったかもしれないけど、当時を体験してる人たちはきっと僕たちと同じようにあの頃の記憶がフラッシュバックしたのかもしれないですね。

横山 音楽ってその人の人生に寄り添うがゆえに、聴けなくなる時期もあるよね。思い出が染み込みすぎて嫌いになることもあるけど、時が経つとまた戻ってくる人もいる。ハイスタって改めていろんな人の人生に寄り添ってたんだなっていうのは感じましたね。

難波 僕らとしては、やっぱり今のハイスタを観せたいっていう気持ちがあるんですけど、観た人にすごくいろんな感情が沸き起こるのは間違いないと思うし、人によっては懐かしんでもらってもいいと思う。そこから「よっしゃ、俺も明日からがんばるぞ」って思ってもらえたらいいんじゃないかな。実際、被災地の人からも「勇気をもらったよ」ってメールがたくさん来たし。いろんなことに負けないで、諦めないで光を探して少しでも前に歩いていく気持ちになってねっていう、本当にそれだけなんですよね。

DVD「Live at AIR JAM 2011」 / 2012年2月22日発売 / 2918円(税込) / PIZZA OF DEATH RECORDS / PZBA-6

  • DVD「Live at AIR JAM 2011」
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CD収録曲
  1. STAY GOLD
  2. MY HEART FEELS SO FREE
  3. SUMMER OF LOVE
  4. CLOSE TO ME
  5. DEAR MY FRIEND
  6. WAIT FOR THE SUN
  7. TEENAGERS ARE ALL ASSHOLES
  8. FIGHTING FISTS, ANGRY SOUL
  9. CAN'T HELP FALLING IN LOVE
  10. STARRY NIGHT
  11. BRAND NEW SUNSET
Hi-STANDARD(はいすたんだーど)

難波章浩(Vo, B)、横山健(G, Vo)、恒岡章(Dr)からなるパンクロックバンド。1991年から活動を開始し、都内を中心にライブ活動を展開。1994年にミニアルバム「LAST OF SUNNY DAY」をリリースし、知名度を高める。1995年に「GROWING UP」、1997年には「ANGRY FIST」という2枚のフルアルバムをメジャーレーベルから発表。これらの作品は海外でもリリースされ、好セールスを記録した。また、この時期から海外でのライブ活動も開始。1997年には主催フェス「AIR JAM」をスタートさせ、日本のパンクロックシーンに大きな影響を与えた。1999年に自主レーベル「PIZZA OF DEATH RECORDS」がメジャーから独立し、第1弾作品としてアルバム「MAKING THE ROAD」をリリース。本作はインディーズとしては当時異例のミリオンヒットを達成した。その後も国内外で精力的なライブ活動を続けたが、2000年の「AIR JAM 2000」を最後に活動休止。メンバーはそれぞれソロやバンドで音楽活動を続けた。

約11年におよぶ空白の時間を経て、2011年4月に難波、横山、恒岡がTwitter上で3人同時に「9.18 ハイ・スタンダード AIR JAM。届け!!!」とツイート。そして翌5月には、9月18日に横浜スタジアムで東日本大震災の復興支援を目的とした「AIR JAM 2011」の開催と、Hi-STANDARDがライブを行うことが明らかになる。国内外15組のアーティストが出演したこのフェスで、ハイスタはヘッドライナーとして11年ぶりにライブを敢行した。2012年2月にはこの日のライブを完全収録したライブDVD「Live at AIR JAM 2011」をリリース。同年秋には東北で「AIR JAM」を開催することも発表されている。