音楽ナタリー Power Push - 畠山美由紀

歌い続けることでたどり着いた新たな境地

潮騒のように湧き起こった拍手

──もう1つ、畠山さんの今につながる大きな出来事として、2011年に起きた東日本大震災は決して外せないものですよね。畠山さんは宮城の気仙沼市が故郷ということもあって、震災後、東北へ度々足を運んでライブを続けています。

畠山の地元、気仙沼のジャズ喫茶ヴァンガードでのライブの様子。

最初は自分の出身小学校に行ったんです。そこでは「上を向いて歩こう」や「浜辺のうた」などの唱歌を歌ったんですけど、そしたら、一緒に歌おうと言っていないのに大合唱になったんですよ。みんなの歌声が講堂内に響いて、ものすごい一体感で。そういうライブの経験は初めてでした。

──ずっと語り継がれてきた歌が持っている力を感じた。

はい。やっぱりどうしても、欲として、うまく歌いたいとか、いい歌を歌いたいというのは変わらずあるんですよ。それが使命だとも思うし。だけど「自分の表現」ということではなくて、みんなで歌を共有して心を癒すことだとか、歌が持つパワーや意味みたいなものを、震災のとき、ひしひしと感じたんですよね。歌というのは、みんなで歌うんだよなって。

──故郷への思いが歌となった楽曲「わが美しき故郷」はどう変化していますか?

不思議なんですけど、震災から時間が経てば経つほど、年々いろんなことを思い出すんですよ。自分の中でいろんな思いが増えていくのかな。そういえば、先日もライブのリハーサルで「わが美しき故郷よ」を歌ってて、私、大泣きしちゃったんですよ(笑)。

──歌を通して共有してきたいろんな人たちの思いが歌の中に入るのかもしれませんね。

全国のいろんな場所にあの歌を歌いに行くでしょ? そうすると、そこにいるお客さんたちにいつも聞いてみたくなるんです。「あなたはどこで生まれて、どういうふうに育ったの?」と。

──さて、この7月にソロデビュー15周年記念として、東京ニューシティ管弦楽団とのコンサートが開催されます。オーケストラと共にフルコンサートをするというのは、これまでさまざまな形でライブを重ねてきた畠山さんにとっても初の試みですね。

もちろんそうです。でも1曲だけはあるんですよ。2012年10月に、NHKの「歌謡チャリティコンサート」という番組で、「わが美しき故郷よ」を札幌交響楽団の演奏と共に歌ったんです。中島ノブユキさんがアレンジをしてくれたんですけど、その演奏が本当に美しくて。

──オーケストラをバックに歌ったときの高揚感はすごかったのではないですか?

緊張しましたね。でもすごく感動的だったのが、曲間で拍手が起こったんですよ。その番組はいろんな歌手の方との共演だったし、私の歌を聴きに来たという人はほとんどいなかったと思うんです。そういうお客さんたちが、1番を聴いて、2番に行く曲間に自然に拍手をしてくれた。本当にびっくりしたんですよ。自分の心の景色に共鳴してくれたような拍手が潮騒のように湧き上がって会場中に広がっていったんです。それはそれはとても感動的で、本当にありがたくて思わず泣いてしまいそうでした。

──そのとき歌い手として、オーケストラと共に歌うということに対して何か手応えはありましたか?

1曲だけだったので何かをつかんだというのは難しいのですが、そのとき思ったのは、自分がどんどん歌っていかないとオーケストラの演奏に引っ張られちゃうなということでした。この歌にはどんなエモーションが流れているのか、どんなグルーヴやテンポ感にしたいのかを、自分の中で出していく必要があると思ったんです。だから、今度の東京ニューシティ管弦楽団とのコンサートには、私の歌を深く理解してくれているバンドメンバーにも参加してもらうことになって。彼らとしっかりリハーサルをして臨みたいと思っています。

──Port of Notesのときから信頼の厚い中島ノブユキさん(Piano)、鈴木正人さん(B)、Double Famousのメンバーで長年の付き合いでもある栗原務さん(Dr)、そしてソロになってから大きな力となってくれている笹子重治さん(G)、と、これまでも畠山さんと関わりの深いバンドメンバーですね。信頼関係も強い。

心強いですね。今回は、自分の曲はもちろん、カバー曲も織り交ぜて披露する予定なんですけど、全曲オーケストラのアレンジを中島さんが手がけてくれていて。それも本当に素晴らしいんですよ。

東京ニューシティ管弦楽団

──なんと言っても、オーケストラとバンド、総勢55人がステージにいる絵というのはそれだけで圧巻ですよね。

あまりにもすごすぎて、言葉が付いていかなくて。お客さんにとってもオーケストラの演奏を生で聴くこと自体、なかなかないことだと思うんです。

──多くの人にとって初めての音楽体験となるんじゃないかと思います。そしてこういうことにトライできるのも、畠山さんがこれまでさまざまなライブを通じて歌うことの意味を積み重ねてきたからこそですよね。

東京ニューシティ管弦楽団の皆さんが私の歌と一緒に演奏したいと思ってくださったこと、そして、自分で書いた曲が中島さんのアレンジでオーケストレーションになるということ。作ったときには思いもよらなかったことですが、必ず素晴らしいものになると信じています。私自身、この日、起きることをとても楽しみにしているんです。

畠山美由紀 メモリアル・シンフォニック・コンサート 2016 with 東京ニューシティ管弦楽団

畠山美由紀

2016年7月30日(土)東京都 練馬文化センター 大ホール

出演者

畠山美由紀 / 中島ノブユキ / 笹子重治 / 鈴木正人(Little Creatures) / 栗原務(Little Creatures、 Double Famous) / 東京ニューシティ管弦楽団 / 鈴木織衛(指揮)

畠山美由紀(ハタケヤマミユキ)

畠山美由紀

男女ユニット・Port of Notes、エキゾ系楽団・Double Famousのボーカリストとして活動しながら、2001年、シングル「輝く月が照らす夜」でソロデビュー。2011年3月、東日本大震災で被害を受けた故郷・気仙沼を思い「わが美しき故郷よ」と題した詩を雑誌、自身のブログにて発表。その詩は被災した人たちだけでなく、故郷を持つ全国の人々の心に届き、話題に。2013年6月、中島ノブユキをプロデューサーに迎え、アルバム「rain falls」をリリース。同年11月、日本製紙クリネックススタジアム宮城にて開催された「コナミ日本シリーズ2013」にて国歌斉唱を担当した。2014年9月3日、演歌や歌謡曲をカバーしたアルバム 「歌で逢いましょう」を発表。2016年7月30日に、ソロデビュー15周年を記念したコンサート「畠山美由紀 メモリアル・シンフォニック・コンサート 2016 with 東京ニューシティ管弦楽団」を東京・練馬文化センターにて実施する。