音楽ナタリー Power Push - 畠山美由紀

歌い続けることでたどり着いた新たな境地

畠山美由紀がソロデビュー15周年を記念したコンサート「畠山美由紀 メモリアル・シンフォニック・コンサート 2016 with 東京ニューシティ管弦楽団」を、7月30日に東京・練馬文化センターにて開催する。

自らがボーカリストを務めるPort of NotesやDouble Famousといったグループでの活動と並行させるかたちで、2001年にソロシンガーとしてのキャリアをスタートさせた畠山。以降彼女はさまざまなアーティストと共演を重ね、持ち前の表現力豊かな歌声に磨きをかけ、多くのリスナーを魅了してきた。音楽ナタリーでは15周年コンサートに先駆けてインタビューを実施。畠山にソロデビューからの15年を振り返ってもらいつつ、歌への真摯な思いをじっくりと語ってもらった。

取材・文 / 川口美保 ポートレイト撮影 / 須田卓馬

ディテールにこそ宿るものがある

畠山美由紀

──ソロデビュー15周年、おめでとうございます。

ありがとうございます。皆さんの支えがあってこそ、ですね。

──振り返ってみると、この15年、畠山さんはシンガーとしてさまざまな音楽家たちとさまざまな形でライブを重ねてきました。

そうですね。本当にいろんなことにトライさせてもらっています。

──その1つがソロデビュー2年目から毎年続けているキリスト品川教会 グローリア・チャペルでの「教会ライブ」だと思うんです。今や多くのアーティストが教会ライブをやっていますが、畠山さんはその先駆けでもありました。教会でのライブは、クラブやライブハウスとは違って、歌の表情がより繊細に伝わってくる印象があります。

教会ライブ「LIVE “Fragile”」の様子。

だから試されているような感じもするし、ちょっとした声の響きで雰囲気が変わってしまうので、最初は怖かったですね。その後、「3 different tones」という企画で、小沼ようすけさん、福原将宣さん、笹子重治さんといった3人のギタリストとデュオで弾き語りのライブをやったんですけど、それも教会で歌ったときの響き、歌声の細部の透明感やニュアンス感をより表現したいという思いから出てきた企画だったんです。

──音が少ない編成でライブをやることへの興味が湧いてきたと。

はい。というのも、私は声のディテールがすごく好きなんですよね。そこに宿したいものがあるんです。

──細部にこそ何かが宿るんだ、という。

私は絶対そうだと思っているんですよね。

歌は誰とでも作れるものではない

──ソロになってから多くのミュージシャンとの出会いがあったと思いますが、笹子重治さんは畠山さんにとってどんな存在ですか? 今や畠山さんのライブやレコーディングでは欠かせない存在となった感がありますが。

笹子さんは音楽的なことだけではなくて、日常的なことも尊敬できる人。知性的な方で、私のやりたいことを理解しようとしてくださるんです。一緒にものを作っていく姿勢というか、「こうしたいのかな?」と思いを寄せてくれる感じは、本当にありがたいんですよね。共に歩み寄り、作りあげていく喜びが笹子さんとの作業にはあって、笹子さんによって引き出されたものは大きいです。

──ライブでも、笹子さんのギターが奏でられると、瞬間、そのギターの音色に恋に落ちるように畠山さんが歌に入り込んでいくのがわかります。

本当にそうなんですよ。音色に導かれるというか……。東日本大震災のあとに作った「わが美しき故郷よ」、あの曲の完成は笹子さんによって支えられた部分が大いにあると思います。曲って誰とでも作れるわけではないんですよね。そういう意味ではPort Of Notesの小島大介くんが私にとっては、すごく大きな存在で。曲作りにおいて一番のパートナーだと思っています。私が名付けた「大ちゃんのコード(和音)の森」の中にある道=メロディを探しあてて行くときの感動と神秘はほかにはありません。私はすごく恵まれてるなと思うんです。彼と出会えたことによって曲を書きはじめたようなものですから。

ジェシー・ハリスと畠山美由紀。

──2007年にはジェシー・ハリスをプロデューサーに迎えてアルバム「Summer Clouds, Summer Rain」を制作しています。ジェシーとの出会いも、自分の歌のニュアンスを考えるきっかけになったそうですね。

ジェシーとのレコーディングは究極、「歌わないでいいから」ということでしたからね。「息だけでいいから」って(笑)。

──レコーディングで声を張ることを禁止されたという。

私の声の魅力を引き出したかったんだろうなと思うんですけど、最初は「こんなに囁く感じでいいんだ!」 ってびっくりしました。でも私自身、実は自分の囁き声がずっと好きだったんですよ(笑)。だからそこを引き出してくれてすごくうれしかった。

──それまでは、囁き声は好きだったけれど、それを自分の歌としては考えてなかったということですか?

歌って、やっぱりバーブラ・ストライサンドみたいに、圧倒的な歌唱力で魅せるシンガーこそ素晴らしいと思われているところがあるじゃないですか。だから弱音の歌唱法で歌うチャンスがその頃あんまりなかったんですね。私自身、そんな技術もなかったし。実は小さい声で歌うほうが難しい場合もあると思うんですよ。ものすごく息の量がいるし、それをコントロールしてピッチを保つのは、大きな声で歌うより何倍も難しいこともある。それはあくまでも、私にとってはということですが。レコーディングだからできたという感じがします。

──しかしそれをやったことで、ライブでもその歌唱法が身に付いていったんですね。

なんかね、ジェシーとのレコーディングによって、声量に対する考え方がちょっとわかったんです。単に小さい声で歌うだけじゃないんだなというか、技術的なことにすごく気付かせてもらったんですよ。その経験が、今の歌い方にも生きていると思います。

畠山美由紀 with ASA-CHANG&ブルーハッツ

──同じく2007年にはASA-CHANG&ブルーハッツという16人編成のビッグバンドにボーカリストとして参加していますが、振り幅がすごいですね。

ブルーハッツでの歌は張り上げる感じで歌うもので、ジェシーとのアルバムとはまた全然違う歌唱なんですよ。

──短期間の間にいろいろなミュージシャンと出会い、チャレンジしがいのあることにどんどんトライしている印象ですね。

ホントですね。それこそ、ソロシンガーだからこそできることだなと思います。

畠山美由紀 メモリアル・シンフォニック・コンサート 2016 with 東京ニューシティ管弦楽団

畠山美由紀

2016年7月30日(土)東京都 練馬文化センター 大ホール

出演者

畠山美由紀 / 中島ノブユキ / 笹子重治 / 鈴木正人(Little Creatures) / 栗原務(Little Creatures、 Double Famous) / 東京ニューシティ管弦楽団 / 鈴木織衛(指揮)

畠山美由紀(ハタケヤマミユキ)

畠山美由紀

男女ユニット・Port of Notes、エキゾ系楽団・Double Famousのボーカリストとして活動しながら、2001年、シングル「輝く月が照らす夜」でソロデビュー。2011年3月、東日本大震災で被害を受けた故郷・気仙沼を思い「わが美しき故郷よ」と題した詩を雑誌、自身のブログにて発表。その詩は被災した人たちだけでなく、故郷を持つ全国の人々の心に届き、話題に。2013年6月、中島ノブユキをプロデューサーに迎え、アルバム「rain falls」をリリース。同年11月、日本製紙クリネックススタジアム宮城にて開催された「コナミ日本シリーズ2013」にて国歌斉唱を担当した。2014年9月3日、演歌や歌謡曲をカバーしたアルバム 「歌で逢いましょう」を発表。2016年7月30日に、ソロデビュー15周年を記念したコンサート「畠山美由紀 メモリアル・シンフォニック・コンサート 2016 with 東京ニューシティ管弦楽団」を東京・練馬文化センターにて実施する。