ゴスペラーズ|18年の進化を歌声に乗せて……コロナ禍で切り拓いたアカペラの新境地

メジャーデビュー27年目のゴスペラーズが18年ぶりにアカペラ曲のみで構成されたニューアルバム「アカペラ2」をリリースした。

本作には「I Want You」や「INFINITY」など、先立って5カ月連続でリリースした配信曲を含む13曲を収録。ぴったりと息の合った精緻なハーモニーを聴かせる「ハーモニオン」のような楽曲があるかと思えば、5人の個性が荒々しくぶつかり合う「VOXers」のような“喧嘩アカペラ”もあり、四半世紀にもわたって第一線でアカペラを披露してきた彼らの矜持がひしひしと伝わってくる。松原ヒロやとおるす、植松陽介といった、ゴスペラーズの音楽に少なからず影響されたアーティストが多数参加し、本作に絶妙なスパイスをちりばめているのも聴きどころの1つと言えよう。なお、初回限定盤には過去のアカペラ曲を厳選したディスク「アカペラクロニクル」が同梱されており、アカペラグループとしての彼らの歴史をたどることができる。

「アカペラ2」に収録されたほとんどの曲を、コロナ禍の中で制作したというゴスペラーズ。その思いはいったいどのようなものだったのだろうか。村上てつやと北山陽一に話を聞いた。

取材・文 / 黒田隆憲

グループの精神衛生を保った手洗い動画

村上てつや

──ナタリーとしては、およそ1年ぶりのインタビューとなります。その間、新型コロナウイルスが世界中に広がり、ゴスペラーズの活動にも大きな影響をおよぼしたと思うのですが、お二人はどのような思いでいましたか?

村上てつや ゴスペラーズはアニバーサリーのタイミングに全国都道府県ツアーをやっているのですが、メジャーデビュー25周年を迎えた去年はそれを完遂できなかったことがとにかく悔しかったです。観られなかったファンの方に悲しい思いをさせたのはもちろんなのですが、ツアー前半で観られたファンの方たちにも「後ろめたい」というような気持ちにさせてしまって。素直に喜べないような状況が生まれてしまったのもつらかったんですよね。

──それは確かにつらいですね。

村上 今回のアカペラアルバムも、本来はツアーをしながらスタジオに入って録っていく予定だったんですよ。ところがそれも、緊急事態宣言の発出によってツアーはもちろん、スタジオでの作業もままならなくなってしまって。スケジュールがぽっかり空いてしまったんですよね。そんな中、僕らとしては少しでも意味のあることをしたくて「ゴスペラーズの手洗い動画」というものにチャレンジしました。

──メンバーそれぞれが一人多重録音でアカペラソングを制作し、それをアップするというものでしたね(参照:「手洗いにハーモニーを」ゴスペラーズがSNSで手洗いソング公開、第1弾は安岡優)。

村上 ええ。それにより、コロナに対して個人ができるもっとも効果的な“手洗い”を、僕らのファンに強いメッセージとして届けられたのはよかったのかなと思っています。グループの精神衛生を保つという意味でも機能した部分はきっとあっただろうし。まあ、中には編集作業に凝りすぎて疲れが溜まったメンバーや、わざわざグリーンバックを導入したメンバーも……。

北山陽一 どうやらいたみたいですね。

──(笑)。北山さんはどうでしたか?

北山 最初の頃は「部屋を片付ける時間がこんなにできてよかったなあ」くらいに思っていました。でも、いつまで経っても終わらないので掃除にも飽きて(笑)。外に出て自由に活動ができない、ファンの人たちに音楽を届けられないということへのフラストレーションが、とにかく溜まっていく一方でしたね。そんな中、自分たちでできる範囲のことをやろうと思って、例えばリーダーも言った手洗い動画を作ってみることで、いろんな気付きがありました。

──それは、例えばどんな気付きだったのでしょうか。

北山 僕らの創作活動を支えてくれているスタッフの方たち、デザイナーさんやミュージックビデオの監督さん、カメラマンさんや照明さん……そういう人たちの、プロの技のすごさを身をもって感じることができました。普段、当たり前だと思っていたことが、当たり前ではなくなったことで気付くことが山ほどありましたね。もちろんそれは、医療従事者の方々やインフラを支えている方々への感謝の気持ちもそうです。

──その一方で、極限状態になったときに出てくる人間の本性みたいなものに、鬱々とした気持ちになることも多かったですよね。「アカペラ2」には、そういった思いがにじみ出るような歌詞もいくつかあります。

村上 おっしゃるように2020年は、ポジティブな部分もネガティブな部分も、すべて剥き出しになってしまった1年だったと思います。僕らゴスペラーズは、歌詞において何か鋭利なメッセージ性を打ち出すようなグループではそもそもなかったのですが、今回のアルバムでは若干そういう要素も入ってきてしまいました。今回は「集まれない」という、アカペラのアルバムを作るうえでは非常に厳しい環境ではあったのですが、暗闇の中をもがきながら一筋の光を見つけ出し、そこに向かって声を放つみたいな気持ちで作っていましたね。

後進たちからの「アカペラの恩返し」

──アルバムの中で、音楽的に攻めているなと思ったのはやはり「VOXers」でした。この曲こそ、ゴスペラーズがアイデンティティとしている「喧嘩アカペラ」を体現していますよね。特にサビの部分の、ちょっとでもバランスを欠いたら破綻してしまいそうなハーモニーに、終始ドキドキしっぱなしでした。

村上 ありがとうございます。あの曲は「侍ゴスペラーズ」という楽曲の発展形のような、ずっと自分たちの自己紹介をしているだけの歌詞ですが(笑)、おっしゃるように“合わせるところ”と“合わせないところ”のバランスが絶妙で。アカペラとして、1つの完成形にたどり着いたと自負している曲でもありますね。しかも、そういう熱量のある楽曲は聴いている人たちに対してなんらかの形で影響を与えているかもしれない。以前、メンバーみんなで北海道のサウナに行ったとき、イカついお兄ちゃんから「僕、『侍ゴスペラーズ』のファンで、あれを聴いているとゴスペラーズの一員になったような気分を味わえるんです」と言ってもらったことがあって。すごくうれしかったし、「VOXers」もそういう楽曲にしたいなあと強く思いました。

──前作の「アカペラ」と比べると、今作にはどのような違いがありますか?

北山陽一

村上 ゴスペラーズ以外の作家陣に恵まれたのは大きいですね。これは、前作から18年4カ月経っての進歩の1つだと思います。ありがたいことに、僕らはデビューしてから何曲かヒットを飛ばすことができて、そこで僕らのアカペラに触れた人たちがアーティストとしてしっかり育ち、このアルバムで助けてくれた。これはもう、ゴスペラーズを長くやってこれたからこその体験だなと。

北山 「アカペラの恩返し」的な話ですね(笑)。

村上 今回、「I Want You」の作編曲、「誰かのシャツ」の共作を手がけてくれたアカペラクリエーターのとおるすくんや、「INFINITY」「雨あがり」などで参加してくれた、Nagie Laneというアカペラグループをやっている松原ヒロくん、「インターバル」の作詞作曲を担当している植松陽介くんなど、自分たちよりも下の年代の人たちが、いい意味でゴスペラーズを「こんなふうに料理してやろう」と思ってくれて。その人たちのテイストが混じり合ったことで、僕らの心持ちもサウンドも、随分フレッシュさを保てた気がする。僕らがずっとやってきた活動が報われた部分でもありました。

置かれている状況から影響されないわけにはいかない

──村上さんが作詞を手がけた「I Want You」には、どんな気持ちを込めましたか?

村上 この曲はストレートなラブソングに聞こえるかもしれないですが、実はそうではなくて。歌い出しの部分はコロナ禍が始まってすぐの頃、人がまったくいない中国・武漢の街をある映像作家が撮影してて、その動画が世界中に出回ったときに感じたことを、ギュッとまとめて歌詞にしているんです。聴いた人はそう言われて歌詞を読み返してみてもピンとこないかもしれないのですが。こういう状況下で歌詞を書いていると、今自分たちが置かれている状況からまったく影響されないわけにはいかないんですよね。

──確かに、「2人だけの未来地図を描こう」というフレーズは、「先の見えない世界でともに生きていこう」というメッセージにも取れます。

村上 例えば「大切な人のことを考えよう」という言葉も、コロナ以前と以降とでは意味合いがまったく違うものになりましたよね。もちろん、この曲をシンプルなラブソングとして受け止めてもらっても別にいいのだけど。