音楽ナタリー Power Push - 藤井隆×西寺郷太(NONA REEVES)対談

11年越しの音楽愛

藤井隆がおよそ11年ぶりとなるオリジナルアルバム「Coffee Bar Cowboy」を6月17日にリリースする。

芸人として広く愛される存在ながら、歌手としても人気を集め、アーティストからもその才能を高く評価されている藤井。音楽活動がストップしている間も“アーティスト藤井隆”の復帰を望む声は多く、藤井自身もまた音楽への思いを募らせていた。2013年に音楽活動再開を果たすと、その勢いは活性化。彼の音楽に共鳴した西寺郷太(NONA REEVES)の協力のもと、セルフプロデュースによるフルアルバムを制作するに至った。

音楽ナタリーではアルバムリリースを記念して、藤井と西寺の対談をセッティング。アルバム制作の経緯とあふれる音楽愛をたっぷりと語り合ってもらった。

取材・文 / 臼杵成晃 撮影 / 北村勇祐

「タマフル」がきっかけで再び急接近

左から、藤井隆、西寺郷太。

西寺郷太 アルバム発売決定のニュース、すごく話題になってましたよね(参照:藤井隆11年ぶりオリジナルアルバムに西寺郷太、乙葉、宇多丸、トーフら)。記事のリツイート数もすごいし、僕のツイートへの反応もすごく多かった。

──“アーティスト藤井隆”の活動を待ち望む人がそれだけ多かったんだと思うんですよ。まずは2013年にシングル「She is my new town / I just want to hold you」が発売されて(参照:藤井隆6年ぶりシングルPVで名作サンリオ映画フィーチャー)、ナタリーではこのタイミングで「お笑いナタリー」だけでなく、音楽ナタリーで“アーティスト”として扱うようになりました。このページで見ると2013年からの音楽活動のニュース履歴がたどれます。

藤井隆 わあ、そういうふうにして見られるんですね。すごい。

西寺 (過去のニュース一覧を見ながら)ああ、なるほどなるほど。その2013年のシングルのとき、宇多丸(RHYMESTER)さんがラジオ(TBSラジオ「ライムスター宇多丸のウィークエンド・シャッフル」。通称“タマフル”)で藤井さんの音楽特集をやって、そこで僕の名前を出してくれて。

──あれが今回のアルバムのスタート地点とも言えますね。

西寺 それ以前から、藤井さんは自分のラジオ番組でNONA REEVESの曲をガンガンかけてくれてたり、ライブに来てくれたりしていて交流はあったんですよ。でも藤井さんがしばらく音楽から遠ざかっている時期があって、僕も宇多丸さんと同じでもったいないなあと思ってたんです。そしてあの「タマフル」の藤井さん特集で、宇多丸さんが「郷太くんと一緒にやったら面白いんじゃない?」と言ってくれたことがきっかけで、また連絡を取り合うようになって。

──「タマフル」の特集も大きな話題になりましたよね。藤井さん自身はこんなに音楽への情熱を持っているんだなと。急接近どころか、アイドルユニットSmall Boys(西寺“ニッシ”郷太と堂島“こぅくん”孝平によるユニット。のちに藤井“タッチ”隆が正式加入しSmalll Boysと改名。略称スモボ)の一員として一緒に活動するまでに。

西寺 「一緒に音楽やりましょう」と盛り上がった言葉を真に受けて……ちょうどSmall Boysでとあるアイドルに歌ってもらう予定だった男前な曲をレコーディングしていて、堂島と「この曲どうする?」って話し合っているうちに「藤井さん入れて3人で歌うといいんちゃう?」って話になって。ダメもとで事務所に連絡してみたらOKをもらったんです。

まずはタイトルから

──2013年後半にはSmall Boysがあり、「Like a Record round! round! round!」(藤井隆、レイザーラモンRG、椿鬼奴による洋楽カラオケイベントおよびそこから派生したユニット)の動きも活発になり、2014年にはtofubeatsさんとのコラボ「ディスコの神様」(2014年4月に発売されたtofubeatsのメジャー2ndシングル)があり。このあたりから一気に藤井さんの音楽活動が活発になりましたね。

藤井隆

藤井 2014年の1月にスモボのリリースイベントに呼んでもらったのが、すごく楽しくて。家族も観に来たりして、お祭り騒ぎやったんですよ。1人でコンサートをやって0番(ステージ床に設置された立ち位置を表す目印。0番はセンターポジションを指す)に立つことはあっても、グループでの立ち回りはすごく新鮮で。振り付けの決まってないフリーのパートはどうするとか、ワイヤードマイクのときはどう移動するとか、いちいち新鮮だったんですよ。Like a Recordは3人それぞれって感じなんで。こういうこと言うのは恥ずかしいけど、自分は音楽をやるのが本当に好きなんだなって思ったんです。Like a Recordで気付いて、スモボで確信に変わった。

西寺 そんな中でもやっぱり“藤井隆ソロ”は近いうちに必ず、という思いがあって。ミーティングも進めてたんだけど、藤井さんも複数の舞台で忙しかったし、僕も目の前の仕事が山ほどあって、なかなか進まなかった。そんな中、藤井さんがまた「タマフル」に出る機会が去年の秋にあって。そのときに「今度『Coffee Bar Cowboy』ってアルバムを出します」って彼が決めてたタイトルまで言ってしまったんですよ(笑)。

藤井 普通そんなことしないですよって言われました(笑)。「情報解禁は普通シビアにやるのに、何を勝手に話してるんですか。1曲もできてないのに」って。

──曲を作る前にアルバムタイトルを決めてたんですか?

藤井 はい。郷太さんから「先にタイトルを考えると楽しいですよ」ってアドバイスをもらって。郷太さんは自分がプロデュースするんじゃなく、僕自身がプロデュースを手がけたほうがいいとおっしゃるけど、アルバムをどう作っていいのかなんてわかんないでしょ? そんで「どうしたらいいんですか」って相談したら「まずはアルバムと曲のタイトルを決めましょう」って。そこで急にカチャッとスイッチが入ったんですね。2014年の春ぐらい。

西寺郷太

西寺 最後の最後に結局「共同プロデュース」という形になりましたけど、藤井さんのビジョンを邪魔したくないという気持ちが僕にはあって。なんと言っても、11年ぶりですしね。思いも熱いし。藤井さんが本当にやりたいことを優先して、そっちに行ったらコケそうだな、いや実際コケても地面すれすれのときにだけギリギリで「手をついてクルッと回転したらケガしないですよ!」って助言するような、後ろから付いていくぐらいのほうがいい作品になる、という確信があったから。

──それってすごいことですよね。藤井さんはあくまで本業は芸人なのに、音楽家である西寺さんにセンスを委ねられるというのは。しかも作詞のみならず作曲までも藤井さんに委ねるという。

西寺 初めは僕が整理係をやればいいと思ったんですよ。藤井さんが理想とする作家を挙げてくれたら、僕が掛け合って整理すればいいと。藤井さんの発表してきた音楽はある種の理想郷だから、彼がやりたいと言えば、世の中のミュージシャンや作家はほぼ全員動くと今も信じてます。だから最初の僕のイメージとしては「あらゆる作家が集まった豪華なアルバム」だったんですけど、彼の意志を尊重したらだんだんストイックな方向になっていって。

ニューアルバム「Coffee Bar Cowboy」 / 2015年6月17日発売 / SLENDERIE RECORD
[CD] 2500円 / YRCN-95247
収録曲
  1. YOU OWE ME 作詞:藤井隆・西寺郷太 / 作曲:藤井隆 / 編曲:冨田謙
  2. Quiet Dance feat. 宇多丸 作詞:藤井隆、宇多丸(RHYMESTER) / 作曲:藤井隆 / 編曲:冨田謙
  3. I just want to hold you(RAM RIDER remix) 作詞・作曲:松田聖子 / 編曲:RAM RIDER
  4. driving me crazy 作詞・作曲:藤井隆 / 編曲:冨田謙
  5. make over feat. 乙葉 作詞 : YOU / 作曲 : 藤井隆 / 編曲:冨田謙
  6. SAVE ONESELF 作詞:西寺郷太、藤井隆 / 作曲・編曲:西寺郷太
  7. discOball 作詞:藤井隆 / 作曲:藤井隆、西寺郷太 / 編曲:冨田謙
  8. She is my new town(tofubeats west-kobe remix) 作詞・作曲:松田聖子 / 編曲:tofubeats
  9. I'M IN with YOU 作詞・作曲・編曲:西寺郷太
  10. I OWE YOU NOTHING with 西寺郷太 作詞・作曲:ニッキー・グラハム、トム・ワトキンス / 編曲:冨田謙
藤井隆(フジイタカシ)

藤井隆

1972年3月10日生まれ。1992年に吉本新喜劇オーディションを経て、お笑い芸人として吉本興業入り。2000年にシングル「ナンダカンダ」で歌手デビューし、同年「NHK紅白歌合戦」に初出場する。数々のシングルのほか、2002年発売のアルバム「ロミオ道行」、2004年発売のアルバム「オール バイ マイセルフ」などで高い評価を得ながらも、2007年8月発売のシングル「真夏の夜の夢」以降はしばらくアーティストとしての活動を休止。2013年6月にニューシングル「She is my new town / I just want to hold you」で6年ぶりに個人としてアーティスト活動を再開した。その後はさまざまなアーティストとのコラボレーションも展開し、2015年6月におよそ11年ぶりとなるオリジナルアルバム「Coffee Bar Cowboy」をリリース。

西寺郷太(ニシデラゴウタ)

1973年11月27日生まれ。小学生の頃からマイケル・ジャクソンやPrince、Wham!などの洋楽に心酔し、独学で作詞・作曲を始める。1995年にNONA REEVESを結成し、1997年11月にシングル「GOLF ep.」でメジャーデビュー。初期はギターポップ色の強い楽曲を得意としていたが、1999年12月発売のメジャー2ndアルバム「FRIDAY NIGHT」を機にディスコ / ソウル色の強いサウンドを追求し始める。NONA REEVESとしてコンスタントに作品をリリースしながら、ソングライター / 音楽プロデューサーとしても活躍し、SMAP、V6、土岐麻子、bump.y、Negicco、岡村靖幸、花澤香菜、吉田凜音ほか多数のアーティストへの楽曲提供やプロデュースを手がけている。またマイケル・ジャクソンやWham!への深い造詣から評論、執筆の機会も多く、「新しい『マイケル・ジャクソン』の教科書」「マイケル・ジャクソン」「噂のメロディ・メイカー」といった著書も上梓している。