今も昔も身の丈以上のことを歌おうと思ってない

──曲作りについてもお聞きしたいんですが、アンティノス時代とインディーズ以降で変わったところはありましたか？

鈴木　そこは変わんなくて、基本ラインはずっと一緒かなぁ。身の丈以上のことを歌おうと思ってないし、「こういう曲を歌わなきゃいけないんだろうな」という義務感も特に感じないし。

──メジャー初期のフラカンにはB級感というか、ちょっとチープなイメージがあったと思うんです。でも、インディーズ以降はもうちょっとシリアスというか本気度が高い感じがして。そこのイメージの違いは、曲作りに対する姿勢の変化によるものではないんでしょうか？

マエカワ　曲の違いもあると思いますけどね。アンティノス時代の中盤までは、あまり人がやってない方向で売れてやろうとか、こういう曲が売れたらちょっと面白いぞみたいな考えはあったかな。

鈴木　コンプレックスも強かったから、カッコいい人がやってるカッコいいロックみたいなものに対するアンチのポジションだったんですよ。出だしがそうだったから、そのポジションを保たなきゃっていう使命感が強くて、そこに自分を落とし込もうとしてて。でも、今はそれがなくなっちゃったんです。

マエカワ　それはもうおまけにしとこうっていう。

鈴木　あと、そういうこと考えてる余裕がなくなっちゃったというのもあるかな。こういうふうに見せたいとか、もうそんな手段を使ってる状況ではないぞっていう。ライブのスケジュールで忙しくて手一杯になってくると、企みみたいなものがどんどん削除されていくんですよ。

マエカワ　トラッシュ以降は、「この曲聴いて僕の歌だと思いました」「私の曲だと思いました」みたいな意見をよく聞くんです。そう受け取られるのはいいことだと思うんですけど、何が変わったのかはメンバーもわからない。曲の作り方は明らかに変わってないし。

鈴木　変えようと思ってたわけでもないしなぁ。

マエカワ　ただ、メンバーに「くる」「響く」歌詞が前よりも多くなったのは確か。少し利口になったのか、単に年を食ったのか。なんなんでしょうね。

売れてないのに20年やるのはよっぽど鈍感なのか頭が悪いのか

──フラカンはここまで大きなブレイクこそなかったけど、メンバーチェンジなしで20年続いてきました。特に最近は状況がゆるやかに上昇していて、20年選手のアーティストとしてはとてもユニークな存在だと思うんです。

マエカワ　特にこの10年はゆるやかに上ってる感じですかね。

鈴木　その前にもうガクーンって落ちたもんな。

マエカワ　1998～9年に落ちたけど、その落ちる前もそもそもそんなに売れてないっていう（笑）。だから、それで20年やるのは珍しいですよね。売れてないのに20年やるのはよっぽど鈍感なのか、すごく頭が悪いのか、逆にすごく頭が良いのか（笑）。

鈴木　まぁでも、食うのに困ったことはそんなにないですからね。

マエカワ　そこはね、多分普通の人の生活レベルよりも俺らぜんぜん下の生活レベルで。

鈴木　上げてないんですよ、生活レベルを。

マエカワ　とりあえず飯食えて、好きなCDぐらい買えて、あと酒が飲めて、それでいいやっていう。

鈴木　家が欲しいとか車が欲しいとか……。

マエカワ　ないね。そういう欲はあまりなくて、ライブができて、楽しく暮らしていければいい。それをメンバーの中で1人が「いやそれはまずいよ」とか言い始めたら。

鈴木　「俺、家を建てないと」みたいなね。

マエカワ　それは夢がでかすぎるけど（笑）。例えば給料を「俺はこれだけもらわないとダメなんだ」とか言う奴がいたら、そりゃ無理。じゃあ辞めてくださいって話になっちゃうかもしれないし。それがなかったのも、メンバーの生活レベルの感覚がそんなに変わらなかったからかもしれないね。

──売れない状況を続けていく中で悲壮感が出ちゃう人たちもいると思うんですが、フラカンにはそういうの感じたことないですよ。

鈴木　いや、悲壮感出てますよ、僕！（笑）

マエカワ　俺らは元から出てる。もうメジャーのときからね。

鈴木　最初っから悲壮感出まくってるんで、麻痺しちゃってるだけ。こんな悲壮なバンドないよね。

マエカワ　例えばすごいキメキメのバンドがメジャー契約切れて、ライブでメンバーが物販するようになったらイメージが崩れるかもしれないけど、俺らだったら別にって感じだし（笑）。そういう意味では、あまり変わりなくやれてますよね。

トラッシュのときからずっとメインの収入はライブ

──じゃあメジャーに復帰しても、感覚的には以前のまま？

鈴木　うん、事務所が付いてるわけじゃないんで何も変わんない。トラッシュのときからずっと一緒で、自分たちの生活のメインの収入はライブですから。

マエカワ　デビューした頃はメジャーに行ったらちょっとは売れるんじゃないかみたいな、淡い期待がちょっとはあったんですけど、今はもうそういうことは考えないですよ。

鈴木　突然100万枚売れるみたいなのはないもんね。

マエカワ　そういうのはまったく考えてないから。もちろん売れたいと思ってやってますけど、売れなくても当たり前と思ってるし、そのへんはぜんぜん感覚が違いますね。

鈴木　これがまたね、音楽以外でバイトしなきゃならない状況だと、ちょっと変わってくるかもしれないけどね。

マエカワ　そうだね。俺らはなんとかバイトせずにやってこれたし、もちろんこの先そうなるかもしれないけど、そうなったからといって辞めるとは思わないな。音楽以外の仕事をせずにライブでなんとか食いつなげてこれたのは大きいですよね。やっぱりバイトとかしちゃうと、そこを休むのが大変でライブができんって話もあるし。

鈴木　この本数のツアーはできないよな。この歳でそんな都合のいいバイトがまずあるかって話だし。

マエカワ　うん、そのへんもラッキーでしたね。