ナタリー PowerPush - EGO-WRAPPIN'
毎年恒例「Midnight Dejavu」 10周年の節目にその歴史を総括
今や年末の風物詩、あるいはスペシャルなクリスマスプレゼントのような恒例行事となった、EGO-WRAPPIN'のライブイベント「Midnight Dejavu」。10周年を迎えた2010年は、豪華ゲストを迎えたアニバーサリー公演として実施。その模様を収めたDVD「MIDNIGHT DEJAVU 10th ANNIVERSARY at 東京キネマ倶楽部」がリリースされた。
発売を記念して、今回は「Midnight Dejavu」の歴史を振り返ると共に、長年EGO-WRAPPIN'を支えてきたスタッフにも「Midnight Dejavu」がスタートしたきっかけや、今まで明かされたことのないイベント秘話を語ってもらった。
取材・文/宮内健
「Midnight Dejavu」初演の苦労
2001年にスタートして以来、年の瀬の東京キネマ倶楽部にて毎年開催されているEGO-WRAPPIN'のスペシャルイベント「Midnight Dejavu」。古くは遊郭街として栄え、今もどこか場末の香りがただよう町=鶯谷の、居酒屋の提灯とラブホテルのネオンを抜けると見えてくるのが、東京キネマ倶楽部だ。かつてグランドキャバレーとして営業されていたこのホールは、彼らが“発見”するまで、音楽ライブが開催される場所とは認知されていなかった。
キネマ倶楽部で音楽のライブイベントをやったのは、EGO-WRAPPIN'が最初でした。もともとキャバレーだった場所で、僕らが存在を知った当時は、無声映画を上映する会場として使われていたんです。きっかけは、EGO-WRAPPIN'が2001年にメジャーデビュー作「満ち汐のロマンス」をリリースしたとき。音楽雑誌「Gb」(※2003年に休刊)の取材場所として、当時の編集長が見つけてきてくれたんです。その撮影がなかったら、絶対に行ってなかった(笑)。
ベルベットのドレープが妖しく光る深紅の幕、箱バンが毎夜ジャズやラテンを演奏したステージ、華やかな衣装を身にまとったダンサーやシンガーの姿が浮かんできそうなバルコニー……グランドキャバレー時代の名残がそのまま保存された東京キネマ倶楽部という場所は、そこだけ昭和という時代のまま、時が止まってしまったような感覚を与えてくれる。
初めて訪れた中納良恵(Vo)も森雅樹(G)もキネマ倶楽部の雰囲気がすっかり気に入り、すぐに「ここでライブやれたらいいね」という話になった。その年の11月、インディーズ時代から人気のあった「色彩のブルース」を、メジャーから「Midnight Dejavu ~色彩のブルース」としてリリースし直すにあたり、年末に何かイベントをやろうというアイデアが出て、会場の候補としてこの場所が挙がった。
しかし、キネマ倶楽部でライブを実現させるには想像以上に高いハードルが待っていた。
なんせ過去に音楽ライブをやったことがない場所だから、設備が何もなかったんですよ。今は機材も揃ってるけど、当時は無声映画用のスピーカーと、簡単なワイヤレスマイクとCD/MDデッキ、16チャンネルのミキサーだけ。照明も、ピンスポットライトが2本あるぐらい……言っちゃえば旅館の宴会場程度の機材で。グランドピアノは元々あったんだけど、ステージ下の奥のほうに置かれっぱなしだったから、それを舞台に上げなきゃいけないし、そもそもステージ自体も補強しなきゃいけなかったし(笑)。
結局、ライブに必要な音響機材や照明などはすべて持ち込んだ。ビルに2台しかないエレベーターでピストンで運んでも、搬入には丸1日かかってしまったという。
建物の前に4トントラックを停めて搬入してると、ああいう町だから、酔っぱらいのおっちゃんが絡んできたり……って、それは今でもそうか(笑)。でも、鴬谷っていう町そのものにも魅力があるんですよね。なんとも言えないB級感があるというか。これが新宿や池袋にある元キャバレーだったら、またちょっと違ってたと思うし。
苦労した甲斐もあって、EGO-WRAPPIN'と東京キネマ倶楽部は素晴らしい相性の良さを発揮。それから「Midnight Dejavu」は毎年末の恒例イベントとなり、昨年開催10周年を迎えた。
毎回趣向を凝らした内容を展開
通常のEGO-WRAPPIN'のライブを支えるバンドメンバーに加え、管楽器奏者2名を加えた4管編成が「Midnight Dejavu」の基本スタイル。そこに、年によってはゲストアーティストが参加したり、ストリングスセクションが加わったり、あるいは意外な人選によるDJが開演前のBGMを担当したりと、毎回趣向を凝らした内容が展開される。
例えば、バルコニーからメンバーが登場し、ライブ終了時もバルコニーからバックステージに退場した年もあった。また、バルコニーにターンテーブルを設置して、アンコールが終わってから森がアナログのレコードに針を置いて、ステージをあとにする演出が施された年も。2002年にはエマーソン北村をゲストに呼び、開場時のBGMを生で演奏するなど、毎年さまざまな演出が行われている。
さらに、「Midnight Dejavu」の楽しみのひとつと言えるのが、普段のライブでは演奏されないであろう異色のカバー曲の数々。例えば2010年に演奏された久保田早紀の「異邦人」や黛ジュン「Black Room」をはじめ、ナット・アダレイ「Work Song」や笠置シヅ子「買物ブギ」など、キャバレーを意識したようなジャズのスタンダード曲や歌謡曲のカバーが披露されてきた。その年にEGO-WRAPPIN'の新譜がリリースされたとしても、「Midnight Dejavu」はアルバムのレコ発ライブ的な内容にはならないのだ。
ちなみに毎年リハーサル初日には、森がスタジオにターンテーブルを持ち込んで、メンバー全員と一緒にカバーする曲の候補をアナログで聴かせながら「これ、どう思う?」と話し合うのが恒例行事となっているという。
DISC1
- BLUES FOR BROTHER GEORGE JACKSON
- カサヴェテス
- PARANOIA
- a love song
- Bell 5 Motel
- CARIOCA
- GIGOLO
- love scene
- 下弦の月
- チェルシーはうわの空
- Nervous Breakdown
- 異邦人
- Black Room
- かつて..。
- 色彩のブルース
- BIG NOISE FROM WINNETKA ~黒アリのマーチングバンド
- BRAND NEW DAY
- GO ACTION
- 雨のdubism
- moment to moment (En)
- サイコアナルシス (En)
- BYRD (En)
DISC2
- GOOD ROCKIN' DADDY
- サイコアナルシス
- 雨の慕情
- KOREA SEOUL-AX PREMIUM LIVE SHOW
- 大阪 中津芸術文化村ピエロハーバー PREMIUM LIVE SHOW
EGO-WRAPPIN'(えごらっぴん)
1996年に大阪で結成。メンバーは中納良恵(Vo, 作詞 / 作曲)と森雅樹(G, 作曲)の2人。初期のジャズや昭和歌謡をベースにしたサウンドで、2000年にリリースした「色彩のブルース」がロングヒットを記録し、全国区に躍り出る。その後もシングル「くちばしにチェリー」がテレビドラマ「私立探偵 濱マイク」の主題歌に起用されるなど、コアな音楽ファンのみならず広い層から注目を集めた。2010年には7枚目のアルバム「ないものねだりのデッドヒート」をリリース。
また、2001年より毎年12月に東京キネマ倶楽部にてライブイベント「Midnight Dejavu」を開催。元グランドキャバレーだった独特の空間を使ったエンタテインメント性の高いステージで、リピーターを数多く獲得している。