ナタリー PowerPush - 堂島孝平
ポップでショックでクレイジーな最新型HARD CORE POP!
「それでいいじゃん」っていう歌をたくさん作ろうって思った
──A.C.E.の演奏は非常に抑制が効いてるんですけど、要所要所で4人ならではのポップネスが爆発する瞬間があって。
いやあ、爆発してましたか(笑)。今回のアルバムは飾りを極限までそぎ落とすことで、自分という存在、自分が持ってる人間味がよりパッキリと出るんじゃないか。それがいいし、それでいい、と考えたんです。じゃあ、自分とはどういう人間であるかっていう話をメンバーやスタッフともたくさんして。実際の僕は、普段からくだらないことばっかり言ってる人間なわけですよ。
──そういえば、Twitterでは堂島さん、基本的に実のない話しかしないですよね(笑)。
うん(笑)。たまには真面目なことも考えるけど、「どうでもいいこと言ってるな」とか、ちょっと気の利いた、機知に富んだ言葉をテンポよくパンパンパンパン話しているのが堂島孝平らしいって思われてるんじゃないかなって。
──Twitterを通して「あれ、堂島孝平ってこんな面白サイドの人だったのか!」って初めて知った人も多いんじゃないでしょうか。堂島さんの普段気になってることやちょっとした日常が垣間見えることで、ファンの間での音楽の聴こえ方も少し違ってきてるんじゃないかと思うんですよ。頻繁にライブに足を運んでる人なら、MCでなんとなく人となりもわかるけど、そうじゃない人にもそのキャラクターが届くようになってきて。
僕もTwitterやってみて「こんなんでいいんだな」っていうか(笑)。自分にとってはこれが普段どおりなんです。ちょっと前から、ライブに対する考え方も変わってきたんですよ。2006~7年ぐらいまでは年齢的にもキャリア的にも、人間味なんて二の次で、音楽をがむしゃらにやるのが最優先だった。でも「堂島孝平楽団」をやったあたりから、本来自分が持ってる人間としてパーンとはじけてる感じっていうのが音楽でも表現できるようになってきて。シリアスなメッセージももちろんあるんだけど、ライブの後味はあくまでハッピーなものにしたいっていう考え方に、この3年ぐらいですっかり逆転しましたね。
──その話を聞くと、「A.C.E.」がこういう温度感の作品になったのもすごく腑に落ちる感じがします。
うん。これまでいろんな作品を作ってきたけど、軽やかにウィットに富んだ歌がたくさん入ったアルバムはまだ作ってなかったなと思って。クソ真面目にラブソング歌うんじゃなく、ドキュメンタリーとしての「25才」(シングル「冬が飛び散った / 25才」収録、2002年1月発売)のようなギリギリの思いを吐露する歌でもなく、洗濯機が回ったとか、裸の女が風呂はいってるとか(笑)、そういう歌が自分でも今一番聴きたかったんですよね。こないだね、夜中にゴミ捨て場を通ったら突然、電子音で「ハッピーバースデー」が流れてきて。ずっと鳴ってるからめっちゃ怖くて。夜中に鳴ってるのも怖いし、捨てちゃうことも怖いし。それでTwitterに「他人の断捨離が怖い」ってつぶやいたんですよ。
──アハハハハ(笑)。
そしたら、夜中の2時ぐらいなのにリツイートが一気に200超えちゃって。「こんなんでいいんだな世の中」って思ったんです。自分が歌にしてない部分、自分が普段感じてるのに歌にできてない部分。それって、どうしてもポップスとしては表現しづらいものなんですよ。コミックソングと思われるのもシャクだし。でも今回は、この軽やかさを優先して「それでいいじゃん」っていう歌をたくさん作ろうって思ったんです。
断捨離のアルバム
──その軽やかさを音楽として表現できるようになったというのも、さっきの熟練の話とは真逆なようで、実はこれもひとつの熟練の成せる技なのかもしれませんよね。熟練させた末の吐き出し方が違うだけで。
「真剣に遊ぶってこういうことなんだな」っていうのがわかってきたんだと思います。ここにたどり着くまでに時間かかりすぎだろって思われるかもしれないけど、僕はこの順番で1枚1枚作品を作ってきて、1本1本のライブでいろんな経験して、高いところから飛んで骨折したりとか、そんなことを経て(笑)、やっと自分なりの痛快な音楽の作り方がわかってきた。わかったというか、挑戦してみて、今回のアルバムでは「勝った」と思ってるんですよ。ようやくそこにたどりつけたという思いはあるんですよね。
──痛快の極みみたいなアルバムですよね。アルバムの尺も含めて。
そうなんですよ。36分しかないから、もう今からツアーやるのが不安でしょうがない。全曲3回ずつやっても1時間半だし(笑)、持ち時間40分の対バンでも全曲やれるんですよ。堂島孝平史上最もソリッドでスウィートな、それでいてやんちゃなアルバムになったんじゃないかなと思っています。
──でも、これまでのリッチなサウンドこそ堂島孝平だと考えてるファンの人からは、ひょっとしたら拒否反応もあるかもしれませんよね。
そうですね。僕は今回「断捨離のアルバムだ」って言ってて。今まで自分で作ってきた音楽を要る要らないで言ったら、全部要るんです。引っ越しと同じで、荷物は全部要る。持っていきたいんだけど、使うか使わないかで考えたら、ほぼ全部使わなかった。使ったのはマインドやソウルだけ。いつも自分の新しい形をアップデートし続けて、結果こういう「断捨離」のアルバムになったんです。だから僕自身は非常に風通しがいいし、今は最高に楽しいんですよね。
同世代のアーティスト全員に手紙を書いて送りつけたい
──A.C.E.のバンドメンバーもそうですけど、堂島さんの周りには同じように「ポップミュージック」に高い志と情熱を持って取り組んでいるアーティストが多いですよね。堂島さんやNONA REEVES、土岐麻子さん、キリンジといった同世代の方々が多く集まる矢野博康さん企画のフェス「YANO MUSIC FESTIVAL」はその象徴的なイベントだなと。
僕たちの世代はこれから面白くなるんじゃないかなあ。みんな十分それぞれの道で戦ってきたからそう言えると思うんですけど、なんか面白いんですよね。ここらへんの世代は。ひとり勝ちした人がいるようでいないし、みんな遅咲きですしね。結構息の長い人たちが多い。なぜ長く続けてこれたかっていうと、自分も含めてあえて言いますけど、同世代で残ってる奴はみんなオモロいですよ、人間が。
──わかります。音楽以外の大事な部分でもつながっているような。
郷太がラジオで人気者になってたり、ユウヒくん(小宮山雄飛 / ホフディラン)が「世界ふしぎ発見!」に出たりとか(笑)。SUPER BUTTER DOGやCymbals界隈もいるし、TRICERATOPSもいて、キリンジもいて……。ミトくん(クラムボン)なんかもう、次のアニソン界の巨匠になっていくんじゃないかと思う(笑)。
──アハハハ(笑)。
彼らの中では僕が一番年下なのに、デビュー時期的には先輩ってのがおかしいんですけど(笑)。もちろんみんな仲はいいんですが、自分はその中から一抜けしてやろうって常に思ってるし、今回のアルバムは周りのみんなに聴いて欲しい。むしろ一般のファンの人たちよりも、同世代のアーティスト全員に手紙を書いて送りつけたいぐらい。「今のままでいいの?」っていう挑戦的な気持ちも込めたアルバムなんです。
『あのコ猫かいな』Music Video
CD収録曲
- ギミラ!ギミラ!ギミラ!
- ベランダでベルリラ
- あのコ猫かいな
- バスルーム・マーメイド
- センタッキ!
- A.C.E.
- マイ・シナモン・ガール
- 境/界/線
- 赤と白
- ハヤテ [A.C.E.MIX]
- いいさ、おやすみ
堂島孝平(どうじまこうへい)
1976年2月22日大阪府生まれ。茨城県取手市で育ち、1995年2月にシングル「俺はどこへ行く」でメジャーデビューを果たす。1997年には7thシングル「葛飾ラプソディー」がアニメ「こちら葛飾区亀有公園前派出所」のテーマソングに起用され全国区で注目を集めた。ソングライター / サウンドプロデューサーとしての評価も高く、KinKi Kids、藤井フミヤ、太田裕美、THE COLLECTORS、アイドリング!!!など数多くのアーティストに楽曲を提供している。2011年12月には初のオールタイムベストアルバム「BEST OF HARD CORE POP!」をリリース。2012年3月21日にはImperial Records移籍第1弾オリジナルアルバム「A.C.E.」を発表する。