ナタリー PowerPush - Mr.BEATS a.k.a. DJ CELORY

話題のラバーズレゲエMIX 制作意図をDJ CELORYに直撃

BON-VOYAGEシリーズ好評の背景

──実際このシリーズはリリースする度、売れ行きも評判も良くてここまで続いているわけですが、その理由は何だと思いますか?

うーん、正直自分じゃよくわからない部分もあるけど……単純にライトユーザーの数が多かったことと、そういう人たちにとって気になる要素があったんじゃないでしょうか。もちろん僕もなるべく多くの人に聴いてもらいたいし、気に入ってもらえるように気持ちを込めて作ってますけど、正直初めはこんなに続くと思ってなかったっすねえ(笑)。普通に一発で終わると思ってた。

──人気が出た要因の1つなのかわかりませんが、ここ数年でヴィレッジヴァンガードなどに置いてあるようなコンピやミックスCDってとても盛り上がりましたよね。それこそタワーレコード、HMVでもコーナーができるぐらいに。

そうですね。ヴィレッジヴァンガードに来てるお客さんって、おそらくCD買おうと思って店行ってるんじゃないと思うんですよね。音楽も雑貨の1つとして考えてるというか。あの空気感とそういう人の好みに、このCDの性質がちょうどハマったんじゃないですかね。あと、時代性なんかも関係あるのかな。

──時代性?

はい。今はいろんな娯楽があって、球場に野球を観にいくにもお金がかかるし、ライブを観にいくにもお金がかかるじゃないですか。で、みんなそれぞれ生活の中で使えるお金って限られてて、何にどれだけ使うかは自由。そういう中で、僕は娯楽の1つである音楽のユーザーがちょっと減ってきてる、特にCDを買うユーザーが減ってきてる気がして。

──それは音楽自体が衰退しているということでしょうか。

いや、音楽が時代とともにインスタントなものになりつつあるというか。音楽の形や価値観が変わってきて、音楽ユーザーがちょっと弱ってる感じがするんですよね。

──娯楽自体は多様化する中で。

そうそう。そういう状況の中、いかにたくさんの人を音楽の世界に引き込んでいけるかを考えた上で、僕はBON-VOYAGEシリーズを作ってます。元は一般のライトなユーザーに向けて作ったものだけど、これをきっかけにちょっとでもブラックミュージックの良さを感じてくれたり、最終的には日本語ラップとかまで掘ってくれたらすげえうれしいなっていう思いで。これを聴くことで僕らアーティストがやってることの理解者を広げるというか、思いがつながったらいいなぁと。別に押し付けるつもりもないけど、僕の中ではそんな気持ちも同時に持って作っているんです。

──なるほど、そうだったんですね。実は私、CELORYさんが本当のところどういう気持ちでこのシリーズを作り続けているのか、すごく気になっていたんですよ。

まぁ、ホントそこっすよ。最終的にはこの原曲になってるヒップホップ/R&Bのシーンをもっと盛り上げたい。ドンズバなことはDJ KAORIちゃんとか人気DJの方がやってると思うんで、僕は少し違う切り口でそのマーケットを大きくすることができればいいなと思って。

──確かに、DJによってさまざまなミックスCDの形がありますよね。

そう。いろんな提唱の仕方があるけど、僕はこのBON-VOYAGEシリーズで“入りやすい音”を表現していきたいなって。

ヒップホップに出会ったからこそ今がある

──あと、このシリーズを作り続ける理由には、CELORYさん自身のリフレッシュみたいな要素もあります?

あぁ、ありますね。やってて僕自身も勉強になるし、こういうミックスCDはDJとしてのいろんな引き出しを表現できるから楽しい。例えばこのBON-VOYAGEは「LOVERS」のスピンオフシリーズとして「LIFE」ってのもあるんですけど、そっちには90年代に流行ったアシッドジャズだったり、よりラウンジに寄った音を使ってるんですね。僕もいろんなジャンルが好きなんで、それぞれの良さを詰め込んで1枚にコンパイルして「こんな形で聴くのはどうですか」って提案できるのは、DJ冥利に尽きますよ。

──聴いている側としても、CELORYさんの守備範囲の広さを感じます。

そもそも、こんなふうに多ジャンルにわたって聴くようになったのは、最初にヒップホップに出会ったことが大きいと思いますね。

──というと?

僕も若い頃はヒップホップ以外聴かなかったんだけど、そのサンプリングで使われてるネタ元を調べてみたら、ソウルだったり、ファンクだったり、ダンスクラシックスだったり。そうしてどんどん掘って聴いてくことで自然と知っていったんですね。最初にヒップホップに出会ったからこそ、いろんなジャンルを聴く耳が持てたし、今こうして作品に落とし込むことができてるんだと思いますね。

BON-BOYAGEシリーズはDJ活動の喜びのひとつ

──ところで、普段自分の気になるDJのミックスCDって聴きますか?

はい。ミックスCDにもいろんなスタイルがあるから面白いですよね。例えばラッパーやアーティストが出すミックスCDで、別にしっかりミックスされてるわけでもグルーヴを考えてるわけでもなく、曲がどんどん羅列されてMCでつながっていくというタイプもあるし、曲以上にDJとしてのスキルを前面に打ち出したタイプもある。僕はやっぱりDJなんで、どっちかというと後者のほうが好きっすけど。

──日本のメジャーのミックスCDシーンは、海外のそれとは別の雰囲気があって独特ですよね。まだミックスCDを聴くことに馴染みのない人も多いかもしれないけど、トラックが途切れることなくつながれていくので、ある意味コンピレーションより飽きませんし。

だからいろんな人のオフィシャルのミックスCDがもっと市場に増えればいいなと思います。やっぱりCDって、作り手としては今まで眠っていた曲を掘り起こす喜びもあるし、それを今の時代に新しい形で提案できるのが面白い。若い世代だったら古い曲も新譜みたいに感じるだろうし、良い音楽をいろんな切り口で紹介していきたいなと。そういう意味で、このBON-BOYAGEシリーズは僕がDJ活動してる喜びのひとつでもあるので、今後も続けていきたいですね。

「BON-VOYAGE LOVERS ~Heart of Moment~ Music Selected and Mixed by Mr.BEATS a.k.a. DJ CELORY」

  • 2011年4月27日発売 / 1980円(税込) / UNIVERSAL MUSIC  UICZ-1395 / Amazon.co.jpへ
CD収録曲
  1. JUST THE WAY YOU ARE / SHYAM MOSES
  2. GOING CRAZY / KADEEN
  3. SAVE THE BEST FOR LAST / PATSY MOORE
  4. BABY / TAJH feat. HAKIM
  5. DO YOU REMEMBER / TAJH feat. YT
  6. DYNAMITE / LEE FRANCIS
  7. DJ GOT US FALLING IN LOVE / AHMIR
  8. OMG / TAJH
  9. APOLOGIZE / ROGER ROBIN
  10. I LOVE ME SOME HIM / PAM HALL
  11. THE LOVE WE HAD STAYS ON MY MIND / BRIAN & TONY GOLD
  12. MINE / AHMIR
  13. HARD TO SAY I'M SORRY / KELLY B.
  14. TENDER LOVE / WINSTON FRANCIS
  15. I HOPE WE GET TO LOVE IN TIME / DA'VILLE & FIONA
  16. BURNING FIRE / GLEN WASHINGTON
  17. DON'T LOOK BACK IN ANGER [Live Drum Mix] / LEE FRANCIS
  18. YOU'RE BEAUTIFUL / CEZAR
  19. STICKWITU / ALICIA
  20. PRETTY GIRL ROCK / STEPH WRIGHT
  21. WHATCHA SAY / HAKIM
  22. TAKE A BOW / TORIA
  23. GO ON GIRL / VOICE MAIL
  24. TELL ME IT'S REAL / SHYAM MOSES
  25. GIRL / DAYNEA
  26. RUDE BOY / STEPH WRIGHT
  27. LETTING GO (DUTTY LOVE) [Strip Back Version] / HAKIM
  28. LOVE THE WAY YOU LIE / STEPH WRIGHT & GLAMMA KID
  29. SAY AHH / ROBERT CAMPBELL
  30. DON'T LIE / NADINE & ALBOROSIE
  31. PUT IT IN A LOVE SONG / STEPH WRIGHT
  32. NOTHING ON YOU / MIKE ANTONY
  33. RETURN OF THE MACK / MIKE ANTONY
  34. HAPPY SONG (TONITE) / SHYAM MOSES

「BON-VOYAGE LIFE ~Relaxin' and Feelin'~ Music Selected and Mixed by Mr.BEATS a.k.a. DJ CELORY」

  • 2011年5月18日発売 / 1980円(税込) / UNIVERSAL MUSIC  UICZ-1394 / Amazon.co.jpへ
CD収録曲
  1. Tender Love / Kenny Thomas
  2. Let It Last / Carleen Anderson
  3. By Your Side / Sade
  4. Feels Like Right / The Brand New Heavies
  5. Who Chooses The Seasons / Omar
  6. There's Nothing Like This - 7" Edit / Omar
  7. La La (Means I Love You) (U.K. Edit with Guitar) / Swing Out Sister
  8. People May Come / Gabrielle
  9. Spiritual Love / Urban Species
  10. It Ain't Over Til It's Over / Lenny Kravitz
  11. Still A Friend Of Mine / Incognito
  12. Peace In The World / Don-e
  13. I Am The Black Gold Of The Sun (4 Hero Remix)/ Nuyorican Soul
  14. Virtual Insanity / Jamiroquai
  15. Keep Together / The Brand New Heavies
  16. Better All The Time / Galliano
  17. Price on Peace / Galliano
  18. Something That You Said / Esperanto
  19. Without You / Incgnito
  20. Am I The Same Girl / Swing Out Sister
  21. Brother Urban Species
  22. Dream On Dreamer (Morales Mix) / The Brand New Heavies
  23. Make It Eazy On Me (Club) / Sybil
  24. Trust Me (CJ's Master Mix) / Guru
  25. I Wish (Club Mix) / Gabrielle
  26. You Gotta Be / Des' Ree
  27. Never Stop / The Brand New Heavies
  28. Me Oh My / Don-e
  29. Take Me Now / Tammy Payne
  30. Keep It Coming / K.Collective
  31. Loving You (Summer Breeze Mix) / Massivo feat Tracy
  32. Best Of You (Sunshine Mix) / Kenny Thomas
  33. Brightest Star / Drizabone
  34. Call On Me / Workshy
Mr.BEATS a.k.a. DJ CELORY(みすたーびーつえーけいえーでぃーじぇいせろりー)

アーティスト写真

1993年から活躍するDJ/プロデューサー。1994年にHAB I SCREAM、E.G.G MAN、ALGらとヒップホップユニットSOUL SCREAMを結成し、4枚のアルバムを発表。日本語ラップの黎明期を支えたグループとしてヒップホップファンから熱い支持を受ける。2003年にはソロ名義で初のシングル「BONDS feat. MACCHO & TOKONA-X」を発表。以降現在まで精力的にDJ活動を行っている。また、Zeebra、DJ NOBUと結成した日本語ラップDJプロジェクト「KUROFUNE」のメンバーとしても活躍中。