音楽ナタリー Power Push - 電波少女

ネットラップ界に風穴開ける嫌われ者

ネットラップシーンで注目を集めるヒップホップユニット・電波少女(デンパガール)から前作「BIOS」以来、約2年ぶりとなる2ndアルバム「WHO」が届けられた。ハシシ(Rap)、nicecream(Performance)の2人体制となって初のアルバムとなる本作は、シングル曲「INVADER feat. RAq」「MO feat. NIHA-C」を含め、すべての楽曲がインターネット動画などで活躍するアーティストとのコラボ曲。より直接的になったリリック、ポップ度を増したトラックメークを含めて、このアルバムは彼らにとって大きなターニングポイントとなりそうだ。

今回音楽ナタリーでは電波少女の2人にインタビューを実施。「WHO」のコンセプトと制作プロセス、ネットラップシーンの現状などについて語ってもらった。

取材・文 / 森朋之 撮影 / 佐藤類

1人でラップしたくない

電波少女

──約2年ぶりのフルアルバム「WHO」は、NIHA-C、RAq、トップハムハット狂、Jinmenusagiなど、主にインターネット動画のシーンで活躍するアーティストを全曲にフィーチャーしたコラボレーション作品になりました。どうしてこういうコンセプトのアルバムを作ろうと思ったんですか?

ハシシ 前作(1stアルバム「BIOS」)が出て、2ndアルバムを作ってる途中でメンバーの脱退があって。自分としては「1人でラップしたくない」という気持ちもあったし、曲によっては「どうしてもフィーチャリングアーティストを呼びたい」ということもあったし、だったら“全部フィーチャリングの曲”というコンセプトのアルバムにしてみようと思って。あと、次の3rdアルバムまでで“第1部”という括りにしたいんですよね。1stは3人体制で作って、3rdアルバムは2人体制でやるつもりだから、2ndは全部フィーチャリングがいいんじゃないかなっていうのもあったし。でも全然つなぎっぽい内容ではなくて、いいアルバムが作れたかなって自画自賛してます(笑)。

nicecream いいアルバムになりました。

──メンバーが脱退して2人体制になったことも、当然アルバムの制作に影響してるんですね。

ハシシ そうですね。あとはアルバムとしての意味を持たせたいということかな。楽曲それぞれのジャンルや歌詞の雰囲気もバラバラでコンピレーションみたいな感じもあるから、アルバムのコンセプト、骨組みをしっかりさせたいなと。そこはスタッフの方とも相談しながら、ちょっとヒネくれてる……というか、面白いことができたらなって。

nicecream まだ発売していないのでわからないところもあるんですけど、「INVADER feat. RAq」のミュージックビデオの反応もよくて。ちょっと安心してます(笑)。

ハシシ 前は「自分は怒られて伸びるタイプかな」って思ってたんだけど違ってましたね(笑)。新しい曲を発表すること自体がひさしぶりだったから、リスナーからの反応を受けて「これがモチベーションになってるんだな」って改めて感じました。

──ゲスト参加しているアーティストは全員知り合い?

ハシシ ほぼ知り合いか友達ですね。インターネットのサイトか、現場で知り合った人オンリーです。

──ネットラップのシーンは、電波少女が活動をスタートさせた当初と比べて変わってきたところもありますか?

ハシシ だいぶ廃れてるんじゃないですかね。自分が参加した頃が一番盛り上がっていて、そこから右肩下がり。

──このアルバムによって、ネットラップシーンをもう一度盛り上げたいという気持ちもある?

ハシシ いや、ないです。あくまでも、ネットラップシーンはアーティストと知り合った場所。思い入れはありますけど、そこを通過した人たちが盛り上がっていけばいいんじゃないかなって。ただの道の途中というか、好きに使って、好きに捨てていっていいと思うんですよね。シーンのことよりも、自分たちのことだけで精一杯だし(笑)。

この体制で売れたい

──それにしても、メンバーの脱退はどう考えても大きな変化ですよね。

ハシシ

ハシシ 最初からやってるメンバーは俺だけですからね。さっきも言いましたけど、基本的には1人でラップしたくないんですよ。もともと複数のMCがいるグループが好きだったし、本当はそれが理想なんですけど、今はこういう環境なので「これでやるしかない」って腹を括りました。

nicecream うん。

ハシシ 俺はけっこうネガティブだから、「前よりもパワーダウンしたって思われるんだろうな」って思ってたこともありますし。

nicecream 確かに「大丈夫かな」とは思ってましたね。でも今回のアルバムもけっこう予約が入ってるみたいでよかった(笑)。

ハシシ ライブが大変でしたけどね。2人になった頃はツギハギみたいなライブをするしかなかったし、ぎこちないところもあったので。今はちょっとマシになりましたけど、俺は歌も下手だし、体力もないんで……。ただ、それでもライブを観に来てくれる人がいるので、その人たちのためにもがんばらないと、と。この体制で売れてやろうと思ってますからね。

──上に行きたい気持ちが強まった?

ハシシ 例えばこういう取材を受けることやいろんなところで自分たちの曲を取り上げてもらうことも、以前は違う世界のことだと思ってたんですよ。でも活動していくうちに、そういうことが現実になっていって。自分たちもすごく楽しいし、もっと売れたいという気持ちも強くなったんですよね。

nicecream

nicecream お金持ちになってみたいです(笑)。

──今回のアルバムもポップ度が上がってますからね。

ハシシ ヒップホップのカッコよさを残しつつ、自分の好きな音楽をやろうと思ったら、キャッチーな曲が多くなったという感じです。以前はヒップホップのコアな部分を出すことを意識していて、キャッチーなところはわざと抑えてたんですけど、最近はあんまり意識していないですね。ちょっとやり過ぎたかなとも思うけど、世間的にはこれくらいポップなほうがちょうどいいと思うし。

nicecream 曲の振り幅も大きくなったしね。

ハシシ うん。結局、こういうメロディアスなものが好きだから。日本のコアなヒップホップのシーンって、ちょっとメロディが入っただけでもニセモノ扱いされてたじゃないですか、昔は。俺はその頃“音楽”をやってなかったんですよ。人目を気にするというか、バカにされるのがイヤなので。今はシーンもかなり寛容になってるから、自分もやれるんじゃないかなって。

──ヒップホップのシーンが広がって、メロディアスな部分も出しやすくなった、と。

ハシシ そうですね。いろんなパターンのMCが道を開拓してくれたおかげで、自由にやれるというか。その後ろを歩いていけばいいわけだから。

2ndアルバム「WHO」/ 2015年7月8日発売 / 2678円 / redrec / sputniklab inc. / RCSP-0059
2ndアルバム「WHO」
収録曲
  1. OUTRO
  2. MO feat. NIHA-C
  3. HIPHOPLIFE3 feat. 抹 a.k.a ナンブヒトシ、NOBY
  4. LIAR GAME Remix feat. TWOFACE
  5. This world is クソゲー feat. SHAKABOOZ
  6. SKIT
  7. FRI_END feat. PA220 a.k.a mcgundam
  8. Earphone feat. Jinmenusagi
  9. NAVY BLUE feat. コカツ・テスタロッサ
  10. idler stella feat. nera_K、ぼくのりりっくのぼうよみ、野崎りこん
  11. オルタネートエラー feat. トップハムハット狂
  12. INTRO
  13. INVADER feat. RAq
電波少女「WHO」発売記念ミニライブ&特典引換会
  • 2015年7月10日(金)東京都 タワーレコード渋谷店 4Fイベントスペース
    START 19:00
    内容:ミニライブ&特典引換会
    お問い合わせ:タワーレコード渋谷店 03-3496-3661
電波少女presents "THAT GIRL"~2nd Album"WHO"Release Party featuring Oneman LIVE~
  • 2015年7月20日(月・祝)東京都 Shibuya Milkyway
    <出演者>
    電波少女
    ゲスト:コカツ・テスタロッサ / Jinmenusagi / トップハムハット狂 / NIHA-C / NOBY / 抹 a.k.a ナンブヒトシ / RAq / and more
電波少女(デンパガール)

2009年に複数のMCおよびトラックメーカーで結成されたユニット。幾度かのメンバーチェンジを経て、現在はラップ担当のハシシとDJ&パフォーマンス担当のnicecreamという2人で活動している。2013年7月に1stアルバム「BIOS」を発表。2015年7月に全曲フィーチャリングゲストを迎えた2ndアルバム「WHO」をリリースする。