音楽ナタリー PowerPush - cero

両A面で提示する変化の過程とこの先の物語

“両A面”で表現する風景

──「Orphans」はceroで初めて橋本さんが作曲した曲になりました。なぜこのタイミングだったんですか?

橋本翼(G, Clarinet, Cho) これまでも曲は作っていたんですけど、あんまり「ceroっぽい曲」ができないなと思ってたんですよ。でもだんだん音楽性が変化していく中で、自分が書くスタイルの曲とみんなの気分に重なる部分が見えたというか。

高城 「Orphans」の原型みたいなものは、もっと前からあったんだよね。5年ぐらい前の「1回曲を出し合おう」みたいなときにはもうあった。そのときはスーッと流れちゃったんだけど、ひと回りして今のceroにぴったり重なったというか。歌詞はなかったけど、僕が書こうと思ってストックしていたモチーフで1つピンと来るものがあって。2回目の合宿のときだったんですけど、次の日までに一気にバーッと書き上げました。そのときは仮タイトルで「バカ姉弟」だったんですけど(笑)。

──歌詞もこれまでの作品と同様に、前作のストーリーからつながっているという手法ながら、まさか輪廻でつなぐという方法があったとはと驚きました(笑)。

高城晶平(Vo, Flute, G)

高城 なんでもアリです(笑)。「Yellow Magus」でルポ的、作家的に歌詞を書くということをやり始めて……それまでは自分の半径数メートルの出来事をデフォルメしてファンタジーに置き換えてたんですけど、そんなにいろんなことが周りで起こるわけじゃないし、いつかネタ切れになるだろうなって。新しい方法論のまた違ったやり方として「Orphans」を書いてみたんです。架空の高校生の男女が、お互い「前世では姉弟だったのかも」って考えるという。

──SFなんだけど情景としてはすごく素朴な絵が浮かぶ、短編マンガ的な印象を受けました。

高城 これは僕が好きな某ブロガーの方が同人誌で書いていた文章の一節が元で浮かんだんですよ。文章そのままの世界観にすると面影ラッキーホールみたいな内容になるから(笑)、自分なりのストーリーを作ったんですけど。自分から離れたところの出来事を歌に落とし込むというのが、歌詞を書く上での最近のテーマですね。

──そして間髪入れずに始まる「夜去」は、この「夜去(ようさり)」という言葉自体にインスピレーションを受けて書いたとのことですが。

高城 大学生の頃、通学路にあったお寺の入口に「夜去」って書いてあったんです。お寺によく書いてある格言みたいなやつで。文字ではこう書くけど「夕暮れ」という意味で、去るものは来るものと同義であるみたいなことが書いてあって、当時なんとなくメモしてあったんです。それからずっと自分のテーマとしてよく使う言葉というか、1stアルバム(2011年1月発売「WORLD RECORD」)に入っている「ターミナル」にもそういう一節を入れたりしていて。それを1つの曲に集約してみようと思って作ったのがこの曲です。霧雨で1日中光の加減が変わらないような「Orphans」から、いきなり夕暮れになってブルーに染まっていくような感じが美しいんじゃないかなと思って、どっちもA面という扱いにしてみました。

──いわゆる一般的な「両A面シングル」って、だいたいタイアップ的なしがらみがあって、むしろ2曲の関連性は薄いものが多いと思うんですけど、このシングルの両A面ってそういう意味合いだったんですね。

橋本 タイアップ……ないね(笑)。

高城 あー、両A面ってそういうことなのか(笑)。

フロントマン高城晶平の変化

──ちなみに荒内さんと橋本さんは、ソングライター、作家としての高城さんをどう見ていますか?

橋本翼(G, Clarinet, Cho)

橋本 どんどん職人的な感じに変化してるような気がしますね。僕が歌詞のない状態の「Orphans」を持っていったときも、次の日には歌詞を仕上げていて。歌っていて違和感がないし、言葉をはめ込む作業がどんどんうまくなっているというか。

高城 ほう。

荒内 なんて言うんだろうな、あまり歌詞として使わない言葉とか……ちょっと見せて(「Orphans」の歌詞を眺めながら)ここには特にないな(笑)。コンビニエンスストアとかiPodとか、ちょっと美意識が過剰にある人だと使わないような言葉を入れても下品にならない。物語の全体像が表現できるなら細かいところは気にしないようなところがあって、僕なんかは逆に木を見て森を見ずというか、1つの言い回しにムダに3日ぐらいかけちゃったりするんですけど。「この言い回し大丈夫なのかな?」って引っかかりのあるフレーズが、ちゃんと物語として機能していたり。物語を構築する能力に長けてるなと思いますね。

高城 あざーす(笑)。いや、メンバーがどんなふうに思ってるかなんて初めて聞いたので、ヘンな感じですね。

──あともう1つ、ボーカリストとしての高城さんはどうですか? 演奏スタイルと楽曲傾向の変化に伴って、グッとボーカリスト然としてきた感じがあって。ブラックミュージック的な、歌詞になっていないリズムとしてのメロディをスッと挟むような歌い方って今までなかったですよね。

高城 曲で変化したところもあるけど、一番の理由は、楽器から解き放たれたことですね。「Yellow Magus」の前はベースを弾きながら歌ったりとか、手ぶらで歌うことはなかったから。手ぶらになったことで余裕ができたというか、歌い回しとかに費やせるようになったんですよ。

──ずっと楽器を弾きながら歌ってた人は、手ぶらで完全なボーカリスト状態になるのに照れや抵抗があったりしないかなと思うんですけど、それはなかった?

高城 最初はありましたよ。ceroはメンバーもサポートも基本的に忙しくしてたい人たちだから。「多動症だ」とかって言われるぐらい(笑)。そっからいきなりポーンと解き放たれて、どうしたらいいかわからないみたいな感じだったけど、1年やってくうちに慣れたというか、歌も1つの楽器としてもっと深めていくべきものなんだなあって、考え方自体が変わりました。

荒内 シングルに付くDVDにはこの1年ぐらいのライブ映像が入ってるんですけど、最初と最後で全然違う人みたいになってる(笑)。

ニューシングル「Orphans / 夜去」 / 2014年12月17日発売 / [CD+DVD] 1890円 / カクバリズム / DDCK-9004
ニューシングル「Orphans / 夜去」
CD収録曲
  1. Orphans
  2. 夜去
  3. 1つの魔法 (終わりのない愛しさを与え)
DVD収録内容

“Scrapper’s Delight”

  • Cloud nine
  • ターミナル
  • Contemporary Tokyo Cruise
  • 小旅行
  • Yellow Magus
  • さん!
cero(セロ)

cero

2004年に高城晶平(Vo, Flute, G)、荒内佑(Key, Cho)、柳智之(Dr)の3人により結成された。グループ名のceroは「Contemporary Exotica Rock Orchestra」の略称。2006年には橋本翼(G, Clarinet, Cho)が加入し4人編成となった。2007年にはその音楽性に興味を持った鈴木慶一(ムーンライダーズ)がプロデュースを手がけ、翌2008年には坂本龍一のレーベルcommmonsより発売されたコンピレーションアルバム「細野晴臣 STRANGE SONG BOOK-Tribute to Haruomi Hosono 2-」への参加を果たす。2011年にはカクバリズムより初の全国流通アルバム「WORLD RECORD」を発表。本秀康による描き下ろしジャケットイラストも話題となった。アルバム発売後、柳が絵描きとしての活動に専念するため脱退し3人編成に。2012年10月には2ndアルバム「My Lost City」、2013年12月に初のシングル「Yellow Magus」を発表した。2014年12月には2ndシングル「Orphans / 夜去」をリリース。