ナタリー PowerPush - Base Ball Bear
小出祐介×宇多丸×Mummy-D 「The Cut」ができるまで
「もっと勝手にやっちゃいなよ!」
──曲作りの話はかなりシビれますね。
小出 ね。そこからサビのメロディに悩んで。やっぱりBPM120前後のテンポ感が今までなかったから、すごく悩ましくて。
Mummy-D これくらいのテンポってダンスミュージック感が出るからだろうね。
小出 そうなんですよね。そういうところでも悩んだし、僕の何がいけなかったかというと、みんなの意見を均等に聞こうとして、どんどん民主主義になっていった結果、自分を見失っちゃったんですよね。お2人には常に歌詞の内容や曲の方向性についてメールで報告すると同時にゴキゲンを伺っていたんですけど(笑)。
Mummy-D 最初はみんなで探り探りという感じだったもんね(笑)。
宇多丸 でもさ、小出くんの「これではない」というラインは常にハッキリしていたじゃない? 逆にいうと、やりたいことはあるんだけどそのイメージが出てきてないだけで。
小出 そうですね。そこはさっき言った参考になる前例がないのがデカくて。
Mummy-D で、このままだとちょっと危ないなと思ったから、俺から小出くんにメールで「もっと勝手にやっちゃいなよ!」って伝えたんだよね。やっぱり舵を取る人のエゴがドン!と出てないと、こういうコラボってうまくいかないから。
小出 Dさんにそう言ってもらえたのはホントにデカくて。
Mummy-D 俺たちもここまで曲作りの段階からガッチリ手を組むコラボってあまりやったことがなかったし、どんどん心配になってきて(笑)。
宇多丸 そう、0から1になる瞬間まで関わるコラボって初めてだったんじゃないかな。
Mummy-D 小出くんがサビメロを探しながら蛇行している姿を見て、もっと楽に作らないと着地しないんじゃないかと思ったんだよね。でも、結果的に試行錯誤して、奇跡的なバランスの着地ができたから。小出くんというアーティストはちゃんと自分の首を絞めながら曲を作れる人なんだなと思った。素晴らしいなって。「だから、これからも自分を苦しめながら曲を作ってください。-Mummy-D-」みたいな(笑)。
一同 ははははは(笑)。
宇多丸 実際、小出くんの迷いが消えた瞬間ってどういう感じだったの?
小出 でも、ホントにDさんからメールをいただいて、それまでいろんなパターンを考えていたけど、「やってないパターンは何かな?」と考えたときに、僕の歌始まりだと思ったんです。ずっとお2人のラップを受けてのメロばかり考えてたから。そうじゃなくて、「自分の歌が主導になればいいのか!」って思ったら、一瞬でできたんですよ。
Mummy-D そうだったんだ!
宇多丸 その弾け方はいいね! やっぱりそういうひらめきでポンと進むことがあるんだね。すごいね。
Mummy-D 小出くんはヒップホップとの距離の取り方も含めて、こっちのこともすごく気遣ってくれていたから。こういう濁ったコード感とかもベボベ的にはあまりなじみのないもので、それでメロに困ってるなら、もうベボベが得意な王道のサウンドに俺たちが乗っていく感じでもいいんじゃないかなと思ったんだけど。それでも楽しくやれると思ったし。
小出 でも、それはヤだったんですね。
──新たな交差点に立つことにならないから。
小出 そう。
宇多丸 そこがはっきりしているのがすごいなと思ったよ。
Mummy-D うん。だから、俺たちは待つしかないと。
小出 お2人にはお待たせしちゃったんですけど、僕は今ある「Base Ball Bearらしさ」みたいなものって、あくまで結果的なものであって、それが自分の真髄とは思ってなくて。みんなの好きなベボベが、必ずしも正解だとは思ってないんですね。
──むしろそれをどんどん変容させていきたいんですよね?
小出 うん。もちろん、既存のベボベらしさみたいなところに向かっていったほうがよくなる曲もたくさんあるんだけど、特に今回に関してはそこにお2人を呼びたいのではなくて、RHYMESTERとしか見れない、モデルケースのない何かをつかみたかったので。でも、ここまで悩んだのはひさしぶりでしたね。
「The Choice Is Yours」と本質は一緒
──歌詞の話に入っていきたいんですけど、僕はこの「The Cut」を聴いたときにRHYMESTERの「The Choice Is Yours」へのアンサーとしても受け取れるなと思ったんですね。「答えはあなた自身にあるんだ」というメッセージ性において。
宇多丸 ああ、なるほど。
小出 うん。実は、お2人にはあまり出さないようにしていたんですけど、「The Choice Is Yours」は僕の中で大きかったんです。「The Cut」で言いたいことも本質の部分は一緒だと思うんですよ。ただ、あの曲と同じことを言ってもしょうがないから、別の切り口で表現したいと思って。それで「物事の見方、捉え方」というテーマに焦点を絞っていった。
Mummy-D なるほどね。「The Choice Is Yours」ってリスナーにけっこういろんなものを突きつける曲で。それこそ、ものの考え方とかね。今の話を聞いて、小出くんがそこに近いものを感じてくれたからこそ、こういう曲ができたんだって思った。今度からそういう聴き方しよう(笑)。
宇多丸 言われたらそうだね。
小出 僕がそれを言ったら意識しちゃうかなと思って言わなかったんですよね。
宇多丸 うん、言われなくてよかった。
Mummy-D 逆に俺は別の曲の歌詞を書いてるんだけど、自分の中に「The Cut」で書いたラインがすごく印象的に残っていて。同じような言葉が出がちになるんだよね。小出くんの歌詞にも影響されているし。真ん中(最初のブリッジ部分)の「ERAい“僕ら”はいつも何かを言いたいんだ」から始まるラインもすげえ好きでさ。「俺もそんなこと歌いたいんだよ!」っていう。
宇多丸 あとは、小出くんから「The Cut」というキレのいいワンワードが出てきたときはテンション上がったよね。このワンワードでいろんな比喩を使えると思ったし。
──確かにこのワンワードの広がりはすごいですよね。
小出 結局、世界をどう捉えるかは人それぞれ違うし、言ってしまえば何十億人分の世界が存在するわけじゃないですか。個々人が見ている視点がひとつの世界で、その集合体として大きな意味での世界があって。それをワンワードで言いたかった。で、「The Cut」というワードには切り口、見方、視点をはじめ、そこから派生していろんな意味が広がっていくので。映画のカットもそうだし、ギターのカッティングもそうだし。
- Base Ball Bear ミニアルバム「THE CUT」/ 2013年6月26日発売 / EMI Records Japan
- 初回限定盤 [CD] 2000円 / TOCT-29173
- 初回限定盤 [CD] 2000円 / TOCT-29173
- 通常盤 [CD] 1600円 / TOCT-29174
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収録曲
- The Cut -feat. RHYMESTER-
- ストレンジダンサー
- 恋する感覚 -feat. 花澤香菜-
- 64-Minute Live Track From “バンドBのゆくえツアー”(2013/4/25 赤坂BLITZ & 4/28 札幌CUBE GARDEN)
CRAZY FOR YOUの季節 / GIRL FRIEND / 17才 / Tabibito In The Dark / kimino-me / 抱きしめたい / yoakemae / 真夏の条件 / 若者のゆくえ / 祭りのあと
初回限定仕様
- EPレコードサイズの特製紙ジャケット
- 20ページのフォトブックやポストカード、ポスター同梱
Base Ball Bear(べーすぼーるべあー)
小出祐介(Vo, G)、関根史織(B, Cho)、湯浅将平(G)、堀之内大介(Dr, Cho)からなるロックバンド。2001年、同じ高校に通っていたメンバーによって、学園祭に出演するために結成された。高校在学中からライブを行い、2003年11月にインディーズで初のミニアルバム「夕方ジェネレーション」をリリース。その後も楽曲制作、ライブと精力的な活動を続け、2006年にメジャーデビューする。2007年には「抱きしめたい」「ドラマチック」「真夏の条件」「愛してる」といったシングルや、アルバム「十七歳」を立て続けに発表。2010年1月には初の日本武道館単独公演を開催した。バンド結成10周年を迎えた2011年には、シングル3枚とアルバム「新呼吸」を発表。2012年は2度目の日本武道館公演を皮切りに活発なライブ活動を展開し、2013年2月に初のベストアルバム「バンドBのベスト」とシングル「PERFECT BLUE」を同時リリースした。同年6月にRHYMESTERをフィーチャリングゲストに迎えた「The Cut」などを含むミニアルバム「THE CUT」を発表。
RHYMESTER(らいむすたー)
宇多丸、Mummy-D、DJ JINからなるヒップホップグループ。別名「キング・オブ・ステージ」。1989年にグループ結成。ライブ活動を中心に支持を集め、1993年にアルバム「俺に言わせりゃ」でインディーズデビューを果たす。1998年発表のシングル「B-BOYイズム」、翌1999年発表の3rdアルバム「リスペクト」のヒットで日本のヒップホップシーンを代表する存在に。2001年からは活動の場をメジャーへと移し、4thアルバム「ウワサの真相」をリリースする。2007年、日本武道館での「KING OF STAGE Vol.7」公演を成功させるも、これを最後にグループ活動を休止。その後2009年10月にシングル「ONCE AGAIN」で本格的に活動を再開する。宇多丸はラジオ「ライムスター宇多丸のウィークエンド・シャッフル」のメインパーソナリティを務めるほか、テレビなどでも活躍している。Mummy-DとDJ JINは他アーティストのプロデュースなども行っている。2010年にアルバム「マニフェスト」、2011年にアルバム「POP LIFE」とミニアルバム「フラッシュバック、夏。」をリリース。2013年1月には9thアルバム「ダーティーサイエンス」を発表した。