ナタリー PowerPush - Base Ball Bear

小出祐介×宇多丸×Mummy-D 「The Cut」ができるまで

RHYMESTERを迎えて“怒り”たかった

──Dさんはベボベに対してどういう印象を持ってましたか?

Mummy-D

Mummy-D 最初に音源をもらって聴いた印象では、正直「なんでこの人たちが俺たちにオファーしてくれたんだろう?」って理由がわからなくて。今までロックバンドと絡むことがあっても、どちらかといえばサウンドがすごく黒かったり、骨太だったりする人たちからオファーをもらうことが多かったから。ベボベはそういうタイプでもないから意外だった。でも、実際に会ってみて何気にいろんなキャラのいるバンドで、面白いことになりそうだぞって思いましたね。

──小出くんがRHYMESTERにグッときているポイントは枚挙に暇がないと思うんですけど、コラボレーションしたいと思った最大の動機はなんだったんですか?

小出 先ほどお話した通り、僕はラップ表現に対する憧れをずっと抱いていて。バンドを組んでからも挑戦したいと思ったこともありましたけど、向井(秀徳)さんみたいに思いきってやれるほどのスキルもないから。それで呂布と一緒に曲をやったりする中で、もっと深くギターロック表現とラップ表現の交差点を見つけたいなと思って。RHYMESTERを迎えてそれができるなら、こんなに最高なことはないと思ったんです。僕が感じているRHYMESTERの最大の魅力って、楽曲における宇多さんとDさんのバランスなんですね。リリカルなラップを得意とするDさんと、鋭い批評眼に裏打ちされたシニカルな宇多さんのラップが1つになっているのがカッコよすぎると。で、僕がバンド内で2つの視点で1つのテーマを表現しようと思っても、一人称の表現としてまとめにくいんです。うまく混在させることができない。

──主体のバランスを取るのが難しいですよね。

小出 そうそう。じゃあ、Base Ball Bearのフィールドにお2人を迎えて、僕が3人目の目として機能したら、面白い曲ができるんじゃないかと思って。ロックバンドがラッパーを招いた楽曲のモデルケースってある程度あるじゃないですか。でも、僕がやりたいと思っていることは前例のないもので。

──そうなりますよね。新しい交差点を見つけようとしているわけだから。

小出 そう。ミクスチャーロックがやりたいわけじゃないし。だから、ホントに0から作らなきゃいけなかったんです。その0から1にする作業にすごく時間がかかったんですよね。あと、近年の自分の目標として、曲を作るうえで、まず自分の中に歌いたいことがあって、そこから音が出てくる流れを取りたいと思っていて。僕ね、今回は「怒り」を表現したかったんですよ。

──「The Cut」のテーマは端的にいうと「現代人批評」だと思うんですけど、その軸にある感情は怒りで。小出くん、今回かなり怒ってますよね(笑)。

小出 はい(笑)。自分はこれまで怒りを曲のテーマにしたことってなかったんですよね。本来はいろんなことに違和感を覚えて腹を立てているはずなのに、それを音楽で表現できていなかった。それはなぜかと考えたら、ギターロックの制約が影響しているんだなと思って。

──それは主にソングライティングの方法論や切り口において?

小出 そうそう。やっぱりギターロックに曲を落とし込む以上、“歌”になるし。

──確かに小出くんが描く歌詞の物語性を考えたときに、怒りってなかなか入れ込みづらい感情だとは思う。

小出 うん。自分が描く物語の中で明確にエッジをとがらせたまま怒りを入れ込むのは難しくて。そこで、RHYMESTERのお2人を迎えることで、それを実現できるんじゃないかと。

BPM123に着地した理由

──曲作りはどのように始まったんですか?

小出 まず、僕が3パターンのデモを用意してお2人に聴いてもらったんです。結果的に採用されたのはBパターンで。Aパターンはコード進行的にセブンスが多めに入っていて、マイナー色が強く、BPM140くらいの熱い感じ。CパターンはBPM80くらいと遅めで、メロウでしみる感じのコード感で。「イイこと言いたいねえ」みたいな(笑)。

宇多丸 いいこと言わないと成立しないような曲調だったね(笑)。Cもいいねってなったんだけどね。

小出祐介

小出 そう。でも、結果的にBが一番ミニアルバムの表題曲としても機能しそうだし、ライブの画も見えやすいし、一発目のコラボにふさわしいってなって。そこからBを掘り下げる作業が始まったんです。

宇多丸 ここからが長かった!(笑)

──どんな試行錯誤があったんですか?

小出 一番は歌とラップのバランス感かな。やっぱりお2人のラップが強いので。僕が最初に想像していたのは、もっと歌の分量が少なかったんです。ぶっちゃけた話、僕的にはそれでもよかったんです。でも、ミニアルバムの表題曲になる予定だったし、シングルっぽい扱いで作らないといけないってなったら、もっとBase Ball BearとRHYMESTERがコラボしている感じを強く出したほうがいいってなって。あとは、BPMですね。この曲のBPMは123なんですけど、お2人がラップしやすいBPMって125が限度なんですよね?

Mummy-D そうだね。16分(音符)で刻んでいくなら。

宇多丸 それ以上になると、今度はフロウのアプローチが特殊になってくる。例えばテンポに対してハーフで刻んだり、逆に倍テンで刻むところが出てくるとか。ナチュラルに乗せるなら125が限界かなと。

小出 で、一度120くらいに落としたんですけど、そうすると今度はBase Ball Bearっぽくなくなってしまって。特にサビが。

──ああ、ロック的なダイナミズムが弱くなってしまうんですかね。

宇多丸 そうそう、なんか若さの要素がなくなっちゃうんだよね。

小出 それで最終的に123に落ち着いたんですけど。

Base Ball Bear ミニアルバム「THE CUT」/ 2013年6月26日発売 / EMI Records Japan
初回限定盤 [CD] 2000円 / TOCT-29173
初回限定盤 [CD] 2000円 / TOCT-29173
通常盤 [CD] 1600円 / TOCT-29174
収録曲
  1. The Cut -feat. RHYMESTER-
  2. ストレンジダンサー
  3. 恋する感覚 -feat. 花澤香菜-
  4. 64-Minute Live Track From “バンドBのゆくえツアー”(2013/4/25 赤坂BLITZ & 4/28 札幌CUBE GARDEN)
    CRAZY FOR YOUの季節 / GIRL FRIEND / 17才 / Tabibito In The Dark / kimino-me / 抱きしめたい / yoakemae / 真夏の条件 / 若者のゆくえ / 祭りのあと
初回限定仕様
  • EPレコードサイズの特製紙ジャケット
  • 20ページのフォトブックやポストカード、ポスター同梱
Base Ball Bear(べーすぼーるべあー)
Base Ball Bear

小出祐介(Vo, G)、関根史織(B, Cho)、湯浅将平(G)、堀之内大介(Dr, Cho)からなるロックバンド。2001年、同じ高校に通っていたメンバーによって、学園祭に出演するために結成された。高校在学中からライブを行い、2003年11月にインディーズで初のミニアルバム「夕方ジェネレーション」をリリース。その後も楽曲制作、ライブと精力的な活動を続け、2006年にメジャーデビューする。2007年には「抱きしめたい」「ドラマチック」「真夏の条件」「愛してる」といったシングルや、アルバム「十七歳」を立て続けに発表。2010年1月には初の日本武道館単独公演を開催した。バンド結成10周年を迎えた2011年には、シングル3枚とアルバム「新呼吸」を発表。2012年は2度目の日本武道館公演を皮切りに活発なライブ活動を展開し、2013年2月に初のベストアルバム「バンドBのベスト」とシングル「PERFECT BLUE」を同時リリースした。同年6月にRHYMESTERをフィーチャリングゲストに迎えた「The Cut」などを含むミニアルバム「THE CUT」を発表。

RHYMESTER(らいむすたー)
RHYMESTER

宇多丸、Mummy-D、DJ JINからなるヒップホップグループ。別名「キング・オブ・ステージ」。1989年にグループ結成。ライブ活動を中心に支持を集め、1993年にアルバム「俺に言わせりゃ」でインディーズデビューを果たす。1998年発表のシングル「B-BOYイズム」、翌1999年発表の3rdアルバム「リスペクト」のヒットで日本のヒップホップシーンを代表する存在に。2001年からは活動の場をメジャーへと移し、4thアルバム「ウワサの真相」をリリースする。2007年、日本武道館での「KING OF STAGE Vol.7」公演を成功させるも、これを最後にグループ活動を休止。その後2009年10月にシングル「ONCE AGAIN」で本格的に活動を再開する。宇多丸はラジオ「ライムスター宇多丸のウィークエンド・シャッフル」のメインパーソナリティを務めるほか、テレビなどでも活躍している。Mummy-DとDJ JINは他アーティストのプロデュースなども行っている。2010年にアルバム「マニフェスト」、2011年にアルバム「POP LIFE」とミニアルバム「フラッシュバック、夏。」をリリース。2013年1月には9thアルバム「ダーティーサイエンス」を発表した。