音楽ナタリー Power Push - 佐々木亮介(a flood of circle)×住野よる(「よるのばけもの」作者)

バンドマン×小説家のシンクロする思い

a flood of circleが1月18日にニューアルバム「NEW TRIBE」をリリースする。これに合わせて、音楽ナタリーではフロントマン・佐々木亮介(Vo, G)と最新作「よるのばけもの」を上梓したばかりの小説家・住野よるとの対談を実施した。

「よるのばけもの」は、a flood of circleの「月面のプール」(2013年発売のアルバム「I’M FREE」に収録)を“主題歌”に書かれたという注目作。今回は、以前から住野よるの著作を愛読していた佐々木と、彼が作り出す楽曲を愛してやまない住野よるに互いの作品の魅力や共感を覚える点、それぞれがリスナーや読者に伝えたい思いを語り合ってもらった。

取材・文 / 中野明子 撮影 / 上山陽介

「よるのばけもの」の主題歌はこれだ!

佐々木亮介 住野先生の小説はいち読者として読んでいたので、ライブに来ていただいているという話を聞いたときびっくりしました。

住野よる ありがとうございます。

佐々木亮介(Vo, G)

佐々木 その上、新作「よるのばけもの」が「月面のプール」を聴きながら書いていたというんでうれしくて。ただ、今日初めましてなので緊張してます。

住野 僕もめっちゃ緊張してます。実際お会いするとすごい柔らかい感じですけど、ステージ上だとロックスターですよね。

佐々木 ちょっと照れちゃうな(笑)。住野先生のことは本やインタビューでしか知らなくて、今日は聞きたいこといっぱいあるんですよ。普段から音楽をかけながら小説を書いているんですか?

住野 というよりは、アイデアを練っているときに、勝手に小説に合う曲をいくつか選ぶんです。

佐々木 テーマソングみたいな感じで?

住野 はい。散歩しながら話を考えているときに、頭の中でミュージックビデオみたいに小説の場面を思い浮かべるんです。「よるのばけもの」は「こんなストーリーにしようかな」ってぼんやりとイメージがあったときに、「AFOC 10th Anniversary“THE BLUE TOUR -青く塗れ!-”」のある公演に行って。そのときに、ライブでひさしぶりに「月面のプール」を聴いて勝手に「『よるのばけもの』の主題歌はこれだ!」って思ったんです。

佐々木 うれしいなあ、それは。

住野 書き始めてからは、「月面のプール」を頭の中で流しながら「よるのばけもの」のシーンをいろいろ作っていきましたね。「よるのばけもの」で書きたいことに、「月面のプール」がリンクしているような感じがしたんです。

住野よるの“本体”に触れる佐々木亮介(a flood of circle)。

佐々木 「よるのばけもの」は夜のシーンがたくさんあって、そのシーンは曲のひんやりした空気が近い気がしたんですよね。歌詞の世界と小説がリンクしているというよりは空気感が似てる。実は「月面のプール」って僕にとっても特別な曲なんです。

住野 そうなんですか?

佐々木 a flood of circleが昔バラバラになりかけた頃があって。そのときに1人で弾き語りを始めて、そのときに書いた曲で。初めてバンドのためではなくて、自分1人のために書いた曲なんです。バンドが危機的な状況でいろいろプレッシャーを感じていたときに、とにかくいいメロディを書くことで解消しようと思って書いたんです。俺もけっこう歩きながら曲を作るんですけど、「月面のプール」は寒い日に夜歩きながら考えてできた曲なんですよ。そういう意味でも空気感が近いのかもしれない。

どの国に行っても音楽だけは変わらなかった

佐々木 小説が「夜になると、僕は化け物になる。」っていう1文で始まりますけど、これはフランツ・カフカの「変身」の出だしを意識したんですか?

住野 あ、そうではないんです。カフカを意識するだなんて恐れ多い! そもそも、「よるのばけもの」はその1文を言いたいがために書き始めたんです。

佐々木 俺もある1節を歌いたいがために曲を作るってことがあるからわかります。

住野 基本小説を書くのは夜なんですけど、褒めてもらえる小説を書いてる夜の自分と、人見知りが激しい超ダメな昼間の自分の二面性を「よるのばけもの」の中で書きたいと思ったんです。

佐々木 そうなんだ。俺はスピッツの音楽に衝撃を受けて音楽を始めたんですけど、本でも映画でも音楽でも触れた瞬間今までの世界が変わっちゃうような作品やアーティストが好きなんです。で、住野先生の作品はどれも好きなんだけど、「よるのばけもの」が一番そういう感覚を覚えたんです。いじめという問題に取り組んでいるのもそうだけど、「この世にもともとあったこと」がたくさん書かれている気がして。今まで誰も書かなかったことが書いてある気がしたんです。

住野よるの“本体”。

住野 ありがとうございます。「よるのばけもの」は過去2作に比べて、読者さんに寄り添おうと思ったんです。極端なことを言えば、「よるのばけもの」の主人公の“あっちーくん”やクラスで浮いて、いじめられているヒロインの矢野さつき側の子たちに向けて書いた。それ以外の人が読んでも、何を言っているのかわからないくらいの小説でもいいと思ったんですよ。

佐々木 だからなのか。すごい優しい視点の小説だなと思ったんです。

住野 「たくさんの人に読んでほしい」じゃなくて「君に読んでほしい」って気持ちで書いたところがあります。

佐々木 ところで、なんで表現方法として小説を選んだんですか?

住野 佐々木さんがスピッツに出会ったように、最初に出会ってハマったエンタテインメントが小説だったんです。宗田理さんの「ぼくらの七日間戦争」なんですけど。そのシリーズをずっと読んでて、それが高じて僕も小説を書きたいなって。

佐々木 ベルギーの小学校に通っていた頃、俺も図書館で「ぼくらの七日間戦争」読んでました。でも、それを読んで小説を書こうと思ったのはすごい。

住野 いやいや、ホントに人とうまくやれないから、内側に潜っていった結果なんです。

佐々木 俺もそんな感じでギター始めました。小さい頃はいろんな国を転々としてたから友達が変わってたんだけど、音楽だけは変わらないんですよ。いつも自分の傍にいた。どこの国で聴いても、どの曲をどこでプレイしても感じる思いは変わらなかったんです。

a flood of circle ニューアルバム「NEW TRIBE」2017年1月18日発売 / IMPERIAL RECORDS
「NEW TRIBE」
初回限定盤 [CD+DVD] / 3780円 / TECI-1534 / ※初回盤のみ「ホログラムジャケットステッカー」仕様
通常盤 [CD] / 3240円 / TECI-1535
CD収録曲
  1. New Tribe
  2. Dirty Pretty Carnival Night
  3. Flyer’s Waltz
  4. BLUE
  5. ジュテームアデューベルジャンブルース
  6. Rock’N’Roll New School
  7. El Dorado
  8. Rex Girl
  9. Rude Boy’s Last Call
  10. The Greatest Day
  11. Wolf Gang La La La
  12. Honey Moon Song
初回限定盤DVD収録内容

2016.12.1 Billboard Live Tokyo「a flood of circle 10th Anniversary Climax “X’mas Party!!!”」ライブ映像
※バイノーラルレコーディング選択可

  1. Christmas Time
  2. コインランドリー・ブルース
  3. 月面のプール
  4. BLUE
  5. Party!!!
  6. I LOVE YOU
a flood of circle(アフラッドオブサークル)
a flood of circle

佐々木亮介(Vo, G)、HISAYO(B)、渡邊一丘(Dr)による3人組。2006年に結成。2009年4月に1stフルアルバム「BUFFALO SOUL」でメジャーデビューする。ブルース、ロックンロールをベースにしつつ最新の音楽要素を吸収したサウンドと、佐々木の強烈な歌声や観る者を圧倒するライブパフォーマンスで話題を集める。結成10周年を迎えた2016年には初のイギリス・ロンドン公演や海外レコーディングを行ったほか、自主企画ライブイベント「A FLOOD OF CIRCUS 2016」や東阪のBillboardLiveでワンマンライブを開催。2017年1月に7枚目のオリジナルアルバム「NEW TRIBE」を発表し、3月から全国ワンマンツアーを行う。

住野よる(スミノヨル)

小説投稿サイト「小説家になろう」に投稿していた「君の膵臓をたべたい」が注目を集め、同作で2015年にデビュー。2016年2月に2作目の小説となる「また、同じ夢を見ていた」、12月に「よるのばけもの」を発表する。なお「君の膵臓をたべたい」は実写映画化が決定しており、浜辺美波と北村匠海(DISH//)のダブル主演で2017年8月に全国公開予定。