「ベイビー・ドライバー」|エドガー・ライト、カーアクション、音楽──3つのキーワードで徹底解説 赤ペン瀧川の解説動画も

長谷川町蔵が解説! キーワード3:音楽

エドガー・ライトの音楽オタクぶりが全開

「ベイビー・ドライバー」より。

2010年の「スコット・ピルグリム VS. 邪悪な元カレ軍団」では劇中バンドの楽曲をベックに依頼し、2013年の「ワールズ・エンド 酔っぱらいが世界を救う!」ではプライマル・スクリーム「ローデッド」の冒頭のセリフ(映画「ワイルド・エンジェル」からのサンプリング)を作品全体のテーマに昇華してしまったエドガー・ライト。「ベイビー・ドライバー」ではこれまで以上に彼のそんな音楽オタクぶりが全開になっている。主人公が始終音楽を聴いているという設定のもと、選ばれた楽曲は30以上、ジャンルや時代も多岐にわたっている。

英国人的な選曲センス

「ベイビー・ドライバー」より。

映画を観て改めて思ったのは、エドガー・ライトって英国人なんだなということ。挿入曲自体はアメリカ産R&Bが多めなのだが、その選曲が実に英国人的なのだ。

主人公ベイビーが踊るように街中を歩くタイトルバックで流れるのは、ボブ&アールが1963年に発表した「ハーレム・シャッフル」。アメリカでは最高44位のポテン・ヒット曲だけど、英国では最高7位の大ヒット。1986年にはローリング・ストーンズがカバーしてシングルカットまでされている。それほどまでにこの曲が英国で評価されたのは、本国以上に英国での評価が高いR&Bレーベル、スタックス・レコードのサウンドに影響を与えたからだろう。

そのスタックス・レコードからはサム&デイヴ「僕のベイビーに何か?」やカーラ・トーマス「B-A-B-Y」といった、主人公の名前“ベイビー”に言及するナンバーが選ばれている。この2曲を作曲したのが後にソロアーティストとして成功するアイザック・ヘイズで、彼の代表曲「シャフトのテーマ」のイントロをサンプリングしたヤングMCによるラップチューン「Know How」もさりげなく流れたりする。このへんのライトの選曲センスの冴えには唸るしかない。

「デボラ」で意気投合!理想の “ボーイ・ミーツ・ガール”

「ベイビー・ドライバー」より。 「ベイビー・ドライバー」より。

前述の「B-A-B-Y」を口ずさみながら登場するのが本作のヒロイン、デボラだ。彼女とベイビーは、ポピュラーな名前のわりにデボラという名前に言及した曲がほとんど存在しないことを話し合って意気投合する。

デボラ自身が挙げる数少ない例外はベックの「デボラ」。1999年のアルバム「ミッドナイト・ヴァルチャーズ」収録曲で、1970年代中期のデヴィッド・ボウイとプリンスが合体したかのような、ベックらしからぬセクシーなソウル・バラードだ。

対してベイビーが挙げるのがT・レックスの「デボラ」。正確には彼らがまだティラノザウルス・レックスと名乗っていた1960年代に発表したシングル曲で、アコースティック・ギターとボンゴだけの演奏をバックに呪文のような歌詞が繰り返される。これも後年のグラムロックのイメージからはかけ離れた曲だ。そのアーティストにとっての異色曲について平然と語り合う男女。現実離れしたシーンかもしれないけど、エドガー・ライトにとっては、これぞ理想的な“ボーイ・ミーツ・ガール”の光景なのだ。

なお「ベイビー・ドライバー」というタイトル自体も、サイモン&ガーファンクルの同名曲からの引用である。この曲も静謐でフォーキーな彼らの一般的なイメージと異なる陽気なロックンロールチューンだ。

「ベイビー・ドライバー」
2017年8月19日(土)より全国ロードショー
「ベイビー・ドライバー」

ストーリー

子供の頃の交通事故で両親を亡くし、後遺症の耳鳴りに悩まされ続けている青年・ベイビー。しかし彼は音楽を聴くことで耳鳴りをかき消し、天才的な運転テクニックを覚醒させてイカれたドライバーに変貌する。銀行や現金輸送車を襲う組織で“逃し屋”として仕事をこなしていたベイビーだったが、ある日行きつけのダイナーのウェイトレス・デボラと恋に落ちる。組織に彼女の存在を嗅ぎつけられたベイビーは、危険な仕事から足を洗うことを決意。自ら決めた最後の仕事として、郵便局の襲撃に挑むが……。

スタッフ / キャスト
監督・脚本:エドガー・ライト
キャスト:アンセル・エルゴート、リリー・ジェームズ、ケヴィン・スペイシー、ジェイミー・フォックス、ジョン・ハム、エイザ・ゴンザレス、ジョン・バーンサル、CJ・ジョーンズ、フリー、スカイ・フェレイラ、ラニー・ジューンほか