コミックナタリー Power Push - 渡瀬悠宇

バカが付くほどの真面目さ発覚 熱い冒険ロマン、『凛花』で待望の再始動

「武将に謝れ!」

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──でもそれは、我々読者側の問題というのもあると思います。そういったドラマツルギーより、属性とかキャラ萌えとかって部分でもてはやすような風潮とか。

確かに時代の空気が軽くなってきてる気はします。自分ももっとライトなほうがいいのかなとか、萌え要素を入れたほうがいいのかなーとか……一瞬見失いそうになったりするんですけど。伝えたい核の部分が読者に届かないのなら、描く意味がもうないよなって思っちゃいますね。ノリだけで「なんかいいじゃん、なんかカワイイしいいじゃん」っていうのが性格的にダメなんですよ。あの、「歴女」とか流行ってますよね。

──戦国武将にキャラ付けして、盛り上がるようなムーブメントですね。本格歴史ものへの入口としては機能していると思いますが。

あれ正直ね、「武将に謝れ!」と思いましたね(笑)。国取りのため命がけで戦ってきた人たちだし、とかつい思ってしまって。特に分別の付かない少年少女向けにそういう楽しみ方だけを与えてしまうというのは、影響が小さくないと思って、心配なんですよ。

実生活でも戦ってる

──お話を伺ってると、真面目すぎるくらい真面目な方だなあと思えてきました。バカが付くくらいの、というか(笑)。

うーん……。最近はある意味、生真面目すぎるのがしんどいなあ、そこが自分の弱点かなとも思うんですけどね。

──「もっと適当だったらいいのに!」とか。

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そうですね、要領がよくないんですよね。生き方も、たぶんマンガの描き方も要領がよくなくて。アシさんに任せればいいところまで、全部自分でやっちゃうんです。ここ1年くらいでそれに気がついて、やっと「この柄お願いします」とか頼めるようになってきました。服の柄とか、ずーっと全部自分で描いてたんですよ。

──この細かい柄までですか! そういえば先生は、凝った衣装を描かれるのお好きですよね。

いつも「もうしんどい、めんどくさい!」って文句言いながら描き上げるんですけど、気付いたらまた自分で描いてて。結局きっと好きなんでしょうね。衣装に凝るというよりは、ばっと頭の中にできてしまったイメージに近づけようと。

──なんだか作品を生みだすために、いつも戦ってる感じですね。そして作品でも「ふしぎ遊戯」「アラタカンガタリ」そして「妖しのセレス」と、アクションシーンというか戦う作品が多いです。

そうですね。なんか戦ってるんですよね。私の作品って、戦ってるか、破壊されてるか(笑)。実生活がけっこう戦ってる感じがあるからかなと思うんですが。

──マンガを描くことだけじゃなく、ですか?

それもあるし、私生活でも毎年病気に襲われたりとかして。痛みと戦いながら激痛の中描いたりとか。で、激痛なんだけど、描いてると楽しくなっちゃって笑ってたりするので、本当にマゾだなと思うんです……(笑)。

──戦いを通じて伝えたいこととか、描きたいものがある?

これまで学園モノとかもたくさん描いてきましたけど……なんか物足りないな、日常のいざこざとか、ちっちゃいなーって思ってて。もっと命賭けてみろよ! 命賭けてなんか掴みとれよ! って思うところがあって。

月刊flowers7月号増刊「凛花」 2010年6月14日ごろ発売 / 定価830円(税込) / 小学館

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連載を再開する渡瀬悠宇「ふしぎ遊戯 玄武開伝」は、これまでのあらすじが誌面で丁寧に説明されているので初めて読む人でも楽しめる。このほか西炯子「娚の一生」スピンオフシリーズ、 岩本ナオの読み切り「夏の桜」、水城せとな「失恋ショコラティエ」、田村由美「猫mix幻奇譚とらじ」など、見逃せない作品揃いの全22本を掲載。

渡瀬悠宇の既刊コミックス

「ふしぎ遊戯 玄武開伝」(1)~(9)

「ふしぎ遊戯 玄武開伝」(1)~(9)

「ふしぎ遊戯 玄武開伝」(1)~(9)

あらすじ

時は大正時代。多喜子は、反目しあう父・永之助が訳した中国の書物「四神天地書」の中に突然吸い込まれる。降り立った異世界で、多喜子は自分が“玄武の巫女”だという運命を知らされるが……。

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渡瀬悠宇(わたせゆう)

自画像

大阪府出身、3月5日生まれ。1989年少女コミック(小学館)掲載の「パジャマでおじゃま」でデビュー。1998年に「妖しのセレス」で第43回小学館漫画賞受賞。代表作は「ふしぎ遊戯」、「思春期未満お断り」、「櫻狩り」など。現在週刊少年サンデー(小学館)にて、「アラタカンガタリ~革神語~」を連載中。