コミックナタリー Power Push - 渡瀬悠宇

バカが付くほどの真面目さ発覚 熱い冒険ロマン、『凛花』で待望の再始動

あの「ふしぎ遊戯」が帰ってくる──。90年代にマンガのみならずアニメ、ゲームなどのメディアミックス展開で一世を風靡した異世界冒険シリーズの最新作「ふしぎ遊戯 玄武開伝」が、約2年ぶりに連載を再開するのだ。掲載誌は月刊flowersの増刊・凛花(小学館)。旧“ふし遊”を知らない読者にもやさしいのはもちろん、旧作ファンが楽しめる仕掛けが随所に凝らされている。

なぜ休載していたのか、そしてなぜ今再開するのか。コミックナタリーでは、その疑問を解き明かすべくインタビューを敢行。そこには画業20周年を迎えた渡瀬悠宇の、マンガへ懸ける並々ならぬ熱い思いが込められていた。

取材・文/岸野恵加 編集・撮影/唐木元

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しんどい道を選びたい。そのほうが成長できるから

──「ふしぎ遊戯 玄武開伝」の再開を心待ちにしていた読者の方も多いと思いますが、2年前に休載を決めた時はどんな心境だったんでしょう。

それはもちろん心苦しかったんですけど、他の表現をしてみたい! っていう欲求が高まってしまっていて、「ふしぎ遊戯」に集中できなくなってる部分もあったんですね。悩んだ末、今は違う作品を描くほうが結果的にプラスになるだろうと思って「アラタカンガタリ」に着手しました。毎日忙しく働いてる人が、旅行とかでリフレッシュするのと同じ感覚ですね。マンガのリフレッシュが別のマンガってのもおかしな話ですけど(笑)。

インタビュー写真

──「櫻狩り」は終わりましたが「アラタカンガタリ」は連載中での再開です。どのくらいの仕事量を普段こなしてらっしゃるんですか?

今週は「玄武開伝」再開号に加えて「アラカン」2号分を描きためなければならなかったので、100枚近くぶっ通しで描きつづけました。苦しいんですけど、楽なほうに走っても作家として成長できないと思うんです。量だけじゃなくてわざと難しい表現をやってみたりとか、難しい構図に挑戦したりとか、チャレンジし続けていればどんどんうまくなるかなーと思って。ずっと修行してる感覚なんですよ。

──自分を追い詰めたい、じゃないですけど、試練を与えたい性格なんでしょうか。

そう、言ってみれば、“マンガマゾ”なんですよね(笑)。こうやったら楽だろうな、っていうことはいろいろあるんです。例えばデジタルでの作画は「トーン貼り速そうだなー」って思うんですけど、やっぱりアナログ主義というか職人気質のところがあって、なるべくしんどいほうを選びたい。でも目指してるところにはまだ全然到達できていないですね。昔より少しは描けるようになってきたかなあ、くらい。マンガは、奥が深すぎて。

──昨年で画業20周年を迎えられましたが、ご本人にとってはそんなのまだまだという感じですか。

まだまだですね。ベテランの先生からしたら全然「甘い!」って言われるだろうなーっていつも思ってますよ。もっと、シンプルにシンプルにしたいんですよね。

ただ人間がいるだけで、ドラマになるのが本物

インタビュー写真

──シンプルに、というのは具体的にどういうことでしょう。

設定を削ぎ落としていきたいんです。「櫻狩り」なんかも、例えば大正時代の見世物小屋がどういうものだったとか、海軍がどうのとか、特殊な設定を提示しようと思ったらいくらでもやれたと思うんですよ。でもそういう設定に一切頼らず、ただ人間と人間がいるだけでドラマを作れるのが本物だろうな、と数年前から考えていて。まあ少年少女向けは若干ファンタジーな設定でやったほうがウケはいいんですが、奇をてらったような設定は邪魔に思えてしまって……。

──いわば能のような、ソリッドな舞台でどこまでやれるか試したくなった?

設定を並べることをストーリーテリングだと勘違いしてしまっている作品が多いように思うんです。そこの区別ってすごい難しいんですよ。私も新人のときに、「これは設定なのかストーリーなのか」って考えて、わからなくなる時があったんですね。本当は設定を抜きにしても展開していくものがストーリーであって、設定はただの舞台装置なのに。

──ではまだ先の話ですけど、「玄武開伝」も「アラカン」も終わったら、次にやってみたいのはもっともっとシンプルな。

そうですね。「アバター」って映画がありましたけど、あれを単純なよくある物語だっていう意見を耳にして、「あれがどんだけ作り込まれてるか!」って憤りましたよね。ものすごく深いテーマを入れてるのに、子供が観てもわかるように、しかも2時間半の尺でまとめたっていうのは、すごい手腕ですよ。複雑に描くのなんて簡単で、どこまでシンプルに、万人に世界共通で分かるように描けるかが本当だろうと。だから私、映画を観てからずっと「キャメロンすごい、キャメロンになりたい!」って言ってるんです(笑)。

月刊flowers7月号増刊「凛花」 2010年6月14日ごろ発売 / 定価830円(税込) / 小学館

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連載を再開する渡瀬悠宇「ふしぎ遊戯 玄武開伝」は、これまでのあらすじが誌面で丁寧に説明されているので初めて読む人でも楽しめる。このほか西炯子「娚の一生」スピンオフシリーズ、 岩本ナオの読み切り「夏の桜」、水城せとな「失恋ショコラティエ」、田村由美「猫mix幻奇譚とらじ」など、見逃せない作品揃いの全22本を掲載。

渡瀬悠宇の既刊コミックス

「ふしぎ遊戯 玄武開伝」(1)~(9)

「ふしぎ遊戯 玄武開伝」(1)~(9)

「ふしぎ遊戯 玄武開伝」(1)~(9)

あらすじ

時は大正時代。多喜子は、反目しあう父・永之助が訳した中国の書物「四神天地書」の中に突然吸い込まれる。降り立った異世界で、多喜子は自分が“玄武の巫女”だという運命を知らされるが……。

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渡瀬悠宇(わたせゆう)

自画像

大阪府出身、3月5日生まれ。1989年少女コミック(小学館)掲載の「パジャマでおじゃま」でデビュー。1998年に「妖しのセレス」で第43回小学館漫画賞受賞。代表作は「ふしぎ遊戯」、「思春期未満お断り」、「櫻狩り」など。現在週刊少年サンデー(小学館)にて、「アラタカンガタリ~革神語~」を連載中。