コミックナタリー PowerPush - 松江名俊「トキワ来たれり!!」
「史上最強の弟子 ケンイチ」の松江名俊、最新作! “全部やることにしました!”の学園バトル誕生秘話
「史上最強の弟子 ケンイチ」の松江名俊による最新作「トキワ来たれり!!」は、平凡な文系少年・八坂トキワを中心とした不思議な学園ドラマ。ブログ小説が趣味で友達も少ないトキワと、その周りに集った忍者の末裔・カナタ、不思議な力「源術(ソーサリー)」を操るハルカ、ヒューマノイドのマキナといった濃すぎる面々による、騒々しい日々が描かれていく。
コミックナタリーでは4月17日に単行本2巻が発売されることを記念し、松江名へのインタビューを敢行。週刊少年サンデー(小学館)のヒット作「ケンイチ」終了から新連載立ち上げまでの経緯や、自らのマンガ創作に対する姿勢についてたっぷり語ってもらった。
取材・文/安井遼太郎
サンデーを盛り上げてほしいとの依頼が最初にありました
──まずは約12年間の長期連載となった「史上最強の弟子 ケンイチ」を終わらせ、「トキワ来たれり!!」を立ち上げるに至った経緯から聞かせていただければと思うんですが。
最初に「とにかく、サンデーを盛り上げてほしい」と編集長からの依頼がありました。創刊55周年を記念して、1年間で55本の新連載を立ち上げるというプロジェクトの中で、「ケンイチ」を終わらせて、ぜひ新連載をやってくれないかと言われました。
──「ケンイチ」を終了させることについて、葛藤などはありませんでしたか。
「ケンイチ」は読み切りから月刊連載、そして週刊連載へと、10年以上描き続けた非常に思い入れの強い作品で、やっとクライマックスに持ち込めたところだったので……正直このまま楽しく描き続けたかったのが本音です。ですがマンガのスパンから考えると、あそこからすべてを回収して終わらせるとなると、多分あと2年以上はどうしてもかかってしまう。じゃあ2年後にサンデーがどうなってるか……ということを考えて悩みぬいた結果、微力なれど私も新しいものを描こうと決断しました。当初のスケジュールでは60巻で完結する予定となっていましたが、その時点からすべての話数を増ページにすることで「新連載第1回のタイミングを動かさずに、同じスケジュールの中もう1巻分描く」という無理を通させていただきました。連載終了と新連載との間がほぼないのはそのためです。
──スタート時にはまず3作のプロローグ読み切りを掲載し、その最後に読み切りのキャラクターが全員登場する新連載について予告する、という仕掛けでも話題を呼びましたね(参照:「ケンイチ」の松江名俊、次号サンデーから新連載!読切3作のキャラ登場)。
やはり「少しでもサンデーを盛り上げたい」っていうのが決断の理由だったので、あの仕掛けについても「雑誌で読んだときに一番面白く見える方法ってなんだろう」っていう切り口からスタートしました。どうすれば週刊で読んだ読者が一番楽しめるか、自分なりに考えた1つのかたちです。
──確かに。バラバラだと思っていた読み切りの世界が実はすべてつながっていた、という驚きは単行本ではなかなか味わえないですよね。松江名先生ご本人も、雑誌にかける思いは強いものなんでしょうか。
個人的には、雑誌というのは多くの人が乗っている船みたいなものだと思っていまして。その中では作家同士全力で戦うのが当然のルールです。編集部との関係も、もちろん仕事ですからドライな部分もあるんですが、かといって自分の作品がよければ船に穴が開いてもいい、という考えはあまり得意ではなくて。
──そこはやっぱりお互いプロ同士のルールというか。
どんな作家もデビューのときには、必ずこの船が必要になります。後の人々のためにも、そこは礼儀として守りたいなあと。
色々やりたいことがあったので、全部やることにしました
──「トキワ来たれり!!」のキャラクターはそれぞれが読み切りの主人公ですから、どれも主役を張れるぐらいの濃さを持っていますね。各キャラクターはどのように作っていかれましたか?
昔描いた読み切りのネタから、少しずつ膨らませていきました。短編集の「史上最強のガイデン」をお読みになった方には、気付かれた人もいるかと思うのですが。
──確かにプロローグ読み切りの「DEMIII」と、短編集に収録されている「超人ハラショー」のビジュアルなど、共通する部分が見受けられますね。
最初はプロローグ読み切り3つのうち、どれか1つを選ぼうと考えていました。でもマンガ家人生、特に週刊少年誌連載という過酷なスケジュールに身を置ける期間はそう長いものではないなと思って。そこでいつもの悪い癖が出て「よし、全部やろう!」と。
──キャラクターを大量に出したことで、収集がつかなくなったりする懸念はありませんでしたか。
もちろん大いにありました。読み切りと連載では、同じマンガでも大きな技法の違いがあります。例えば読み切りの2作目にあたる「ハルカ」だと、主人公のハルカとそこに転がり込んできた少女の逃避行が描かれるわけですが……種明かしを先送りすることで読者を引っ張っていき、最後には女の子の名前を聞いて、それで物語は終わります。つまりなぜ彼女が追われているのかとか、ハルカがソーサリアンになった理由とかはわからないままにすることで、読者の想像に語りかける技法を使っているわけですが。
──連載となると、それらについて説明をしなくてはならなくなる。
はい。だから読み切り3回分それが溜まっているわけなので、連載が始まって少しすると、説明ばかりの回が避けられなくなります。
──読み切りで積み残していた説明を読ませる、というのは確かに難しそうです。
難易度にして通常の3倍ですね(笑)。新しい試みをやればマンガのリズムもセオリーから離れていくので、そこからは作家の手腕が問われます。作品を安定したラインに乗せるまであらゆることをするわけですが……それは結構大変な作業になるだろうなという思いは、始めの方からありました。
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松江名 俊(マツエナ シュン)
2月11日生まれ。東京都出身。血液型A型。「騎士と旅人」がまんがカレッジ佳作に選ばれ、サンデー増刊に掲載された「バルハラの門」でデビュー。少年サンデー超で「戦え!梁山泊 史上最強の弟子」を連載後、週刊少年サンデー本誌(ともに小学館)にて「史上最強の弟子 ケンイチ」を長期連載。2015年現在、同誌で「トキワ来たれり!!」を連載中。